結婚行進曲
十月。神林希総の三従士の一人松木美津留と鶴田愛の結婚式が神林家の主導で執り行われた。
当事者はまだ早いと思っていたようだが、
「後がつっかえているから」
と周囲に急かされた形だ。
松木は表向きは派遣社員と言う形態なので、新婦側の両親が難色を示したが、仲人に希総の父である瀬尾総一郎が立った事で話は一気に進んだ。初めは希総自身が仲人をやると言っていたのだが、
「それなら他の人間も全員やってもらわないと」
と言われて断念した。
「式は私達と同じ所で良いわね」
と運営全般を任された掟。
「披露宴は、もしお願いできるならば」
と松木の要望により神林の本邸内ではなく別棟の前庭に決まった。希総との差別化ではあるが、ここは学生時代に祝勝会を行った想い出の場所でもあるのだ。
新郎側の列席者はほとんどが南高バレー部の関係者で、一級上の柳原。そして希総を筆頭に同級の五人。新郎を加えた六人は後輩たちからはと呼ばれている。続いて希総の時に人数の関係で省かれた下級生組。一級下の四人と二級下の三人。三つ違いの柳原兄弟がこの手の集まりで顔を揃えるのは恐らく初めてである。ここに新郎の大学時代の相棒だった亀崎玄が加わる。大学時代には対戦しているので多くは顔見知りである。
亀崎は神林マテリアルに就職して研究室に配属された。
「凄いなあ。あそこは専門職しか取らないから、僕でも入れない」
と真顔で言う希総。
「カメは高校ではレギュラーを取れずに、大学では学業一本で行くと決めていたらしいけれど。俺が声を掛けて三年で初めてユニフォームを獲得した努力の男ですよ」
松木が希総から叩き込まれたメソッドを伝授した成功例である。
新婦側は二級上の総美と沙弥加のツートップ。そして二人とは高校時代のライバルだった小野田清美。新婦の大学時代の先輩である。そして清美の次の主将である琴平佐智子。その次が新婦になるが、同学年の相棒菊地羽衣音。そして一級下の海野睦実と続く。
これとは別のグループとして、新婦の同級生である万里華と刹那。そして新婦の職場関係者として御堂美紗緒が参加する。この三人は義理の姉妹でもある。年齢的には万里華が一番上だが、刹那も美紗緒も義理の姉になる。逆に掟は年上の義妹になる訳で、あまり突っ込まない方が良い。
披露宴の会場に大型のモニターを用意して式の様子を生中継する。これは希総の式の時にも企画されたのだが、
「母から生中継はNGだと言われたからね」
「本当の理由は私の父だと思うけれど」
掟の実父糟屋氏は色々と問題のある人物で、要するに希代乃や総一郎と一緒に映っている映像を流して利用されたくないのである。希総の式の映像は希代乃が編集して身内に配られたが、糟屋氏は後ろ姿だけで顔が確認出来るアングルは巧妙に避けられていた。
「衣装は和洋どちらにする?」
と訊かれて、
「やはり和ですね」
と答える愛。
「じゃあ大き目のサイズを用意しておくわね」
「え。まさかわざわざ買うのですか?」
「今後の事ももあるから。二人は背が高いから私たちのではちょっと丈が足りないのよね」
和装なら、大き目のモノを用意しておけば着付けで調整が可能だ。
「和装で六尺越えってハードルが上がるからねえ」
「今後というのはほかの連中のためにも?」
と松木。
「ああ。大鳥と梅谷とか。君よりもでかい連中が後に控えているからね」
「お相手も皆さん高身長だから」
別棟は元々は希代乃の為の子供部屋として作られた。故に当時は前庭も希代乃の管理下にあった訳だが、今は先代の隠居所として使用されている。
掟は先代の元を訪れて前庭の使用許可を含む協力を求めた。
「勿論、協力は惜しまないわ」
とほのか様。
「松木君もついに結婚か。まあ希総と同級生なのだから早いとも言えないが」
と笑う俊樹氏。
「貴方。区別がついているのですか?」
と妻に言われ、
「勿論だとも。私はこれでもバレーボール協会の会長だよ」
昨年のインカレの試合もきちんとチェックしていたらしい。
「人員が必要ならばうちからも出すけれど」
と言われて、
「調理場さえお借りできれば人手は足りています。ただ、お色直しの時にお手伝いをしていただけたら助かります」
「ではそのように手配をしておくわ」
先代ご夫妻は当日の中継にも顔を出した。ほのか様は娘の希代乃ほどに威圧的ではないが醸し出すオーラは半端ない。夫の俊樹氏も単独では存在感を出すが、妻と一緒の時には一歩引いて見える。
大鳥と望月が真っ先に駆け寄っていつでも手を貸せるように寄り添った。
総美と沙也加はお二人に一礼すると、
「そこを空けて」
と言って最前列の真ん中に席を作る。メイドたちは持ってきて椅子をそこに配置する。
「私たちは最後尾で良いのに」
「お二人に背後にいられたら、見張られているみたいでみな落ち着きませんから」
ご夫妻の左右には総美と沙也加が座った。他の人間が遠慮して座りたがらなかったからだ。
「希総君相手には緊張しなくなったのにねえ」
と苦笑する万里華に、
「慣れの問題もあるけれど、バレーボール協会の会長というお祖父さまの役職も影響しているのかなあ」
と淡々と分析する希総だった。
「ほら。今日の主役がご登場よ」
とほのか様。
モニターには新郎新婦の入場シーンが映る。
「二人とも立派になったわねえ」
とほのか様がぽつり。
「え。二人ですか?」
と首を傾げる沙也加。松木の方は中学生の頃から神林邸に出入りしていたが、愛の方はほのか様との接触は無かった筈だ。
