やけっぱち
「私が私に関する質問を投げかけますから、その度に答えてください。これはどこまで深く読めるのかの実験でもあります。定期的にピグトニャが肩を叩きます……反動が来たらすぐ教えてください」
「わかった」
家の中で一番長い距離を取れる場所……玄関先の廊下から、リビングを貫き、さらにその奥にある部屋の扉を開けた先まで、1mごとに養生テープを貼る。そこに立ったチェレーゼに、私が固有魔法をかける。
「基本的な事柄は知られてますもんね……まずは二人の疑問を解消しましょうか。私は、自らの意思によって、ソメヤ様に<ハンティング>を使いましたか?」
私は固有魔法を詠唱し、チェレーゼを見る。できるだけ余計な情報は見ないように気をつけながら。
「……ううん。チェレーゼは白。毎晩起きてさえないみたい……それ以上のことはわからないな、知らない間に起こったことは、本人のステータス扱いにならないのかも。親に虐待されてる、とかは、本人にその意識がなくてもわかるんだけど……無意識下で起きてることは特定できないのかな」
「わかりました。身の潔白が証明できてよかったです。この件については後で考えましょう」
次です、とチェレーゼが1m下がる。
「うーん、どれぐらい過去まで読めるのかも気になりますね。私の本名はなんでしょう?」
「ちょ、姉さん……」
まだピグトニャの声が聞こえる。反動は発生していないようだ。私は答えた。
「……ない。何も、ない」
「正解です。アレとかソレとかお前とか女の方とか呼ばれてました。今の名前は、ファーザー・エイリムがつけてくれたんですよ」
「良い名前だね」
「でしょう!」
また、1m下がる。
「じゃあ次。今私が考えていることはなんでしょう?」
「……ごめん、この能力、事実は読めるんだけど、思考の詳細は読めないんだよね。でも、楽しいことを考えてるのはわかるよ」
「なるほど。正解です。冒険時代のことを思い出していました」
「へえ〜いいなあ」
「……」
ピグトニャは苛立たしげに肩を叩く。冒険時代に何か嫌な思い出があるんだろうか。
「それじゃあ次は……私の天啓の反動はなんでしょう!」
「姉さん!」
ピグトニャは、少し怒ったような、咎めるような口調で叫んだ。
「無闇に曝け出すことないだろ!」
「そ、そうだよ。なんか……ヤケになってる?」
私が心配して声をかけると、チェレーゼは乾いた笑いで、そんなことありません、と言った。
「嘘。嘘だって私の固有魔法が言ってる。チェレーゼ……罪悪感で、自分の話したくない秘密まで曝け出そうとしてない?」
「……」
チェレーゼはしばらくヘラヘラと笑っていたが、そのうちに4mのテープの上でしゃがみ込み、俯いた。
「……私は、不本意とはいえソメヤ様に固有魔法をかけていましたし、ソメヤ様の話を聞かず、大怪我をさせました……。天啓を聞き出すことにもなったし……私のすべてを曝け出しても、足りないくらいです」
「そんな、そんなのいいって……怪我も天啓も、勝手にやったことだし。あ、あの怪我ね、私、実は命に関わることはないだろうってわかってやってて……」
「なんでもいいんです。たとえ浅い傷でも、痛いものは痛いんですから。私はそれを、よく知ってます」
私は、チェレーゼの腕にびっしりと入った傷跡を思い出した。確かに、私のお腹の傷よりは浅いだろう。けれど、物理的にも精神的にも、とても痛かったはずだ。騙し討ちみたいな、私の傷なんかよりも。
「それに……仲間の反動は知っておいた方が、戦うときには便利です。勇者パーティと呼ばれた頃の私たちのように、生涯をかけてパーティを組むと決めた人たちは……沈黙の誓いを神に宣誓し、お互いの天啓を話すこともあります。大したことじゃありません」
「大したことだよ、私は勇者じゃないし」
「……」
「知らなきゃいけないの? 知らなきゃいけない時がきたら、話してもらうんじゃダメ?」
「……」
ピグトニャが肩を叩き、私はハッとした。周囲の光景が薄ぼんやりとして見える。
「反動だ……! まだ周囲は見えてるけど、薄ぼけてる。思ったより早い……! 試合なんかの時の方が長く使ってたのに」
「……おまえ、かなり薄目になってるぞ。相手の精神に深く潜り込めば潜り込むほど、早く反動が来るんじゃないか? 単にステータスを読むだけならまだしも……今のソメヤは、姉さんをカウンセリングしようとしてる」
「そっか、なるほど……」
「この仮説が正しければ、お人好しなおまえのことだから……オリバーにもそうなるのは目に見えてるな」
私はそれには答えず、固有魔法の使用を意識して終えた。瞼が徐々に開き、視界がじんわりと、元に戻ってゆく。見た目で反動の発生がわかるのは弱点だな、と、ピグトニャが言った。
「……とりあえず半径4mは有効そうだよ。2.5mは超えた……続きは今度にしよう」
「それがいい」
「チェレーゼ」
びくり、と震える彼女を優しく抱きしめ、また頭を撫でる。
「ごめんね、チェレーゼ……ごめん」
「なぜ謝るんですか……」
「チェレーゼを試すようなことして、この状況まで追い詰めたからだよ。私はどこかで、このチャンスを待ってた……オリバーが来たとき、確かめるなら今しかないって……思わなかったと言ったら、嘘になる」
「……ソメヤ様。もう遅いですが……私を操る方法が、例えば洗脳だったらどうします? 私の知ってることを、私の意思と関係なく、ベラベラと話してしまったら?」
「それはそのとき、また考えるよ。私みたいな天啓の人も他にいるかもしれないし……さっき話してた、謎の第三者とかもいるしさ。そういうのって、考えたらキリないじゃん。それよりも、今目の前にいる、普段私と接しているチェレーゼの人格が、信用に足る味方だと確定できたことの方が大事だし……たとえチェレーゼを経由して情報が漏れたとしても、絶対恨まない」
「そうですか……」
チェレーゼも私をぎゅっと抱き返し、大きく深呼吸をした。しばらくの間、私たちはそうしていた。




