実家
「俺たちの本当の夢を、おまえになら託せる……話したい。連れて行きたい場所がある」
ピグトニャの眼差しに射抜かれ、無言で頷く。
「おまえの上司に、外出の話つけてくる」
「あ、でも、マスコミが……」
「……俺はとある違法な魔法を知ってる。変身よりバレにくい。マスコミの穴はそれで抜けよう」
「また違法行為を!?」
「人の迷惑も考えないマスコミの方が悪い」
「た、たしかに……」
その場で内線をかけ、外出許可をとったピグトニャは、よし、と立ち上がり、手を差し伸べてきた。
「他人に使うのは難しいが、自分と一塊だと認識できればいける。腕を組むぞ」
「手を繋ぐとかじゃダメなの?」
「なんでおまえと手を繋がなきゃいけないんだよ……いいか、ピグイタンでは恋人や子ども以外とは手を繋がない。手っていうのはタイピングに使う大事な部位なんだから、易々と明け渡してはならなくて……おまえ、他の男から手を繋ごうとか言われたらちゃんと警戒しろよ」
ピグトニャのお説教モードが発動してしまった。迂闊だった。
「ご、ごめん。日本でもまぁそんな感じだから……そんな誰彼構わず繋がないよ、心配しなくても大丈夫。ちょっと疑問だっただけ。ピグトニャがやりやすい方法でいいよ」
「……そうか。じゃあやりやすいようにしよう……おまえを気遣っていたが、気が変わった。いくぞ」
「え、ちょちょちょ」
次の瞬間、私の体は宙に浮いた。お姫様抱っこのような、ロマンチックな担がれ方ではない。米俵のように担がれている。
「いや絶対目立つって」
「俺がいいというまで喋るな。出るぞ」
言われるがままに黙る。ピグトニャは堂々と人々の間を縫っていくが、誰もこちらを見ない。それも、気にしていないというレベルではなく、ピグトニャと私ごと認知していないようなのだ。遠慮なく私たちの進路に飛び出してくるのを、ピグトニャは器用に避けた。おそらく、慣れているのだろう。ジムのキッズたちを避けたのもこの魔法か。
そのままさらっと外を出て、マスコミの包囲網も簡単に潜り抜ける。ずいぶん久しぶりに感じる街並みの中を、透明人間になったみたいに歩く。実際、透明化の魔法なのかもしれない。光魔法の応用でできそうな気がする。
「降ろすぞ。降りたらしゃべっていい」
担がれた瞬間の無遠慮さと比べると、幾分か丁寧に降ろされた。
「ここ、セレンゼ神殿……?」
「来たことあるか?」
「いや……いつも眺めてただけだし、この裏手の方には来たことない。礼拝、出てみたい気持ちはあるんだけど、ハードル高くて」
「裏は立ち入り禁止だしな。礼拝行くなら、姉さんが主任司祭を務める日にしとけ。パパの説教は姉さんより長い」
良い豆知識だ。
「この裏口から入る」
「いけるの?」
「そりゃ実家だから。鍵もあるし」
がちゃがちゃと少し古い鍵を開け、中に入ると、想像よりも狭めの玄関がお出迎えしてくれた。目の前には短い廊下が続いていて、その奥にも扉がある。それも鍵を使って開けると、今度はそれなりにひらけた空間に出た。
「ここは大神官殿。大神官の家、つまり俺たちの実家」
「へ〜。実家とはいえ、お父さんに言わず勝手に入っていいの?」
「居住空間はもっと先だから大丈夫。それに、これから行くところは……俺と姉さんには、いつでも好きな時に、勝手に入る権利があるって言われてる。ただ、他人を入れたのは怒られるかもな。でも……話すなら、そこがいい」
ピグトニャの歩みについていく。いくつかの部屋を超え、その中には魔法か何かで隠匿された入り口もあり、外から見るよりずっと広い空間を歩き回ってるような感覚がした。実際にそうなのかもしれない。ポータルがあるということは、外よりも内が広い空間は、実現可能ということだ。
「ここだ」
ピグトニャは軽くノックをして、返事を待たずに扉を開ける。ノックは儀礼的なものなのだろう。
「また来たよ……ユーシャ」




