雑魚のお守り
「奮い立て!」
私はタイピングをしつつ、軍全体へ口承で
肉体強化をかけて補助する。間に合わせにしかならないが、簡単に突破されるのはまずい。無事効いたようだが、むしろそれが混乱を生んでしまった。
「口承だけの基礎魔法でこれだけ……」
「何者……? 単なるプロじゃ……」
「私語は慎め!」
イシューは叫び、無線で全体へ指示を出す。
[立て直せ! 精神兵はっ……できる者は前方から優先して<正位置>を! できない者はッ……ソラージル軍に<混乱>を! 盾兵隊の指揮は……ガネット上等兵に任せる! 彼女は元ピグイタン軍大佐である!]
[こちらガネット、了解! 盾兵一同……後ろには民間人の家屋がある! 私が全員保護しているうちに……大魔法Cの型を用意! 衝撃に備えよ!]
下は下で頑張っている。白兵戦の泥試合だ。
「これってもう一回ひっくり返したら……」
「ダメだ! この地帯全体が陥没する恐れがある! 前にも言ったろ、この手の魔法は一度でも使ってはいけない……! アザゼルはこの土地も! 自軍の兵の命さえ! なんとも思わない男だ!」
「よくわかってるねェ、優男のピグトニャ君は……そうやって女を手籠にするんだ、勉強になるなぁ。そのお人好しはお国柄か……」
アザゼルから放たれる属性不明のエネルギー弾を、私は全て反承で消滅させる。彼は感心したように口角を上げる。
「それがピグイタンの国力を損なう……素早く、強く、気骨のある……こんな優秀な魔導士を、雑魚のお守りに使うのか?」
アザゼルを睨み返すと、ピグトニャがすっと私の前へ出て、彼の火球から熱を奪い始めた。火のあるところには風が、風のあるところには火が生まれる。彼から風の加護を奪いつつ、ピグトニャの土台に持ち込む気だろう。
「ああそうだよ。ソメヤ上等兵……雑魚のお守りをよろしく頼む」
「一人で平気? ……ですか? ピグトニャ総司令」
「あまり舐めるな」
私は降り立つ。ピグトニャのテレパシーで指示を受けながら。はいはい、わかったよ。できるだけかっこよく、インパクトを出す、ね……。どうやら彼は、私ひとりでこの状況をひっくり返すことをお望みらしい。実際、当初の作戦だった、森の中に追い立ててみんなで勝つ、といったことはできそうにない。私は無線でイシューと通信する。
[各自自分に防御を張れ! 1分……1分だ!]
私の連絡を受けたイシューの声が全軍に伝わり、兵は自ら防御魔法の詠唱を始める。私は頃合いを見計らってEnterを押す。口承のみで戦ってきたのは、この魔法を打つためだ。
「水よ我に従え、我が仲間を掬い出せ」
大量の水がピグイタン軍のみを選別し、大波の中へ流してゆく。こちらの動きに気づいたアザゼルが凍結の魔法を放つが、もとより彼の得意魔法ではない。口承で弾き返す。
「我が国の劣化版……ピグイタン式口承なんぞが!」
「1分」
水は隊列を綺麗に治し、私の周囲へ集まってゆく。私の前にはソラージル支部軍……水の壁の後ろに自軍。
[ソメヤくん……]
[イシュー少佐。私とピグトニャ総司令がすべての戦力に対応するので……他の兵は民間人への被害が最小限になるように動いてください]
[……頼まれた]
にわかにソラージル支部軍にも動揺が走っている。あれだけ大量の水を瞬時に……そして、精密に操作する。それを一人で行うのは大魔導士の所業であり……大魔導士というものは、世界にそう何人もいていい存在ではないからだ。しかも、敵国に……。
「民間人を人質にして、有利にことを進めようとしても無駄だ! できるものならやってみろ……」
水はますます勢いを増し、高く高く聳え立つ。蒸発させようとあらゆる魔法が襲いかかるが、追いつかず水面にさらわれる。
「私に膝をつかせてみろ!」




