固有魔法を防御する魔法
ピグトニャが「コレと付き合うわけあるか……」という嫌そうな一言でサルーニャを安心させた数分後。コレ呼ばわりされた私と彼は、ジムの練習試合用コートをひとつ貸切にさせてもらい、防音魔法をかけた。ここで『固有魔法を防御する魔法』を教えてもらえるらしい。
「なんだかんだ、ここが一番信頼できる」
「長い付き合いだもんね」
「ああ。変なものが仕掛けてあればすぐわかる」
「そういう方向だったか……」
「?」
ついツッコミを入れてしまったが、長年良くしてもらったとか、そういう感情に流されないのはいいことである。私は「よーし、やるぞー!」などと言って適当に場の空気を変えた。
「まぁ、仕組みは単純だ。防御魔法とは違う点がいくつかある。何回聞いてもいいから、メモは取るな。信仰、政治、統治、治安維持などいろんな事情があるんだが、あまり善い魔法ではないとされる……自力で辿り着くか、継承によってしか広まらない、秘められた魔法だ。いいか」
「はーい」
私の気の抜けた返事を聞き、彼は仁王立ちして親指をくっと横へ向けた。ピグイタン式、"1"のジェスチャーだ。
「ひとつ……常時一定の力で発動していること。と言っても、起点となる詠唱は必要だ。一度詠唱すれば、終わりの詠唱をするまで止まらない。バフとかは要らないし、威力の差という概念がない」
「うんうん」
ピグトニャは手を揺らしながら、横向きの銃のようにして、ふたつ、と言った。初めて来たとき、チェレーゼがこうして説明してくれたなぁ。数を数えるときにゆらゆらさせるのは煽りではなく、ピグイタン共通の仕草だと最近わかった。
「固有魔法に特化していること。固有魔法っていうのは、要するに基礎魔法のどの属性にも当てはまらない異質な魔法ってことだ。これが鍵になる。そして、固有魔法以外への防御としては機能しない」
「ふむふむ」
さらに手が揺れる。
「みっつ……本人の精神強度に依存する。魔力よりも、精神状態のほうがずっと大事になる。姉さんが一瞬乗っ取られたように……。常に意識しろという意味ではなくて、むしろ自然体でいることが大事。……詐欺に遭うときって異常な心理状態にさせられるっていうだろ? アレになるとまずい」
「詐欺……」
「高額で布団を売りつけられるとか、高利貸しに有る事無い事吹き込まれてズルズル債務から抜けられないとか……」
「また地球と一緒だ……」
どの国も異界も変わんないんだな、とピグトニャは呟きつつ、うごうごと何かを作っている。
「これでいいか」
「なにこれ」
「ゴーレム。ちょっと例を見せる。でも俺の天啓は使えないから、あくまで例だ。イメージの補助だと思って欲しい」
ゴーレムはおもちゃのブロックで作ったみたいな姿をしていて、ピグトニャの指示に従って、歩いたり敬礼したりできた。
「まずこいつに防御魔法をはる……これを、今から教える魔法だと思ってみててくれ」
「うん」
「そんでこの、適当なエネルギー弾を固有魔法とする」
「うん」
「今このゴーレムは俺に忠誠を誓っている。忠誠を誓う俺の固有魔法は……」
ゴーレムの腹に穴が空き、じわじわと修復されていく。
「無抵抗に飲み込まれる。次はソメヤが同じように攻撃してみてくれ。ごく軽い力でやれよ」
「もー、ジムを壊すとかは、入門試合からあんまりしてないって。ええっと……えい」
「あんまりって……まあいい。ゴーレムはソメヤを敵だと見做してる。故にソメヤからの攻撃には過敏だ。固有魔法を受け入れず弾き返す」
「うん」
「これは人間の免疫に近い。この魔法は自分の心を参照して、受け入れていいか? 悪いか? を、脳より先に判断する。属性としては、防御と精神を掛け合わせた応用魔法だ。よかったな、得意分野で」
「へぇ〜」
そういう仕組みなのねー、と感心していると、ゴーレムくんがツカツカとこちらへ歩いてきた。何の用だろう。




