不穏な通知
「……って言われて。なんでコロネ二等兵がそんなこと知ってるんでしょう?」
寮の部屋に戻り、ガネットへ声をかける。大抵の兵士はもっとぎゅうぎゅう詰めにされて過ごすらしいが、私は勇者候補プロジェクトの機密保持のためにガネットと二人部屋なので、非常に気楽だ。国家の犬でよかった。
「……おおかた、口の軽い、若い士官でもいたんでしょ。あの期待のルーキー、ソメヤ・イストゥールが来る……って。ピックアップは紛争調停と比べたら安全な仕事だし、恐れることはないわ」
「そうですか」
「それにしても露骨ね、部隊訓練中に実戦に連れて行かれることなんか普通ないわ。しかも、まだ入隊して1週間ちょっとしか経ってないのに……それだけ何かを急いでるってことかしら」
「あれ、ガネットさんはどこの部隊なんですか?」
「私はピグイタン軍での実績があるから、部隊訓練は免除よ。盾兵隊にいる。さっきのチームにもうまいこと潜り込むから、安心して! 防御はどこでも必要だから」
そう言いながらガネットはスマートフォンを見て、顔色を変えた。私が不思議そうにしていると、「プロジェクトチャット見て、今すぐに」と言われる。慌てて先日入れてもらったプロジェクトの全体チャットを見ると、こんな通知が来ていた──。
@ソメヤ・イストゥール
@ガネット・ザクロ
CC:@ピグトニャ・イグノジー
国際魔法連合軍ソラージル支部が、チェレーゼ神官様療養の声明が出た後すぐに緩衝地帯入りし、何もせず待機している、という不穏な情報が入りました。目的はおそらく、ピックアップのためにいずれ訪れるピグイタン人への攻撃や拉致と思われます。
そのため、数日後に通知があると思いますが、ソメヤさんとガネットさんには、ピックアップチームの一員として緩衝地帯入りしていただき、他のピグイタン人を保護していただきます。ピグトニャ様も、急遽同行することとなりました。ソメヤさんとピグトニャ様がいれば問題はないと思いますが、十分気をつけてください。
「チャットでいう内容!? 気をつけてくださいって軽く言うじゃん! てか半国営みたいな軍が拉致って、テロ国家すぎない?」
「ソラージルはテロ国家よ。ピグイタンとは明確に敵対関係にあるし……ショドーの仲裁がなければ、国交断絶してるわ」
「怖……」
「非魔法適性者の権利を主張した良心的な国民を強制収容所に入れたり、国から逃げた親子を公開処刑したりしてるらしいわ」
「やば……」
私はドン引きしながら、「敵がいるのがわかってるならやめられないんですか?」と尋ねる。ガネットは首を振った。
「おそらく、上の本音はソラージルと交戦してほしいのよ。緩衝地帯って、そういう、戦争未満の小競り合いをする土地でもあるの……チェレーゼ神官様がいなくてもピグイタンは戦えると示さないと、舐められるから。ただでさえ勇者様が不在なんだもの……チェレーゼ神官様とピグトニャ様以外、恐るるに足らずと思ってんのよ向こうは」
「ひえ……」
「安全って言ったけど、嘘ね。撤回する……ここで死ぬなら勇者の器ではない、そう思われてるってこと」
「怖いよ〜……あ、ピグトニャからメッセージ来た」
私は通知をタップし、メッセージアプリを開く。
[チャットみたか?]
[見た]
[ガネットさんとおまえと俺で打ち合わせがしたい。時間外で悪いが、次の土曜日の午後2時から空いてるか、ガネットさんに聞いてくれ。おまえには他にも話すことがあるから朝から来い]
[私だけ?]
[朝10時に純喫茶エデンで]
[(純喫茶エデンの位置情報)]
[(了解 と書かれた絵文字で反応)]
「ガネットさん、土曜の午後2時からって空いてますか? ピグトニャが、休日に申し訳ないけど打ち合わせしたいって」
「……ええ、勿論。何もないと怖いわ。行かせてもらう」
「じゃあ3人のグループチャット作っときますね」
「ありがとう」
ガネットが、ぽつりと、軍より怖いわ、と言った。軍とはピグイタン軍のことだろう。
「同じ軍だから、国同士の抗争じゃなくて内輪揉め……そう言えるってことだものね」




