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遭遇


 楽しい二日間の休暇も、厳しいヤースベツの訓練も終わった。ガネットは私の力を見て相変わらずビビってはいたけれど、それでも、極力今までと変わらないように接してくれている。一方で、イシューは私を「人間核兵器」と称し、扱い切れるか不安そうにしていた。


『大丈夫、イシュー少佐。俺もいますし』

『ピグトニャ様……』

『それに……プライベートにおけるソメヤは、単純に……いいやつなので。仲良くしてあげてください。そしたら扱い方もわかります』

『ピグトニャが私を褒めるとは……』

『おい』

『あっ、えと、ピグトニャ様がわたくしを褒めてくださるとは大変勿体無いお言葉……』

『そこまでやるな。ふざけてんのか。私語は慎めって意味だ』

『申し訳ありません!』

『……ダメだ。友人と同じ軍の上司と部下ってやりづらすぎる。おまえ基本黙っとけ』

『パワハラ上司……』

『おい』


 しょうもないやりとりだが、この後ガネットが思わず笑ったので、なんだか打ち解けあった気がして嬉しかったし、より話しやすくなった。ピグトニャ(パワハラ上司)という共通の敵のおかげである。とはいえ、それがあってもなお、出会ったばかりの頃のような、気軽な関係には戻れていない。私の力……人を怯えさせるほどの、天賦の才。今までずっと抑えてきたこれを……今回は、好きなだけ解放していいらしい。


 使うべき時が来たら、躊躇わない。たとえ味方まで恐れさせようとも。


『おまえを禁忌だの化け物だのと呼ぶ奴がいたら……俺はまた怒る。何度でも。おまえが自分で怒れるようになるまで。おまえは……仲間、同志、友……そういったものだ。そうでない呼び方は許さない』


 ピグトニャはこう言っていた。その気持ちは嬉しい。彼は私を本当に……友だと思ってくれている。けれど私は、彼とはちがう結論を導き出そうとしている。私は……つい数ヶ月前まで、タイピングが少し早いだけのOLで、暗い道で木々がざわめくだけで、わずかに警戒心を強めるような弱者だった……。だから私にはわかるのだ。私に怯える人たちの気持ちが。


 無線が震える。


[戦闘隊! 配置につけ!]

「了解!」


 皆が叫ぶ。盾兵が前に出て、私は時が来るまで他の精神兵と共に後方へ。近隣の民衆は炊き出しへ誘導済み。前方右側に森……できればそこまで誘導したい。


「なんだか物々しいねェ……同じ軍の仲間だというのに」


 空々しい声が空中から響く。情報を見上げると、30代半ばほどに見える男が、飄々とした態度で浮遊していた。


──事前情報と合致している。間違いない。名高いソラージルの大魔導士……アザゼル・フーリーだ。


 ピグトニャも浮遊し、我々戦闘隊よりも前へ出る。


「お久しぶりです、アザゼル卿……先ほど我々の輸送隊に、ソラージル支部よりちょっかいをかけられたと連絡があったので、警戒していました……お邪魔でしたか?」

「嗚呼、お久しぶり、ピグトニャ君……輸送隊の件は申し訳ない。うちの隊員は短気でね……本来うちに来るべき魔導士が、他国に渡るのが許せないのだよ」

「相変わらず、拉致同然のやり方をする。輸送隊ごとかっぱらおうとするなら、こちらとて全力で守る他ありません。彼らはもう我が国民ですから」

「はー、君が来てくれさえすれば、こんな小物のために怒らずに済むんだけど……どう?」

「行きません」


 彼らの睨み合いはしばらく続いたが、指示を出したのはソラージル側が……アザゼルが早かった。


[撃て]


 輸送隊車両のタイヤが狙われ、中から悲鳴が聞こえる。すでに3名の魔法適性者と、その家族5名を保護していた……ガリガリに痩せ、すでにこれ以上ないほど苦しんでいる人たち。これ以上ないほど怯え、震えきっている人たち。自身に魔法適性があるとも知らず生き……皮肉にも、ソラージルの開発した技術によって見出され、ピグイタンに救われる人たち……。


 ソラージルを誘き寄せるための餌として、わざと戦闘箇所近くに配置された人たち。


『あるいは、激しい差別を受けて命を失い続けているズィギズを、同胞として救うべきじゃない?』


 コロネの言葉が重くのしかかる。そう、救われるのは魔法適性者とその近しい人だけ……非適性者(ズィギズ)は救われない。このピックアップという事業は、選民的だ。その上、救い出す人でさえ、囮として利用する。非人間的だ……そう言われれば、否めない。本当は全員助けたい。だとしても……まずは、できることを。囮に使ったからこそ……全力で守り切る義務がある。


[輸送班! 盾兵は輸送車両にシールドを貼り、技術班は車両修復! 戦闘兵はそのまま車両近辺で待機、襲撃に備えよ。車両動けるようになり次第進め!]

「了解!」

[戦闘班! 輸送車両の方向へ敵軍を行かせるな! 盾兵は味方全体への防御付与を! 精神兵は戦意高揚! 他の者は戦闘準備!]

「了解!」


 各隊列へ指示の音声が響く。私は精神兵として戦意高揚の手伝いをするべきか迷ったが、すぐに指示が来た。


[ソメヤ上等兵! ピグトニャ総司令の元へ行け!]


 私はこの数日で使い方を叩き込まれた無線機に、ありったけの戦意を……吐き出す。


「了解!」

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