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リベンジマッチ

 ウエディングケーキの登場。いわゆる初めての共同作業である。

 出てきたのは普通のウエディングケーキ。製作者は西条沙也加である。

「ごめんね。こっちの旦那ならクロカンブッシュも作れるのだけれど」

 と相方に視線を向けるが、

「いいえ。先輩に作ってもらいたかったんです」

 と愛。

「クロカンブッシュが良いなら仲人さんに頼むのが一番早いものね」

 と総美が笑う。

「そこまでお手数を掛けるのは流石に」

 と苦笑する松木。

 そして披露宴が終わると、体育館へ移動して親善試合である。今回はスペシャルなゲストとして新郎と同年でプロ選手である王島茂治とそのチームのオーナーである御堂春真が参加する。よって参加者は男子限定、チームAのセッターは希総。対するBのセッターは王島の同僚でもある柳原高弘が、そして主賓である松木は審判を務める。

 まずは希総が今回の最強カードである王島茂治を指名。それに対して柳原は春真。続けて二人目に大島。希総は梅谷、鹿角と大学の仲間を続けて選んだ。

 柳原は対角のセッターとして兄を指名。そしてリベロの望月。希総は後継のリベロ藤村。そして大学の後輩の八橋と年少組を選ぶ。

 柳原の最後の二人は、桜塚と蝶野のK大コンビ。そして希総の最後は菊池だった。

 参加メンバーはジャージに着替えるために更衣室へ移動。

「あぶれたな」

 と松木に声を掛けられた猪口は、

「俺は良いけれど、亀崎さんは残念でしたね」

「いやあこの面子に交じるのは自分では力不足だよ。それにしても」

 と頭を掻きながら、

「これって定番なのかか?」

「ボスの披露宴に続いて二回目ということになるけれど」

 と松木。

「次は誰だろうなあ」


 始球式として新妻のトスで松木がアタックを決める。二人に相応しい共同作業である。 

 チームAは前衛に左から鹿角、王島、八橋。後衛にリベロ藤村、菊池、そして最初のサーブを打つ希総。チームBは大島、春真、セッター柳原が前衛。柳原兄、桜塚、リベロ望月となる。

