エリー
「俺は固有魔法を他人に使えない……だから、この魔道具を使う」
「なにそれ」
「これはとある人間の固有魔法を再現した魔道具で……パパの悪趣味な自作武器のひとつ。<エリー>って呼ばれてる。中身はオリジナルより弱いんだが、魔力反応自体は固有魔法にかなり近い異質さを持つし、魔法の内容的にも練習にちょうどいい」
「へえ」
「この中に入ってるのは<セーフティ・ボックス>……動きは姉さんの天啓に近いんだが、違うのは、姉さんのは<ハンティング>……本質的には奪う魔法であるのに対し、こっちは<金庫>、所有権は移動せず、安全に保存して持ち主に返す、というのが主軸である点だ」
「具体的には?」
「姉さんの固有魔法は、魔力のみにしか使えない上、100もらって1返す暴利でも成立する。ただし、その1はその場で即座に返さなければならない。対して<セーフティ・ボックス>は、ただもらったものを預かり、任意のタイミングで返すだけ。対象にはほぼ制限がない。返すタイミングも術者の任意で、開かずの金庫にしたっていいし……たとえば、敵の受けたダメージを一時的に預かり、一気に返すなんてこともできる。別人には返せない、中身に細工もできない」
「へー」
「そんな魔法の劣化版が、この禍々しい銃みたいなのに入ってる。だいぶ単純化されていて……このボタンを押すと……」
そう言ってピグトニャはゴーレムに銃を向けた。
「単純な攻撃。さっき俺やソメヤが投げた火球ぐらいのしょぼい球。これは天啓関係なくて、しょぼい魔道具だと思わせるためのブラフ」
しょぼいといっても、防御魔法無しで喰らったら重症だけども。
「そんでこのボタンを押すと……実は同じ程度の火球が打たれているんだが、何も起きない。<チャージ>と俺らは呼んでた。相手は、相当カンが鋭くないと、当たってることにさえ気づかない。俺らは画面のここを見れば、<ロック>した対象に命中したかわかる。命中しなかったエネルギーは大気に変換され、散らばる」
「ふむ」
「そして何発か打った後、このボタンを押すと……」
ゴーレムの体が半壊する。自己修復も追いつかないのか、地面に倒れ、ボロボロと崩れていく。
「このとおり、預かっていたダメージを返す。オリジナルはコレをもっと複雑に、自在に使えたというから、恐ろしいな」
「あ、あのー……今更だけど。誰のだかわからないとはいえ、天啓をべらべら話していいの?」
「あー……大丈夫。オリジナルはもう死んでるし……パパも、オリジナルの許可を取ってコレを作ってるから。なんか、大昔の恋人だったらしい」
「え、じゃあエリーって……」
「ああ、その人の名前だ。気が狂ってるが、この銃がパパなりの愛なんだろ」
「怖……」
「だから似た天啓を持つ姉さんにばかり修行をさせたって説もある」
「キモ……」
ひとしきりドン引きした後、私はさっきまでゴーレムがいた位置に立たされた。
「まずは<チャージ>をお前に向ける。固有魔法特有の違和感……この感覚を覚えろ」
「ひぃ〜……」
「合図するからビビるな! さっき攻撃魔法を見極めた時と同じようにやれ。いいか」
「がんばる……」
「よし、いくぞ。3……、2……、1……、」
音もなく何かが自分の方へやってきてぶつかったらしいが、1回では全然わからない。ピグトニャは「3、2、1」と繰り返しながら何度も撃ってくる。
感じろ……基礎魔法ではない魔法の異質さを……。
3、2、1……その声が、私に一種の催眠状態を引き起こしているようにさえ感じられる。3、2、1……この魔法の手触りを考えろ……。3、2、1……普通の防御魔法の仕組みを思い出せ……。
『基礎防御魔法ってのは、単なる魔力の盾ではない。あれは、半自動的に向けられた攻撃を分解し、無効化する。これを反承と言う。この反承の仕組みが、実は精神魔法と感覚が近い。基礎を使いこなすものは、全てを制する。第4部隊の諸君、盾兵のようにあらゆる防御魔法のエキスパートになれとは言わない。しかし、基礎防御魔法は極められる……君たちの力なら。それがひいては、兵全体の士気にもつながる』
「反承は……襲いくる波を制し……打ち消すこと……」
反対の波を使って打ち消す……人の心を凪にするときの仕組みと同じように……。そのために必要な、固有魔法特有の動きは……? ほとんど手触りが感じられないが、そんなことはないはずだ……絶対に何かがある……何かが……普段は前髪のそよぐ感覚など忘れているが、確かに存在するのと同じで……意識すればどこかに……。
「ここだ!」
「おー、今当たらなかったな」
「やったー!」
「じゃあそれをもっと無意識でできるまでやるぞ」
「うわ……」




