オリバーの魂
「オリバー、出てきなさい」
「……拷問大好きチェレーゼちゃん、俺をわざわざ外に出すなんて……魔法を使った新しい拷問法でも思いついた?」
「警察に引き渡すだけです」
「えっヤベ!」
チェレーゼが落ち着いてすぐに、作戦を実行することとなった。あまり長く家に置いておくのもリスクだし、単に地下牢から連れ出すのもリスク。警察に引き渡すまでの数分間で、必要な情報を洗い出そう──万が一失敗しても、とりあえずしばらくは捕まっていてくれるはず、という計算だ。てっきり拷問されるものだと思っていたのか、それよりは警察の方がマシだろうに焦っているオリバーを見て、つい笑いそうになる。
「観念しなさい。次は10年出てこられないことを祈ります」
「かくあれかしってか!」
「黙りなさい」
あの減らず口は生来のものだな、と、少し感心してしまう。私とピグトニャは遠目に二人の様子を見て頷き、配置についた。二人で物陰に隠れ、チェレーゼたちが出てくるのを待つ。あと10歩……5歩……3歩……。
「……我に見せよ……あなたのすべてを」
勢いよく、情報が頭になだれ込んでくる。私はそれを、ピグトニャにテレパシーし続ける。オリバーがこちらに近づかない限りはピグトニャに情報を預け続け、近づいてきたら止める。二人で共有することで情報の確度も上がるし、私に反動が訪れても、ピグトニャならなんとかしてくれる。
「ッ!」
[どうした]
[弾かれた……後で話す。できるだけのことをやる]
[無理はするな]
私は意識をさらに集中させた。彼の魂は無防備だ……ほとんどの情報が手に取るようにわかる。なのに、一部分だけが、ブラックボックスのようにわからない。
名前:オリバー・イグノジー
(本名:オリバー・ウィリアムズ)
出身地:地球 グレートブリテン及び北アイルランド連合王国
年齢:20
性格:享楽的で破滅的かつ寂しがり、アダルトチルドレン
能力:魔法適性者。光、音、精神魔法を応用した変身魔法を得意とする
天啓:<イーブズドロップ>この者が耳を澄ませるとき、他人に対する声のみが聴こえる。声に音の有無は関係がない。ただし、自身に対する声かけを聞き取ることはできない。
もっと深くだ……もっと。
襲撃理由:ソメヤ・イストゥールに接触し、自身の仲間とするため。XXXXの指示によりXXXXを行いXXXXとなりXXXXとするのが目標。
所属組織:XXXX
情報源:XXXXによるXXXXXXXX
だめだ。全く見えない。じゃあこの角度なら?
大切な人:XXXXに忠誠を誓い、生涯を捧げ尽くすつもりでいる。破滅的な性格も相まって、その忠誠心を生半可な拷問で折ることはできない。
肝心なところが見えやしない!
[焦るな。見えるところまででいい]
[……]
私はピグトニャの声に反応せず、じっとオリバーを見る。警察が来るまで雑談、とか言って、チェレーゼを煽りまくっている。
これなら……?
チェレーゼとピグトニャへの感情:ピグトニャのことは嫌いではなく、自分の仲間に引き入れたいが、難しいだろうと考えている。チェレーゼについてはXXXXXXXX。XXXXであるためXXXX。
[……どうしてチェレーゼについてだけ、こんなに読めないの……?]
[ソメヤ、息を殺せ!]
私ははっと意識を取り戻す。
[警察が来た。時間切れだ]
固有魔法を切り、反動が出ているか確かめてみる。ちゃんとチェレーゼや警察の声が聞こえ、ひとまず安心する。
「脱獄犯を捕らえてくださり、ありがとうございます」
「うちを襲撃されたものですから」
「よーポリ公、こいつ俺を監禁して拷問しようとしたんだぜ!? なんとかしてくれよ」
「嘘をつくな。話は署で聞く」
「ちっ、めんどくせえ」
オリバーは大人しく捕まってくれるのだろうか……そう思ったそのとき、おい、という大きな怒鳴り声が響いた。
「ソメヤ・イストゥール! どっかにいるんだろ!」
「!」
「アンタも用心したほうがいい……このチェレーゼとかいう魔女にはな」
「神官様に失礼なことを言うな! もう行くぞ!」
私は思わず、あらためて詠唱した。何が……何が彼に、そんなふうに言わせたのか。この確執の根っこはなんなのか。
[おやめなさい]
[!?]
[それ以上私たちのことを探っても、いいことはなにひとつありません]
[……]
[あなたが私の仲間になるなら別ですけれど……今は聞く耳を持ってもらえなさそうですから、忠告だけに留めましょう]
[……あなたは誰?]
[あぁ……もう会話ができなくなる。けれど、すぐ会えることでしょう。ふふふ]
私はオリバーが有効範囲の外に出たあとも、ただ茫然としていた。チェレーゼの出てきて良いという合図にも反応しないから、ピグトニャがテレパシーで語りかけてきたほどだ。
「あ、ああ……大丈夫。反動はきてない」
「……何があった?」
「……情報共有しよう……とりあえず」
ピグトニャは心配そうな顔をしつつ、私と一緒に物陰から出た。




