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勇者のヒミツ


 そんなしょうもないことを考えているうちに、ひとつ、あれ、と思うことが出てきた。


「……ちょっと待って、ユーシャってもしかして勇者のこと?」

「ユーシャはユーシャだろ」

「いや違くて、勇者様って呼ばれてる人その人なの? この人」

「あー……知らなかったのか。そう、勇者様って呼ばれてるのはそいつ、ユーシャ・リリヴェージュ」

「勇者って名前の勇者いる!? いや、エデンの言語で訳されてるから、他の発音なだけか……」

「いいや、勇者って言葉は、こっちでもユーシャって発音だよ。元々、おまえの世界から来た言葉」

「……え?」


 驚く私に、別に面白いことじゃない、と彼は説明する。


「異界の存在は、以前から知られていた。それは時々、強い魔力反応なんかが起きたときに……おまえの星からとは限らないが、異界人がくる現象があったからだ。その中におまえの同胞がいて……あいつのことを、名前のとおり勇者だ、と言った。それで、あいつを勇者様と呼ぶ流れができた」

「えええ、私の前に偶然、日本人が来てるなんて……」

「偶然じゃない。その人の証言から、地球にはピグイタンに近い文化圏があると判明し、このプロジェクトはスタートした……だからあらかじめ、地球という星のニホン国にターゲットを絞ってたんだ。これは偶然だが、エイリムがオリバーを呼ぶため、一度接触したことがある異界だったし……他の観測可能な異界と比べて、色々とやりやすい条件があった。ダメならオリバーの出身地……イギリスだっけ? とにかく、他の国を見ようと。でも、おまえがいた。それで呼んだ」


 そんな流れがあったのか。


「その人は今もプロジェクトメンバーにいるし、おまえの名付け親だから……今度挨拶でもしとけ」

「名付け親?」

「おまえの本名に比較的近い苗字を選んでくれたのはその人なんだよ。俺らには、ニホン語の発音はよくわからないから」

「へえ〜……そんなに発音違うんだ」

「今度ピグイタン語の講義してやろうか? まだ国が分かれたばっかだから、ソラージル語との相互理解性もかなり高くてお得だし」

「え、やだよ、エデンの言語あるし……英語苦手だったし……」


 乗り気じゃない私に、ピグトニャが意地悪そうな薄ら笑いで続ける。


「……例えば、うちの地下牢とか刑務所とかのあらゆる魔法を阻害する部屋、あれにはエデンの言語だけは通じるように魔道具の設置が法で義務付けられてて……イメージとしてはルーターみたいなやつなんだが……」

「エデンの言語ってWi-Fiなの!?」

「それってつまり、本当の本当に魔力を遮断されると、エデンの言語も通じないわけだ。反社なんかが使う拷問部屋にはそういうのもある。そのときになんの言語も知りませんじゃ、怖いだろ」

「怖すぎ!」


 ピグトニャは私の反応に気をよくしたのか更に笑い、挨拶ぐらいは覚えとけ、と言った。しかしその後、すぐに落ち込んだ表情に戻り、ため息をついた。


「もう、風呂入って寝よう。明日は朝早い。父さんも来るし……連泊するなら、どこかで荷物を取りに戻らないと。きっと忙しい日になる」

「……うん」


 ピグトニャは、浮かない反応の私に、風呂の用意をしながら続ける。


「大丈夫、父さんへの対応は俺がするから」

「……んー……そこじゃなくてさ。別に、ファーザー・エイリムのこと……本人やチェレーゼの前みたいにさ、パパって呼んでもいいんじゃない? 確かにパパって子供っぽい呼び方なのかもしれないけど……実の親のことを思い出すような、父さんって呼び方も、複雑でしょ。……だから私の前でぐらい、もっと気楽にしてくれていいよ。嫌じゃなければ」

「……そりゃどーも。考えとく」


 そうしてピグトニャは風呂場に入っていった。チェレーゼが、『ピグトニャがソメヤ様を家に連れ込んだ!』って怒っていたのが、もう遠い昔のように感じられる。私は、シャワーの音に隠れるようにして、少し泣いた。多分、ピグトニャもそうしていた。

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