寮生活のはじまり
チェレーゼをよりセキュアで医療資源豊富な病院に転院させたり、声明文を出したり、私の入隊に関する様々な事務手続きをこなしたり、私の付き人兼家の提供者であったチェレーゼの代理人を選定したりで、1週間があっという間に過ぎていった。その間私は完全に宿無しとなり、チェレーゼとの同居を知っていたバルの厚意で、ジムの救護室に寝泊まりしていた。
『神官用宿舎に住み続けるのは……』
『ダメだ。盗聴器もあるかもしれないし』
『だよね……』
『こうなったら俺の家に住まわせるでもいいんだが……俺のイメージを守りたいスポンサーが、まだ女性ウケを狙えるって言って、女との同棲を許さなくてな……機密はぼやかしつつ事情説明したんだが、もっと隠れてやってくれってさ……完全に勘違いされてる』
『ピグトニャガチ恋勢って約束された存在だったんだ……』
『別に恋愛禁止とは言われてないが……まぁ、俺らはモデルみたいな扱いだからな。他のプロチームや冒険者パーティでも、美形が揃っててタレント売りしてるようなところは、結構そこにお世話になってる。特に冒険者が金を稼ぐのは大変だからな』
『タレント売りしてたの!?』
『昔はな。今はそういうつもりじゃないんだが……一度タレントになったら、二度と一般人には戻れない。世間への影響力は保持しておきたかったし……、ある程度言うことを聞くようにしてる。おまえも勇者になるんだから、恋愛はこっそりやれよ』
『多分しないと思うけど……』
というわけで、私は国際魔法連合軍の寮に入ることとなった。ピグトニャは顧問として魔法指南に来てくれるらしいが、それも毎日ではないし、ジムのみんなにもなかなか会えなくなるし、規律もあるみたいだし、正直憂鬱である。寮の狭い部屋に荷物を運び入れてからため息をつくと、ルームメイトが声をかけてきた。
「よろしくお願いしますね、ソメヤさん」
「よろしくお願いします、ガネットさん」
ガネットはプロジェクトメンバーのひとりで、入隊する私を監視するため人身御供となり、私と一緒に入隊する羽目になった哀れな女性だ。良い人そうではある。
『ガネットさんはまだ32だから、歳も近いし……元軍人で結構強い。頼れると思う。こっちのことは俺に任せて、一旦軍の生活に慣れろ。軍って言ってもあそこは結構緩い。時間外はかなり自由だから』
とはピグトニャ談だ。そうは言っても、知らない人といきなり同室で暮らすというのは緊張する。チェレーゼもそうだったはずだが、半分夢見心地だったせいか、あのときは気にならなかった。今は人間不信になりつつあり、いつもの倍はおどおどしている。そんな私に、彼女は事もなげに声をかけてくる。
「ソメヤさんがピグトニャ様とお付き合いしてるって、本当?」
「!? いや、超デマ! 発表ありましたよね、チェレーゼの病気の件……それで心配になって、二人で病院前のホテルに泊まっただけです」
「うふふ、そんなに慌てなくても。わかってますって」
「えぇ……」
「こうしたら、緊張もほどけるかなって思って」
チェレーゼやピグトニャとは、また違った癖のある人だ。
「これから一緒に暮らすんだから……ガチガチにならず仲良くしましょ、ね!」




