野次馬
「天啓の完成……ねえ」
「……あんな簡単にベラベラ話してたけど、どれだけ信用できるかな?」
「パパは賢いが……血生臭い戦闘だとか、政治闘争を経験した人ではない。信仰科学研究だけに生き、功績と人柄だけで周囲に認められた、敬虔な信仰者だ……あまり嘘や駆け引きは得意じゃない」
「ある程度信じられるってこと?」
「ああ。疑うとしたら、ヴェーラに嘘を吹き込まれてる可能性だな……これはありえる」
「ふーん……」
私はシティホテルのベッドに寝転がり、ゴロゴロしながらピグトニャと話した。
「チェレーゼの天啓の完成のことさ……私知らなかったんだよね。概念を知らなかったからかな。今見たらわかるのか……それとも、深く入らないとわからないのか」
「発動時は意識を失っていたってことだから、姉さん自身知らない可能性もあるな。パパは少し抜けてる……説明したつもりで説明せず実験を繰り返してたのかも。もしかすると……ヴェーラの天啓である可能性もある。人格ごとに天啓が与えられるのかは知らんが。考えてもわからん」
「んー……たしかに、ヴェーラがオリバーにこれを使ってるなら、あの忠誠心にも理由がつくもんね」
「しかし、他人の精神に干渉して、おまえの固有魔法を妨害するというのも、十分法外な力だ……俺はあっちが天啓じゃないかと思う」
「あーたしかに。うわ、わかんないな〜」
私が頭を抱えていると、ピグトニャはアメニティのハーブティーを入れてくれた。ありがたくいただく。
「とにかく、おまえはよくやった。別に、今すぐ全部を明かす必要はないだろう……決裁が通った以上、入隊手続きもしなきゃならないし、元々は……家族の問題だ。本来なら、被害者のお前が体を張る必要はない」
「……そんなこと言わないでよ、友達じゃん。チェレーゼのことちゃんと見てるって、言ったでしょ?」
ピグトニャは優しく微笑んで、そうだったな、と言う。
「だとしても、医者曰く、姉さんは、目を覚ましたとしても、1ヶ月半絶対安静だそうだ。その間は、ヴェーラも何もできないだろうし……あまり気を張り詰めるな」
「ありがとう」
「こういうときは緩急が大事だ。ずっと緊張してると、むしろ喰われる」
さすが冒険をこなしてきたプロだ。一般OLの私には想像もできない死地を乗り越えてきたのだろう。
「じゃあピグトニャアンチスレでも見て緊張を和らげようかな」
ところで私はすっかりこの地のインターネットにハマっていた。アンチスレは普段好んで見るわけではないが、友達のアンチスレがあるという状況があまりにも面白すぎる。こんなの地球では味わえない。
「悪趣味すぎるだろ。それに、今はやめた方がいい」
「なんで? なんか見られたくないことでもあった?」
「いや違くて……逆に見た方がいいか……?」
ピグトニャの悩む様子でより一層興味がひかれ、私はスレを開いてしまう。すると、あり得ない文字列が目に飛び込んできた。
『【速報】ピグトニャ・イグノジーさん、ソメヤ選手をホテルに連れ込んでしまうwwww』
『何か事情があって泊まってるだけでしょここ普通のシティホテルだし もしかして童貞だからラブホテルと普通のホテルの違いわかんない感じ?笑』
『>>257 うおw』
『⭐︎スレのルール⭐︎
ここは「ピグトニャ・イグノジー」のアンチスレです。
・ピグトニャ厨は無視
・他の選手や家族、友人等へのアンチ不可
・雑談は関連する内容なら多少は可とします』
『このホテルの前にある病院のカフェで大神官様とピグトニャとソメヤ選手見たよ』
『>>260 これマ?なんで病院にいんの?』
『>>261 防音魔法使ってたから知らん、大神官様もお年だし健康診断とかじゃね なんか途中でピグトニャがキレて出てったわ それまで気づかなかったんだけど』
『チキンのキレ症って最悪やんけ』
『親の病院に付き合わせるのは流石に婚約確定だろ ピグトニャガチ恋勢のみなさんお疲れ様でした』
「SNSでも同じような内容が拡散されてる。焦ってて野次馬のことを考えられていなかった……すまん」
「いや、これはもう仕方ないよ……病院内にアンチいるのは運が悪すぎるし……」
ピグトニャはため息をついた。
「姉さんはしばらく働けない……これに関しては何らかの声明を出さなきゃならない。野次馬にここを特定された以上、できれば転院させた方がいいな……」
思ったより面倒な展開だ。




