コロネ・ココロ
私とピグトニャの仲を聞いてきた女性兵士は、コロネ・ココロという。階級は二等兵だし年下だしで、一応私には敬語を使わなければならないらしいのだが、この軍では兵士の階級はあまり意識されていないのか大雑把に「兵」で括られがちなことと、入隊したばかりで勝手の分かってない私に色々と教えてくれたのもあって、入隊数日にして、お互いタメ口で話す仲となっていた。
「ピグトニャ様とお付き合いしてないなら、私が狙ってもいい?」
「好きにしなよ、彼女いないっぽいし。でも、アレ相当シスコンだよ」
「あら、それならお姉様ごと愛するわ。全員で愛し合えたら最高じゃないかしら。チェレーゼ神官様とピグトニャ様はそっくりで、おふたりとも美形ですもの」
コロネの感覚は独特である。実に第4部隊らしい独特さがある。ちなみに、インターネットで調べたところ、メヒェリエでもきょうだい婚はタブーだった。だというのに全員で愛し合うとは、度量の大きい女である。
「知ってる? 近々、またピックアップで緩衝地帯に行くんですって」
「また? 前にも行ったの?」
「何度も行ってる。ピックアップの仕入れ先といえば、緩衝地帯だもの」
「そんな人を攫ってくるみたいな……」
コロネはくすくすと笑う。
「なにが違うのかしら? ソラージルの人売りと……数多の国の人買いと……私たち。スラム出身のチェレーゼ神官様やピグトニャ様が優秀だったことが露見したときから、明らかに各国のピックアップ団が緩衝地帯へ行くことが増えている……それまで、ピグイタン神殿以外は見向きもしなかった地域なのに……。これって、誰がいち早く優秀な人をハンティングして国家の犬にするか、そういうゲームでしょう? 人を石油か宝石みたいに、草の根を分けてでも探し出すつもりで」
「だとしても、苦しい人が救われるならいいんじゃないかな。チェレーゼ……神官様も、ピグトニャも、国家の犬になったつもりじゃないだろうし。まぁ……他の地域にも目を向けたほうがいいとは思うけど」
「そうよ、例えばバブーフ王国……最近また、反魔法の政治家が幅を利かせてるらしいの。そっちを優先すべきだと思わない? あるいは、激しい差別を受けて命を失い続けているズィギズを、同胞として救うべきじゃない?」
「そうかもね。でもさ、緩衝地帯は無主地だけど、他国は外交問題とかもあるし。それに、手を広げすぎて誰も救えないよりはマシと言うか、国際軍としての使命があるってことなんじゃないのかな……。心は痛むけど。なんにせよ、私たちは兵隊でしょ? 指示に従うのみだよ」
「それも変……いえ、私は変じゃないけど、ソメヤさんがそこに収まるのは変よ。どうして上等兵なの? せめて下士官でしょうよ……試験免除になってもおかしくない。部隊訓練を受けてる理由もわからない。ソメヤさんに必要?」
そう言われても、立場ができても困る。何年も先、私はいないんだもん──そうは言えず、軍隊初めてだから、と誤魔化す。
「……なんで入隊したの?」
「えっと……国の命令っていうか。ピックアップしてもらった恩があるから……あれ、これ国家の犬?」
「ふふ……ソメヤさん、稀代の大天才って言われてるものね。国が放っておいてくれるわけないわ」
「コロネも国に言われたの?」
「いいえ……私はただの志願兵よ。そこまで強くないから。それに、私ってピグイタン国民じゃないの」
「えっ、そうなの」
私は彼女を見つめながら驚いているが、彼女は一切こちらを見ずに、空か、彼女にしか見えないどこかを見て話し続ける。そういうところも変わっている。
「ピラセ・ラピ連合国……ってわかる? 小さな魔法国家。治癒だけは得意なんだけど……それ以外の魔法をまともに学ぶなら、留学が必須。私はピグイタンに留学して……大学院まで出たんだけど、帰りたくなくて。仕方ないから国際魔法連合軍に入って、国際軍用ビザを取ったの」
「え、じゃあコロネこそ士官コース行けばよかったじゃん」
「現場に出たかったの……最短で下士官になるつもりではいた。でもダメね、ソメヤさんと違って、あんまり実践が得意じゃなくて。当たり前に二等兵スタート……特別遅れてるわけじゃないのは分かってるけど、たまにあなたみたいな才能を見ると、くらくらしちゃう」
コロネは頭に手を当ててみせ、目を細めて笑う。
「ソメヤさん、あなた、次のピックアップチームに入るらしいわよ……聞こえちゃったの。初めての現場、楽しみね。きっと世界のことが嫌になる」




