久しぶりのバラーズ・ジム
ジムに赴くと、本来土曜には来ないメンバーも、私に会いに集まってくれていた。魔法プロチームのグループチャットに「久々に行くよー」と投稿しておいてよかった。
「うわージムだー! みんな集まってくれてありがと、久しぶり! コーチ、テス、ユアンナ、アマリ、スーザン、ジズ……(10人ほどの名前)……元気してた!?」
「そんなに久々じゃないでしょ」
「そんなことないよ、テス! だってもう2、3週間ぐらい来てなかったんだよ!? あのタイピングゲームのお題が2回更新されてんだよ!?」
「ランキングにソメヤの名前を見かけなかったから寂しかったよ。寮じゃできないの?」
「できるんだけど肉体訓練も結構あって疲れててさ、記録粘着はちょっと避けてて……スーザンは2週連続1位だったね」
「ちゃっかり確認はしてるんだ。先週と先々週は得意なワードでね。今週も1位を狙うつもりだけど……そんなに得意じゃないし、2位がちょっと手強い。更新ギリギリまで打つことになるかな」
私がジムの仲間たちとついつい話し込んでいると、ピグトニャが軽く私の肩を叩いてきた。
「ソメヤ……嬉しいのはわかるがあまり時間ないからそろそろ……」
「あっごめん! でももう一人だけいい!?」
「はぁ……もっと早めに集まるべきだったか……」
現在午前11時。打ち合わせは14時からで、面会時間は17時までだ。打ち合わせが何時まで続くかわからないから、できればその前に面会を済ませておきたい。お昼ご飯を食べることも考えると、すごく時間があるわけではない。でも、私にはどうしても会いたい子がいた。足取り軽く、キッズクラスに向かう。
「今日来てるのかな〜……あ、いた! ピグトニャも来て!」
「俺も?」
訝しげにするピグトニャを無理やり引っ張り、扉を開けた。目当ての子どもに向かって、私は手を振る。
「サルーニャ!」
「! ソメヤ!」
先日のクエストで助けた女の子、サルーニャだ。相変わらず表情にぎこちなさがあるものの、嬉しそうに、わずかに口角をあげた。まだ片脚がおぼつかないのか、杖をつきながらこちらへ向かってくる。だが、彼女がこちらに辿り着く前に、他の子ども達がこちらを見て、席を立ち始めた。足音が不規則なリズムで私へ襲いかかる。
「ソメヤ選手だ!」
「ねーサインちょーだい!」
「うわわわ、ちょいちょい、待ってよ。まだブーム過ぎ去ってないのか」
「この動画みたよ!」
少年が私に見せてきたのは、『【10連戦】<期待の新星ソメヤ>VS<鉄の女スーザン>勝つのはどっち!?【TYPE_WAR】』という動画だ。TYPE_WARはこの国ではベーシックな対戦型タイピングゲームで、純粋な速度がものを言う。当然、ピグイタン最速に近いスーザンには勝てたことがない。つまりこれは、魔法の使えない純粋なタイピングにおける私の無様な姿を、10連続面白おかしく切り取った動画である。
「あーそれユアンナが面白がってアップしたやつ……!」
「あれやって! 負けたーっ!!! てやつ」
「ぎゃはははは!!」
このガキども、何が面白いのか、私の負け様を真似して大笑いしている。どうやら私はインターネットでおもちゃになっているらしい。私がクソガキにいじられている間にも、サルーニャは悲しそうにぽつんと立っている。どうしよう、と思ったら、同じく有名人のはずなのになぜか子ども達に見向きもされないピグトニャが、スッと横を通り抜け、サルーニャの元へ向かってくれた。気配を殺す魔法みたいなのがあるんだろうか。それとも、このジムの子どもはピグトニャに慣れきっているのだろうか。
「サルーニャ、久しぶり」
「ぴっ、ピグトニャ、様……!」
「様付けなんかしなくていいよ。元気そうだね、よかった」
「はいっ……元気です! あの、その、お休みの日の午前中と、火曜と木曜はジムに通うことになって……」
「そう。速度は上がった?」
「いっ、いま、C3ぐらいです……」
「すごいな、始めたばかりなのに。俺がピグイタンにきたばかりの頃は、もっとかかったよ。頑張ってるね」
そうして彼が頭をぽんぽんと撫でてやると、サルーニャは耳まで真っ赤になった。嬉しそうでなによりだ。私がなんとか子どもたちを落ち着けて席へ帰し、彼女の元に辿り着いた頃には、照れすぎて何も喋れなくなっていた。
「久しぶり、サルーニャ」
「あ、ソメヤ……やほ」
さっきの笑顔はどこへやら、邪魔するなとばかりに、少し睨みつけられる。悲しい。しょぼくれていると、さっき私の負けを煽ってきたクソガキが、ピグトニャをめざとく見つけて叫んだ。
「あーピグトニャ選手だー! やっぱソメヤと付き合ってんのー!?」
「え……ソメヤ……ほんと……?」
「サルーニャ! 誤解! 誤解だからそれ! デマだって言うのもう10回目ぐらいだよ〜……」