「仲人の二人だよ」
と俊樹氏。
「総一郎くんと矩華さんの仲人をしたのが私たちだからね」
式を見届けるとお二人は引き上げた。
掟はマイクを桜塚に渡して、
「司会進行はお願いね」
と言いおいてお二人につきそう。
メイドたちが会場のセッティングを始める。中央にテーブルを置いて料理を運び始めた。大鳥と望月もそれを手伝う。
セッティングが終わるとほぼ同時に通用門が開いてリムジンに乗った新郎新婦ご一行が到着した。
「新郎新婦が入場します。皆さま盛大な拍手でお迎えください」
大鳥と望月が新郎新婦の両親をひな壇の両脇に設定された親族席に案内する。
新郎の松木からの挨拶に続いて、仲人の総一郎の乾杯の音頭。そして新郎新婦はお色直しの為に掟に別棟へ誘導される。仲人の総一郎と矩華は雛壇に座って主役が戻ってくるまでの身代わりを務めた。
新郎新婦の両親のもとには友人たちが次々にお祝いを述べに来る。
真っ先に動いたのは大鳥と望月。中学からの後輩である菊池静馬と最年少組がこれに付き従う。
「ご無沙汰しています」
二人が松木の両親と会うのは高校卒業以来だ。
「二人とも立派になったわね」
と言われて照れる大鳥と望月。
「先輩達が昔はヤンチャだったという話ですね」
と二級下の八橋。
「神林先輩はそんな人たちばかりをスカウトしていたからねえ」
と静馬。
「この人たちはその中の数少ない生き残りだよ」
「静馬は小学校からで、俺たちが二年で入った時には一年で唯一のレギュラーだったからな」
と望月。
「自分よりでかい姉に付き合わされたんですよ」
高校を出るころにはようやくその姉をわずかながら超えた。
そのでかい姉は相棒である新婦の両親(主に母親)と歓談している。一緒にいるのは総美と沙也加、そして一番年下の睦実である。
「次は羽衣音ちゃんかしら」
「交際期間の長さでいえば睦実ちゃんの方が先かなと」
「うちの場合は、卒業したら取り敢えず籍は入れてしまえ。と言われています」
と睦実。彼女の家が本家筋なので望月の方が改姓して婿入りと言う事になるらしい。
「就活はどうなっているの?」
と羽衣音に聞かれて、
「家業のお手伝いですよ」
海野の家は山持ちで、林業を営んでいる。
「神林家に買って貰うおうかと言う計画もあるのですが、一枚噛みますか?」
実家が不動産業を営む総美に話を振る。
「それはうちの手に余るわねえ」
と言って手招きをする。
やってきたのは御堂美紗緒。彼女と談笑していた万里華と刹那も付いてきた。
「こんにちは、お義姉様方。そして初めまして。御堂美紗緒です」
「私と愛の勤める会社の役員です」
と羽衣音が言い添える。
入れ替わりで総美と沙也加は引き上げた。
「・・・林業ですか。神林と話を進めている状況で御堂が顔を出すと揉めるでしょうね」
と笑って受け流す美紗緒。
「そちらのお二人は?」
と話題を変える新婦の父。
「ああ紹介が遅れました。新婦の同級生で、生徒会の副会長だった滝川万里華さんと、陸上部のエースだった野田刹那さんです」
「お二人とも見覚えが」
「万里華さんは男子バスケ部を率いて九冠を達成しました。美少女監督として雑誌の表紙を飾ったこともあります。刹那さんは七種競技の全日本チャンピオンで、三千メートル障害では金メダルも取りましたから」
「私も南高の卒業生で、後輩の活躍は折に触れて聞いていましたが」
と新婦の父。
「私のいたころは部活動で全国大会に出るなんて考えられなかったので、学業の方がどうなっているのかと気にしていたのです」
「南校は今も県内屈指の進学校ですよ」
と刹那が反論する。
「偏差値で見れば昔以上の難関校です。公立であるわが校は志願者が増えたからと言って定員が増やせるわけではありませんからね」
と万里華が言い添える。
「部活動は教育の一環であって教師は関与しない生徒の自主的な活動です。私があの当時注目されたのも、大人の指導者が不在だった事が大きいのだと考えていますわ」
「鶴田さんはわが校の掲げる文武両道の模範ですよ」
と刹那。
「刹那さんは南高の教師で、万里華さんは外務官僚です。この二人を敵に回すと怖いですよ」
と睦実が笑う。
「貴方、そもそも娘の教育にさほど関心がなかったじゃなありませんか」
と叱責されるに及んで、
「誠に失礼を言った」
と平謝りになる新婦の父であった。
友人代表の祝辞。
まずは新婦側の総美と沙也加。
「新婦の先輩である西条さんと日野さんです」
と旧姓で紹介される。
「今は二人とも結婚して、こちらが西条です」
と総美。これがやりたくて旧姓で紹介させたのである。
「結婚に時間差があったので、一時期は西条姉妹で済んだ時期がありましたが」
「今は西条。年上の義妹になります」
と沙弥加の方もネタを被せてくる。
「三カ月しか違わないじゃないの」
これも昔からの定番ネタである。
一方の新郎側は大鳥と望月。
「二人の結婚には一つの障害がありまして。それはどちらの姓を名乗るか」
妻の姓に合わせると夫は鶴田美津流になる。
「これだと将来禿げそうだと言う事で松木姓に落ち着いたようです」
と笑いを取る望月に対して、
「新婦はそのスタイルと名前からマナツルさんの愛称で呼ばれていましたが、これからは二人合わせてマナツルとして共に羽ばたいて欲しいと思います」
と大鳥が締める
宴はまだ終わらない。
マジで終わりませんでした。
ちょっとだけ続きます。




