矛盾
「ピグトニャはすぐ戻ってきますよ。遅い反抗期がきてるのと……チェレーゼの様子を見に行きたいだけです。エイリムさんも、今日はあと1時間ぐらい、こちらにいられるんでしたよね」
「ああ……そうだな。その間に娘が目を覚ますかもしれないと思うと……仕事のない時間は病院にいたくてな」
気まずそうな様子のエイリムは、私を半ば睨みつけるように見つめる。
「さっきの変身魔法は……どういうつもりなんだ? 違法行為スレスレの行動に手を貸してまで……」
「いや、私はほら、異界人ですから、まさか違法になる場合があるとは知らなくて。ただ彼の悪戯に付き合っただけですよ。彼、寂しがりやなんです……自分を特別に見抜いて欲しかった。それだけで……。きっとすぐ気づかれて、親子仲良く良い感じになれるかなーって思ってたので……安易に協力しちゃいました。すみません」
「……」
本当は、エイリムはヴェーラに気付けない説の確信を深めるための芝居だったが、当然それを言うことはない。気づけなかった負い目があるのか、彼はそれ以上口を開かなかった。ちょうどいいので、私は私の意図した方向へ話を持っていく。
「全然違う話をしてもいいですか? 私の国際魔法連合軍への入隊のことなんですけど」
「あ、あぁ……構わないが。ちょっと待ってくれ……」
「防音魔法なら、私が掛け直したんで大丈夫ですよ。ピグトニャが行っちゃったから」
「そうか……流石は勇者候補様だな」
「応用魔法はだいたいピグトニャに教えてもらってるんです。優秀な息子さんのおかげですよ」
エイリムはすこし悲しそうに、そうか、と呟いた。
「この入隊、陛下が反対されてたのに、急に通ったって聞いて……エイリムさんが説得してくれたのかなと思ってて。お礼を言いたかったんです」
「あ、あぁ……別に、礼を言われるようなことではない。言うなら、チェレーゼに言った方がいい」
思ったより簡単に情報が出て驚いたが、できるだけ表に出さないよう、ピグトニャがやってた間抜けな顔をイメージする。
「チェレーゼに?」
「ああ。ソメヤさんが勇者になるため、なんとか決裁をと頼まれてな……」
「チェレーゼが頼みにきたんです? それっていつですか?」
「昨日だが……」
「昨日?」
エイリムは不思議そうに、そう、昨日、昨日の朝だが……、と、答える。
「朝……業務前ですか? それはおかしいですよ。昨日は私、ずっとチェレーゼとピグトニャと一緒にいたんです」
「……!?」
本当は一瞬仕事のために離れているし、業務前とも言われていないが、ここはハッタリを効かせるしかない。業務前じゃない、と言わない……ということは、やはりなんらかの矛盾がある。その時間は、私とピグトニャとモーニングを嗜んでいたはずなのだ。ああ、昆布茶を取り寄せてもらうはずだったのに……全部台無しだ。イラついてきた。
「しかし、仕事があるから出勤してないわけが……」
「チェレーゼって確かに、いつも朝早く出勤しますよね。でも昨日は朝ごはんをみんなで食べに行ってて……写真も撮ったんです。ほら」
「……!」
私が示したのは朝7時50分に撮った写真だ。にこにことしたチェレーゼや、眠そうなピグトニャも写っている。友達とご飯を食べる前、写真を撮る習慣があってよかった。
「……でも、これもさっきみたいに、チェレーゼのフリをした誰かかもしれない……」
「エイリムさん」
私は畳み掛ける。ミスをした発注先を詰めて、有利な条件を引き出す時みたいに。我ながら嫌なスキルである。ここはやりすぎず、しかし怯まないことが大事だ。
「どちらにせよ、私の知ってるチェレーゼと、あなたの知ってるチェレーゼの情報を……交換した方がいいと思いませんか? 他にも矛盾があるかも……あなた、騙されてるのかもしれないんですよ」




