メシア
ピグトニャはコロネとのやり取りを確認し終えると、はぁ、とため息をついた。
「セクレタ・スピオノ軍曹は前々から疑わしかった……尻尾を掴みかけたと思ったら、コロネ・ココロ二等兵のボヤ騒ぎ。実際彼女は優秀だった……少なくともセクレタよりは。アレの仕事が全部自分の仕業であったかのように見せかけ、一時捜査を撹乱した。コロネの階級も同じ軍曹だったら、この作戦は成功しただろう。上の指示なのか、彼女の独断専行かはわからないが……身代わり説は間違いない」
「だよねー」
「この国にあと何人の工作員がいるのかと思うと、気が遠くなるな」
こちらも送り込んでいるから、人のことは言えないが。そうピグトニャは呟き、それから私を見る。
「何か言うことは?」
「……コロネを多国籍隊に入れてくれて、ありがとう。ピグトニャがなんとかしてくれたんでしょ?」
「そうだが、そうじゃない。本来彼女は捕らえられるべきだった……だが……みんな、賭けてみたくなったんだ。俺だけじゃない……みんなが、だ」
彼は多国籍隊の自己紹介カードをペラペラ弄びながら、くすくす笑う。
「勇者様の人心掌握術に」
私は苦笑した。そんなに大したことはしていないつもりだけれど、そう見えるのか。
「多国籍隊は……本当に重要な仕事には従事できないだろうし、コロネもそこに閉じ込めちゃえば安全かなと思っただけだよ。いわば飼い殺しっていうか……でも、どうせ飼うなら幸せに飼ってあげたい」
「おまえって……よくわかんない性格してるよな。ドライなのか、お人好しなのか……」
「お人好しだよ。殺したらいいと思ってもできない。だから、次善の策をいつも探してる。ピグトニャさ……前に、殺すか、死ぬか、って話したよね」
彼は真剣な顔つきになる。
「私はね、どちらも選びたくない……人を殺すのが最善なら、殺さない次善の策を選ぶ。けれど、それより愚かな策は選ばない。コロネも、ヴェーラも、オリバーも……その先に多分、勇者の称号があると思ったの」
前の勇者は、立ち向かうものはすべて斬るような、圧倒的力の象徴だったという。けれど私は、目指すなら聖セレンゼだ。チェレーゼがそう言ってくれたから。私は私の気持ちに正直に生きる……そのときこそ、一番強い私になれる。
「じゃあ、次善の策なんかなくって、殺すしかない、そんなときがきたら……俺がやるよ」
「……え?」
「ヘイト管理は大事だからな。おまえはみんなに愛されなきゃならない。その点俺はアンチスレ立ちまくり。今更何しても変わらない」
彼は頬杖をついているが、苛立ちは感じない。明るい諦めといった顔をしている。
「俺がおまえの騎士になる。剣として代わりに殺し……盾として返り血を浴びる。おまえの手だけは汚させない。おまえは救世主になり得るからだ」
私が動揺を隠せずにいても、彼はすこしも揺らがない。
「この星は勇者を欲してる。真の勇者にはなれなかった、俺たちの夢を……継いでほしい」




