測定限界
「全部測定限界かぁ……」
「あ、あの……すみません……」
「いやいや、謝ることじゃあない。こんな稀代の大天才が来てくれるなんて、喜ばしいことだよ。兵としての任用なのが惜しいねえ……せめて下士官になる気はないかい? ボクが面倒見てあげるよ、色々と」
「えーと……ちょっと、事情があってすぐには決められません」
「そう。まぁこんな無理にねじ込んでくるぐらいだし、お国の事情かな。ボクが逆らっても仕方ないね……でも能力を加味して、上等兵にしておこう」
「そ、そんな簡単な話なんですか?」
「国の軍は法でガチガチだから違うけどね、うちは採用官の権限が大きいし、柔軟な組織だから。それにキミを二等兵スタートにしても、一ヶ月足らずで上等兵への昇級が決まるだけだからねえ。今決めたほうが効率がいい」
イシューは満足そうに微笑み、じゃあ次はガネット、と促す。
「ソメヤさんの後にやりたくないなぁ……あたしって、普通だから。それに、得意属性ぐらい知ってるでしょ?」
「ガネットも優秀な魔法使いだろう? ピグイタン軍では士官サマだったのに……まあ、国の肝入りである稀代の大天才……ソメヤ・イストゥールくんのお目付役として、仕方なく兵なんかやるんだろうけど」
「察しがいいことね」
「とにかく、今の数値を把握しないと、ボクが怒られるよ」
ガネットはうんと伸びをして背中をほぐしてから、順々に基本魔法を唱えていく。眺めていると、確かに、得意なものと苦手なものが一目で分かった。彼女は防御、熱、肉体強化が明らかに得意であり、一方で、風、光、音、精神は不得意。水、土、治癒は、それらの間程度の結果を示していた。
「このとおり、普通の人間なら、属性ごとの揺らぎを観測できないわけがないんだ。ガネットは上位20%には入る、優秀な魔法使いだけど……ひとつも測定限界カンストはない」
「若い頃はもう少しいけたんだけど」
「仕方ないね、人は歳をとる、林檎は地面に落ちる」
「違いないわ」
聖典の一節だ。チェレーゼに読め読めと言われながらも全然読めていないのを思い出した。聖典教養バトルに備えて、やはり読むべきか。
「とはいえ、ソメヤくん本人的には、これは特にやりやすいなぁとか、あるんじゃあないかい?」
「え、ええっと……発散魔法なら光と音……吸収魔法なら精神が使いやすい気がします。一番扱いやすいのは精神魔法です」
「そっかそっか。光と音はどちらも波の特性を持つから相性が良い。精神も、捉える感覚としては場や波に近い……けど、精神魔法が得意とはっきり言える人は珍しい。稀有な才能と言って良いね。あー、大会で使ってた犬のゴーレムにも、精神魔法がやたら上手く使われてたね……アレは驚いた、キミなら命まで創造できそうだと思ってしまったよ。というわけで、キミの自己申告はおそらく正しいと、上には報告しておこう」
「あのワンちゃん、可愛かったね〜」
ガネットが豆もちを褒めてくれたのが嬉しく、ですよね! と叫んだら、命令がなければ静かにしてねとイシューから注意を受けた。悲しい。
「となるとソメヤくんの配属は第4部隊かなぁ……曲者揃いだけど、頑張ってね」
「はい!」
「よろしい」
内心、曲者揃いは嫌だ……と思っているけれども、文句を言って怒られるのはもっと嫌だ。多分今はとても優しい方で、今後どんどん厳しくなるんだ。中学の吹奏楽部がそうだったもん。パソコン部に入ればよかったと、どれほど後悔したことか! そんな部活生活を思い出して、私は腹から声を出した。




