対話
「チェレーゼが重体と聞いた……本当なのか、ピグトニャ」
「本当です……ファーザー・エイリム」
「おお息子よ、そんなかしこまった話し方をするな……しかも、自傷行為だったとか。それも本当か?」
「俺とソメヤが見ています……なにより、凶器のナイフからは、逆向きの指紋しか出てない。姉さん自身の意思で突き立てた、動かぬ証拠です」
「ふむ……それが地下牢で行われていたと」
「信じていただけるかわかりませんが……本人が、閉じ込めてくれと言ったんです。あの時の姉さんは、少々気がふれていたようだった。落ち着かせるために、一時的に連れて行ったにすぎません」
「そうか……我が息子ピグトニャよ、お前とチェレーゼの無事を祈らせておくれ……。悪魔がお前たちから去るように……」
「もうやめてくれ」
ピグトニャは按手を拒否する。ファーザー・エイリムの手は払いのけられ、所在なさげに宙を待った。
「しばらく、ほっといてくれ……」
気まずすぎる空気の中で、私は恐る恐る声を出す。
「あの〜……チェレーゼとピグトニャの、お父様なんですよね?」
「そうだが……何か?」
「いや〜……二人って、どんな子供だったのかなあって」
「ソメヤ……そんなしょうもないこと……」
「で、でもさぁ。私たちはまだしばらく病院にいるつもりだし……エイリムさんもそうですよね? その間無言ってのも気まずいよ」
「……」
ピグトニャはあからさまに嫌そうだが、ファーザー・エイリムの方は割と乗り気だった。すこし微笑んで語りだす。
「そうだな……二人は優秀な子供だった。チェレーゼは信仰が厚く素直な、優秀な魔法使いに育ってくれたし、ピグトニャも、本来は10を超えてないと授かることのできない天啓を、8歳の頃に手に入れた」
「へえ〜」
「……ゴミみたいな天啓だけどな」
「そんなことを言うな、主には何か意図がある……」
「うるせえな! おまえだって本当はそう思ってんだろ! あの日から姉さんばっかりまともにかまいやがって、俺にはお祈りお祈りお祈り! そればっかじゃねえかよ!」
ピグトニャが怒鳴りつける。ここは病院内のカフェだ。一応、音声が外部に漏れないように防音魔法を使ってはいるらしいが、つい周囲の目が気になってしまう。
「だからオリバーもグレたし、姉さんも今こんなことになってんだろうが! 全部おまえのせいだボケジジイが!」
「ちょ、ちょっと」
流石に言いすぎだろう、と言おうとしたが、先に口を開いたのはファーザー・エイリムであった。
「……そうかもしれないな」
「!」
ピグトニャも押し黙り、話を聞く体制に入る。
「私には……血を分けた子どもがいないからな……。いくら神殿学校の子どもたちと関わっても……ピックアップ事業に携わって子どもを助けても……親としては不適格なのかもしれん」
「……なんで俺らだけ、養子にしようと決めた? ユーシャは適当な貴族の家にほっぽりだしたのもなんでだよ?」
「それは本人の意向だ……友人であるおまえたちと家族になるのはむず痒いし、私のことも信用ならないと言うので……ちょうど、子どもができなくて嘆いていたリリヴェージュ家の養子になった。それだけのことだ。結果的に、あそこは円満な家庭になっただろう」
「そうやって、空きがあるから動かしてやれって思想が……」
「誤解だ。私はただ、最善を尽くしたつもりだった……ずっとそうだ。オリバーのことも、おまえのことも。その歩みで間違ったことは多いだろう。私も完璧ではない。すまないと思っている……しかし、おまえたちを愛しているよ。これは本当だ」
「……そうかよ」
ピグトニャは呆れ返った様子で、軽くため息をついてみせる。
「ところでおまえ……何か気づくことないか?」
「……?」
何も気づいてなさそうなエイリムの前で、私たちはパチンと指を鳴らす。すると、お互いの姿が幻のように溶け合い、座る場所が入れ替わった……つまり、私はピグトニャに、ピグトニャは私に変装していたのだ。
仕組みは難しくはない。オリバーほど高等な変身魔法はできないが、複数の魔法を組み合わせれば、近いことは可能になる。
その1、自分の姿を他人の姿かのように見せつける幻術。
その2、自身の声が、あたかも隣にいる人間の喉から出ているかのように、音源を転送する音魔法。
あとはアフレコのように口を動かしつつ、適当な身振り手振りをつけるだけだ。二つの魔法はここに来る前に急いで教えてもらったものだが、ピグトニャの教えが良いのか、なんとかできた。
「……口の動きとかで十中八九バレるだろと思ってたんだけど、案外いけるんだね」
「本当にな。口だけじゃなくて、俺はここまでぶっきらぼうな動作しないし」
「えー、してるよ。そっちこそ、私はそんな緊張感ない顔してないよ」
「いいや、してるね。てかこっちの変身の精度はどうでもいいだろ、もっと間抜けな顔すればよかったわ」
「……なんと」
ファーザー・エイリムは、驚いたという顔でこちらを見つめている。
「おまえは、俺たちの、オリバーよりずっと精度が低い……ごく簡単な変身魔法さえも、見抜けない。ようくわかった」
「変身魔法は違法だぞ!」
「どうでもいいよ。しょっぴきたければやってみたらどうだ? 親を揶揄っただけのことで、わざわざ警察が動くわけないし……変身魔法が違法なのは、それによって他者に不利益を与えたときって法律にもあるだろ。こうやってすぐネタバラシするのは違法じゃない。ドッキリ番組でもやってる」
「……ピグトニャ、どうしてそこまで私を悩ませる? 私に何か恨みがあるのか? ……オリバーのように?」
「……別にないよ。パパには本当に感謝してる。ただ、あんたの言葉を借りるなら……親として不適格。それだけ」
エイリムはショックを受け、唇から血の気が引いていっていた。ピグトニャは立ち上がり、この場から去ろうとする。待ちなさい、という声が響くが、振り返りさえしない。代わりに、私にひとつ、テレパシーで言葉を残す。
[あとはよろしく]
私はJTCで培った対年上男性用柔和モードによりエイリムを宥めつつ、こっそり打ち返した。
[まかせて]