 希総のジャンプサーブを望月が高く上げる。柳原から春真へトスが上がるが、王島と八橋の二メーターコンビが立ち塞がる。

「でかいな。おい」

 高さでは及ばない春真であるが、柔らかい肩を生かした超インナークロスでこの壁をかいくぐる。これを読んでいたのは第二セッターの鹿角。

「二メートルの二人と一緒に飛んでも、穴になるだけだから」

 と後に語る。

 希総のセットは王島。これをブロックするのは王島と春真だが、高さで劣るので叩き落すまでには至らずかろうじて触るだけ。これをリベロの藤村が綺麗にセッターに返す。

 柳原はそれをそのまま叩くが、希総に読まれて拾われた

「狙いは悪くないけれど、仕掛けが早いよ」

 代わってセットアップする鹿角は王島を囮にしてツーアタック返しで仕留めた。


「鹿角君ってあんなに腹の座ったセッターだったのねえ」

 と感心する沙也加に、

「あいつは神林先輩と違って常にその場の最も確率の高い手を淡々と打ってくるんですよ」

 と同級の猪口。

「マレは選手のモチベーションを最優先にするからねえ」

「先輩の卒業後は、晃と高弘の間で幾度も戦術論に関する議論が交わされましたが」

「それでも自分が正セッターをやるとは言いださなかったのね」

「他にベンチを任せらえる人間がいなかったのが大きいですけれど、高弘は晃には思いつかない、思いついてもできないプレイを見せてきますから」

 柳原は天才だけに得意なプレイに偏って、結果的に読まれやすいという欠点を持っていた。

「晃は高弘に対して常に別解を提示し続けて単調にならないようにコントロールしていました」

 柳原も初めは不満を抱いていたが、後には手札が増えてプレイの幅が広がったと感謝するようになる。

 希総は今度は無回転で無回転でサービスエースを取る。

「上から見ても打つ瞬間までどちらか判りませんね」

 と感心する亀崎。

「マレは高校ではサーブを磨くことに注力していたからね」

 フローターは中学の頃から打っていたけれど、体が出来上がるにつれてジャンプサーブを習得した。最も苦心したのは寸前での打ち分けだ。

「体幹と柔軟性を重視して腕の振りはコントロールの為だと言っていたわ」

「それはセッターとしての自分に見切りをつけたと言う事ですか?」

 と興味津々の亀崎に、

「マレのバレーボールは帝王学の一環だから」

「腕力を鍛えすぎて左右のバランスが崩れるとセッターとしての仕事に影響するからと言っていたから、セッターを完全に捨てた訳でもないわね」

 と沙也加。

 三発目は強打。柳原兄がかろうじて上にあげる。元セッターなのでサーブレシーブはあまり得意ではない。ブランクもあるので上がっただけで上出来だろう。

「寄こせ」

 柳原のセットで春真が速攻を決める。

「二人とも楽しそうだわ」

 と美紗緒。

「ミサちゃんはハルのプレイを初めて見るのね」

「ええ。昔の映像は見せてもらったことがありますけれど、生は迫力が違いますね」

「現役最後だとまだ中学生だから、身長も今よりも低かったし」

 中三だと、春真もまだ170を少し超えたくらいか。

「私が初めてバレーの試合を見たのは中二の時の全中。あの時にネットを挟んで対峙していた希総さんと王島さんが同じ側にいるのが不思議です」

 そしてあの日ぶつかった名も知らぬ男性が、後に夫となる御堂春真だった。


「夢が叶いました」

 と柳原。

「俺は貴方と組んでみたかったんですよ」

 柳原がバレーを始めたのは中学から。その時には春真はバレーから離れていた。それでなくても三つ違いなので同じチームで活動する機会はなかった。

「兄貴の中学最後の相手が貴方でしたから」

「その辺の詳細は高之から聞いているよ」

 柳原高之は中学でバレーを終える心算だったのだが、猛勉強して進んだ進学校の南高で再会した再会に説得されてバレーを続けることにした。

「来年、俺の相棒が上がってくるからそこまで頑張ってみないか」

 春真をゲストとして呼ぶように希総に手を回したのは柳原高弘だった。

「シゲさんまで来るとは思いませんでしたけれど」

「プロが一人だけだとバランスが取れないからと言われたから連れてきたんだけれど」

「やっぱり神林先輩は一枚上手ですね」

 柳原のサーブを拾ったのは同級生のリベロ藤村。

「あいつも上手くなったなあ」

 向こうにいる年少組二人は希総のスカウトで高校からバレーを始めている。機敏な藤村防人はリベロとして、長身の八橋尚武はミドルブロッカーとして、それぞれの得意な部分を突き詰めたスペシャリストとして育てられた。

 そして相手のサーブはその八橋。希総直伝のジャンフロが炸裂する。単品で見れば長身から繰り出されるそれは師を超えている。それでも辛うじて敵陣へ返した。かろうじて敵陣へ返すが、王島を囮に使った八橋のバックアタックが刺さる。

「お前、パイプなんか使えたのか?」

 と驚く柳原。

「ずっと練習していたんだ。実戦で使えるレベルになったのは最近で」

「あと一年で卒業だろう。もったいないなあ」

「僕は院に残って博士号まで取る予定だから、同好会に移ってまだ続けるよ」

「・・・。まあ人それぞれだからなあ」


 ここまでやや劣勢だったチームBだが、春真のサーブから反撃を開始する。左利きと言うだけでも厄介なのに、春真は指先の微妙な力加減でボールに不規則な回転を加えてくるのだ。初見だったリベロ藤村は取り損ねたが、中学に受けたことのある菊池がきっちりと対応して流れを切った。

「流石に左慣れしてるわね」

 と愛。

「私の相手をしていたからね」

 姉の羽衣音も左利きなのである。

 じりじりと差を詰めてくるチームBだったが、希総のサーブでまた突き放される。二種類のサーブのどちらもが超一級で、どちらが来るか読めないのだから厄介である。

「フローターを待っていて速いのが来たら絶対に反応できないけれど、速いのを待っていてフローターならぎりぎり対応できる。だから速いのを待つのがセオリーなのだけれど」

 希総は相手の対応を読んでサーブを選ぶ。

「まあ希総君とまともに読み合いをしたら勝てないわよねえ」

 希総のフローターがネットに引っ掛かってそのまま敵陣に落ちる。二発目もネットをかすめて失速し、今度は誰も触れないコートのど真ん中に落ちる。もはや読み合い以前の問題である。

「あのネットインは意図的なのかしら?」

 と疑問を漏らす美紗緒に、

「マレはいつもぎりぎりを攻めるけれど、今日はいつになく厳しいわね」

「今日は遊びですから」

 と掟。

「遊びだからこそ全力でやるのが彼の流儀だそうですよ」

「相手が御堂だから?」

 と美紗緒。

「それはあまり関係ないわね」

 と即座に否定する掟。

「兄弟としての対抗意識はあるかもしれないけれど」

「マレとハルは年齢も立場も近しいから競争意識が一番高かったわねえ」

 二人の学齢がずれていたのが幸いだ。

「二人が同じ学年だったら、一番困ったのは教師でしょうね」

 対抗意識は春真の方にもあったのだろう。大学の後輩でもある猪口をピンサーに投入した。

「良いんじゃないかな。このまま終わっては面白くないからね」

 点差は四点。チームAのセットポイントである。

 鹿角の陰に隠れて普段は意識されないが、猪口も頭脳派である。この難しい局面で期待に応えて三連続ブレイクを取った。

 あと一点でデュースと言うところで、希総がツーアタックで終わらせた。

 この結末に敵だけでなく味方まで呆気にとられたのは、希総は最後の一点は味方に取らせると言う思い込みがあったからだ。

「僕はそんなこと明言した覚えはないけれど」

 と苦笑する希総。

「今日のところは時間が押していたからね」

 新婚旅行の出発時間にはまだ若干の余裕があったが、

「見送る側にも着替える時間が必要だろう」

「いつもながら、人と違う視点を持って行動しているなあ」

 と苦笑する兄春真であった。


 着替えは必要ない。むしろそのまま見送ってほしいと言う新郎新婦の要望もあって、着替えを待たずに見送りを行った。そして、

「折角だからもう一戦やりましょう。今度は私たちも参加するわ」

 と総美。

「着替えを止めるように言い含めましたね」

「私たちは何も言っていないわよ」

 と沙也加。

「分かりました。僕は審判をやるので、こちらのセッターは柳原に任せます」

「男女対抗で、190以上は外すと言う事でどうかしら」

「私は王島君ともやってみたかったけれど」

 女子は六人しかいないので、

「刹那にも参加してもらうわ」

 190以上禁止だと、188の刹那が一番大きい。まあ彼女なら王島ともやり合えるかもしれないが。

 男子チームはインターハイ優勝メンバーから蝶野と八橋が抜けて代わりに春真と亀崎が加わる形になった。

「兄さん。まだやるんですか?」

 と笑う希総に、

「ようやく勘が戻ってきたところなんだよ」

 と言って観客席の愛妻に左こぶしを突き上げた。

終わらない終わり。

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