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元転売ヤー、異世界で市場を作る~この世界、価格設定が甘すぎる。~  作者: 蒼凪 格


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第5話「腐らせるな、姿を変えろ」


翌朝、俺は集落へ向かった。今度は一人、歩いてだ。案内料の五枚すら、惜しかった。


ユナは自宅の裏で、薬草を干す棚のそばにいた。俺の顔を見ると、呆れたように言った。


「よく来たね。借金取りみたいな顔で」

「謝りに来た。あんたたちが採った草を、半分腐らせた」

「……金より、そっちが悔しい」


ユナは棚の乾燥した草を一束、俺に投げて寄越した。


軽い。生の束の三分の一もない。そして、香りが強い。


「これは?」

「うちで使う分。祖母のやり方で干した月光草。生より効きが安定する。集落じゃ、どこの家でもやってる」

「なんで今まで、それで出荷しなかった」

「仲買人が『生で持ってこい』って言うから。乾かす手間は、値段に乗らない。……あんたも、乗せなかったでしょ」


図星だった。


俺は乾燥した束を光にかざした。葉の色は落ち着き、赤い紐で束ねられている。


「ユナ、この干し方、八十束分やれるか」

「八十? わたし一人じゃ無理。でも集落の女衆と、畑仕事の合間の男衆を集めれば、二日で」

「手間賃は払う。一束あたり、買い取り四枚に、乾燥の手間賃一枚を足す。乾燥品一束、五枚だ」

「……また値段を上げる」

「違う。今回は上げてるんじゃない。仕事に値段をつけてるんだ」


生の草を運ぶから、馬車は重く、暑さで腐り、半分が消えた。


乾かしてから運べば、軽い。腐らない。集落に加工の仕事と金が落ちる。バルドは乾燥品の方が、むしろ扱いやすいはずだ。


足りなかったのは、高い買い取り価格じゃなかった。草の「姿」を変える一手間だったのだ。


ユナはしばらく乾燥棚と集落の家々を見比べていた。


「二日くれるなら、やる。ただし条件」

「増えたな、条件」

「腐らせた分、あんたは集落に借りがある。今回の八十束、わたしらが本気でやる代わりに――出来上がった乾燥品の買い取りは、絶対に反故にするな」

「しない」

「口約束は商人の――」

「発注書はバルドに書いてもらう。次の発注を取り付けて、集落長とギルドにも届ける」


俺はその場で、持っていた紙に条件を書き出した。――といっても、書けるのは数字と、形を覚えた単語の箇条書きまでだ。ユナは腕を組んで、それを覗き込んだ。


「……数字だけ、やたら速いね」

「前世じゃ請求書ばかり書いていたからな」

「字の方は?」

「見ての通りだ。文章はまだ無理だ」

「商人のくせに」

「だから正式な書面は、集落長に書いてもらう。後でな」


ユナが笑った。あの失敗以来、初めて見る顔だった。


集落長への説明は、その晩だった。


長老格の男が、最初に反対した。


「仲買人との契約を破れば、来年から全部の買い取りが止まるかもしれん」

「破りません。今回も余剰分と、その加工品です。それに――」


俺は発注書と、集落長に書いてもらった契約書を並べた。


「乾燥品は、集落の『新しい商品』です。生の草の契約とは別物として、ギルドに届け出ます。万一揉めれば、矢面に立つのは俺だ」


集落の人々が顔を見合わせた。ユナの父が、杖を突いて立ち上がった。足の怪我で重労働はできないはずの男だ。


「……衡さん。あんた、腐らせた分のことを、最初に謝りに来た」

「はい」

「商人が謝るのは、初めて見た。わしは、それで十分だと思うがな」


父はユナを見た。


「ユナの干し方は、婆様から教わった本物だ。それが町の役に立つなら、誇らしいことじゃないか」


長老格の男は長い沈黙の後、頷いた。


「二日。集落総出でやる。その代わり、約束は守ってもらう」


その日から、集落の景色が変わった。


各家の軒先に干し棚が増え、女たちが葉を選別し、男たちが棚を組み、子供が束を運んだ。月光草の香りが集落中に満ちた。ユナは棚から棚へ走り回り、乾き具合を指で確かめて指示を出す。


「そっちは風が通らない。半日ずらして」

「この束は葉が厚い。もう半日」


彼女の祖母の技術は、「田舎の古いやり方」などではなかった。湿度と風と葉の厚みを読む、立派な品質管理だった。


問題は金だった。


乾燥品八十束、五枚で四百枚。俺の手元には、ほとんど残っていない。バルドの前金は使い切り、借りが二十五枚ある。


二日後、乾燥品が出来上がる。その日に四百枚を用意しなければ、この仕事は止まる。


俺はユナに言った。


「二日、集落を任せていいか。俺は町へ戻る」

「金策?」

「ああ。借りに行く。……ただし、今度は他人の好意じゃない。仕組みで借りる」


「仕組みで借りる、って何」


「信用だよ」


俺は、干し棚の向こうに広がる集落を見た。


この仕事が本物なら、それを証明する書類は全部揃っている。バルドの発注書。集落との契約。俺の――損を隠さなかった帳簿。


問題は、証明を「信用」に換えてくれる場所があるかどうかだ。


バルドの話では、市場の北のギルドが契約を預かり、信用を管理し、信用のある商人には金を貸すこともあるという。俺にその「信用」があるかどうかは、行ってみなければ分からない。


(第6話へ続く)


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