ソメヤ中尉
「我が君……ソメヤ様は……どのような態度がお好みですか?」
「……態度?」
自室。つまりガネットと共有の部屋で二人きりになった私たちは、今までとは異なる……主と僕という関係性になっていた。といっても、何をしたらいいか分からず、今後どう関わっていけば……と密かに悩んでいたのだが、ガネット側から質問してくれた。ありがたいことだ。
「先ほど我々は主従関係の契りを交わしました……しかし、これを公表する必要はありません。例えば……私はピグトニャ様とも契りを交わしておりますが、ピグトニャ様が主従関係を表に出したくないようですから、日頃は単なる同僚のように接しております。ちなみに、他に契りを交わした方はおりません。唯一の神に誓い、本当です」
「はー、なるほど」
「勿論、常に我が君、ソメヤ様とお呼びし、敬語を使い、傅くことも厭いません。主たるあなたのご意向に従います。しかし……主従関係が敵にバレると色々と厄介であったりしますし、単に変な目で見られたりもしますし、公表される方は少ないです」
「私は前みたいに接して欲しいです。ソメヤさん、で。タメ口でいいですし……年齢的にもそっちの方が自然だし」
「……いえ、タメ口は不自然になります」
「え?」
彼女はタブレットでメールを見せてくる。どうやら、誰かの異動内示が出ているらしい。
件名:内示通達について
宛先:全課メールボックス
本文:
各 位
X月X日付で次のとおり異動がありましたので、添付のとおり通知いたします。
添付ファイル:
名 前:ソメヤ・イストゥール
旧所属:第4部隊 → 新所属:多国籍隊
旧階級:上等兵 → 新階級:中尉
「中尉!?」
「ちなみに、私は少尉になりました。私の方が下ですので、私が敬語を使うのが自然です」
「どうして私が中尉に!?」
「お忘れですか? ソメヤさんが連れ帰ったソラージル支部の兵のこと……彼らをまとめあげるのは、あなたしかいません。この多国籍隊というのも、中身はほとんどあの残党です。彼らの身分について……あくまで支部間の異動であり、捕虜や違法な脅迫ではない、とピグイタン側は主張しています。それを、あなたが本当にするのです」
そう言ってガネットは、A4のプリントの束を手渡してきた。そこには、先日捕らえてきたソラージル兵たちの名前や素性、好きな食べ物、趣味、ピグイタン支部に異動する意気込み……などが書かれていた。
これは……自己紹介カードだ! なんか新卒で入ったときに書かされて社内報で晒されたようなやつ!
「身辺調査するにしても……ソメヤさんはこういうやり方がお好みだろうと、ピグトニャ様がおっしゃったので……作ってみました。勿論、詳細なデータも別途用意しています」
「天才すぎる……ありがとう! これさ、写真ももっと楽しそうなやつ本人に出してもらってさ……もっとみんなに見てもらおうよ!」
「喜んでいただけてよかったです。お時間があるなら、多国籍隊の活動として、冊子にしたり……なんなら、Web公開しても良いかと」
「やるやる! みんなこういうのを通じて、同僚が人間であることを知るわけだから。1年後にもう一度書いてもらって比較とかしたいよね、全然変わらない人もいれば、ピグイタンに馴染みすぎて全部変わる人もいるんだろうなぁ」
「それも楽しそうですね。……そのとき、ソメヤ様がいてくださるのなら」
「あっ……」
すっかり浮かれて、自分がいずれ地球へ帰ってしまう身であるということを忘れていた。
「……勇者、ソメヤ・イストゥールとしての一歩は、確かに始まりました。あとは駆け上がるのみです。帰り道は鋭意作成中ですが……別に、使わなくても良いのです。我々の願いを果たした後は……お帰りになるも、こちらに残るも……ソメヤ様の御心のままに」
「……そのことさ、普段、あまり考えないようにしてるんだよね。結論を出すのは……本当にそのときにならないと、できない気がして」
「ソメヤ様……」
「ごめんね。湿っぽくなって。とりあえずこれ全部読んどく! 今はこの子たち、捕虜室に入っちゃってるんだもんね……早く助けてあげなきゃ」
「かなり丁重に扱ってはいます。小競り合いと手続きで待たせてしまいましたが……その点、理解してはもらえているかと。自己紹介カードも、みんな素直に書いてましたし。明日顔合わせすれば、明後日からは訓練を開始できるかと思います」
「本当? ありがとうね。はぁ、考えること多いな……これだけで勇者にはなれないわけだから、今度はこの子達を育て上げて、みんなで武勲を立てたら勇者になれるかな」
「みんなで……よりは、ソメヤ様の力を、全世界に示す方が良いんじゃないでしょうか。またプロジェクトチームで話し合いの場を……」
そのとき私は嫌な予感がして、人差し指を立て、唇の前に持っていった。地球と共通のジェスチャー……静かに。ガネットは唇を閉じ、こくりと頷く。
「ねえ誰? 部屋わかんなくなっちゃった? ここは私たちの部屋だよ」
ドアの向こうにいる何者かは、ぴたりとも動かず、音も立てない。私は目を閉じ、その何者かに意識を向けた。<固有魔法:リーダビリティ>……しかし、弾かれてしまった。
「意図して私たちのこと盗み聞きしてるんだ。いいよ、おいで。今なら許してあげる」
「……」
外側にいる何者かは応えない。
私はそろそろとドアの元へ辿り着き、ゆっくりドアノブに手を伸ばして、一気に開け放した。上手くいけばドアに押されて転ぶんじゃないか、ダメだとして去り行く姿だけでも見られないかと思ったのだ。しかし、周囲を探しても探しても、工作員らしき者は見つからない。私は、半分は確信、半分は当てずっぽうで叫んでみた。
「誰だかはわかってる! まだどこかにいるんでしょう!」
「……」
「話したければまた来て! 今度はノックして! 連絡くれれば人払いもする!」
「……」
「待ってる!」
今度こそ、誰もいなくなった。私は静かに扉を閉めた。




