病室にて
「お久しぶりです、ソメヤ様」
「チェレーゼ……! 会いたかったぁ!」
チェレーゼは点滴やよくわからない装置を取り付けられ、手元のリモコンで角度が調節できるベッドに寝ていた。すこしやつれたように見えるが、顔色は思ったよりも悪くない。喋り方はいつもよりゆっくりとしている。
「国際軍はどうですか? 第4部隊に配属になったとか。私も一時期出入りしていましたが、独特な雰囲気でしょう」
「まーだいぶ変な人ばっかりだね! でも変なだけっていうか、みんないい人だよ。慣れればむしろ、普通の人間関係より楽かも」
「それはよかった……ソメヤ様も、変わった方ですからね」
彼女はくすくす笑う。病床でも煽るんだ。チェレーゼも結構変な人だと思う。
「あ、そうだ……この紙束を持っていってください。面会時間が短いので、情報共有はこれで。スマートフォンは取り上げられてるんです。ネットを見て、変に精神を刺激されたら困るって」
「ふふ、たしかにね」
「あぁ、でも、ピグトニャがソメヤ様をホテルに連れ込んだって噂は聞きましたよ」
「姉さん……それもういいから……もういいって本当に……」
どうやらピグトニャはこのネタで頻繁にいじられているらしい。私もピグトニャに気のある女の子たちからしつこく聞かれている。二人してため息をついたが、そのタイミングが被ってしまい、チェレーゼは病人ながらに大笑いしはじめた。私はもう無視して、チェレーゼからもらった紙束を確かめる。ピグイタン語の巧拙は私にはわからないが、読めはする。ポータルにとりあえず入れようとして、ピグトニャに止められた。
「鍵付きのカバンを持って来てるからこっちに入れろ。その上で俺のポータルにしまう。後で今までの分も共有するから」
「あーたしかに、その方がむき身でポータルに入れるより安全だねえ」
「……それもあるし、お前のポータル、どうせぐちゃぐちゃだろ。たまに中身リスト出して整理しろよ。名前さえ覚えてない、雑に投げ込んだやつとかあるだろ」
「あー、はは。ははは……」
図星なので、笑う以外なにもできない。が、代わりにチェレーゼが追撃してくれる。
「あら、それ、言える立場ですか? 昔私が言ったことにそっくりです。まあ……一人暮らししてからは整理整頓も頑張るようになりましたもんね、可愛いピグトニャ」
「……その、可愛いとか、それもやめてってば……」
元々二人の距離は一般的なきょうだいより近いが、なんとなく、より縮まっている気がする。ピグトニャがシスコンなのはわかりきっているが、どちらかと言えば、チェレーゼの雰囲気が変わった。それできょとんとしていると、チェレーゼは私の心を読んだかのように、微笑みながら言った。
「愛に飢えた子には与えてあげないと。ピグトニャには、ここ数年、少し……冷たくしてしまったなと思っていて」
「え、え!? アレで!? 十分仲良くない!? 私の前だけ!?」
彼女は続ける。
「それは実際、あると思います。そう、ソメヤ様がいると何故か……気兼ねなく話せる。それは何故か? 時間だけはたくさんあるので……考え続けて、気づいたんです。私は……ピグトニャの前で、いえ、ソメヤ様以外の誰の前でも……、あまり素直でなかったなと」
「私関係あるの?」
「ありますよ。ソメヤ様の前だと、なんとなく……気がほぐれるんです。素直になれる……なってしまうんです」
私は、私のことを、「国母聖セレンゼの精神に通じる」と言ってくれたときのチェレーゼを思い出した。自分がそんな立派な人間だとは思えないが、立派じゃないからこそ……異界から来たフーテンだからこそ、人の中身を引き摺り出しやすい、ということはあるのかもしれない。
「私はいつも、次期大神官としての振る舞いが拭いきれず、ピグトニャを不穏分子とさえ見ていたんです……仕事の、大義の、信仰の、ために……。私は、そういう人間、で……それは以前、お話ししたとおりですね。でもピグトニャは、私を姉さんと呼んでくれる。スラムにいた頃からずっと、変わりなく」
「……」
「それで……私は、入院生活中だけでも、名無しの私、なんでもない私として生きて……その欲するところに、忠実になることにしたんです。あぁ……でも、やっぱり、今日の今日まで、本当にしたいことはしてこなかった。ソメヤ様のおかげで、今なら言える気がします……ね、可愛い弟、手をかして」
「手?」
ピグトニャは言われるがまま、自分の椅子をベッドの方へ近づけ、すっと片手を差し伸べる。チェレーゼは、悲しくなるぐらいゆっくりとした動きで、それを確かめる。こんなに元気そうに話していても、やはり大怪我の後なのだ。そのまま両手でピグトニャの手を握りしめ、自分の胸の方へ……ナイフを突き刺した場所まで、持っていく。
「私は、あなたを抱きしめ、背中をさすり、あなたの慰めになりたかったのに……真反対のことをしてしまった。今からでも償えるなら……せめて手だけでも、握らせて」




