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黒剣塵拙 -不吉な黒風に纏われし鈍才-  作者: ガリガリワン
第二章 東勢大陸 廃村編

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第十五話 普通じゃない


「イグレットだけズルいわよ! あたしが先に教えてもらう約束だったんだから!」


 魔力操作、それは剣士にとっても必要な技術。


「あ……そ、そうだよね。エパから先に──」

「別々は面倒〜、同時に教えるのーん」


 イグレットもエパも、この技術を極めるべきである。


「まあ一応言っておくけど、わちは魔法教師でもないから、教え方は結構感覚だけど……がんばれのーん!」


 その言葉でイグレットは仄かに不安を感じた。


(感覚……どうしよう、すごく教え方が下手だったら)


 そんな失礼な危惧をしてしまうイグレットだが、不安に浸かる前に、ティラが早速問うてくる。


「二人は、魔力を扱う時どうやって流してる?」


 答えるのが早かったのはエパ。


「こう、体の真ん中からグンッと! ぶわぁ〜って! そしたらくぁあっ! ってして魔法が出るわ……!」


 最悪な答え方だが、ティラは理解したように頷いている。イグレットはそんな二人に絶望した。


(絶対感覚重視だ……僕そういうの苦手なのに!)


「次イグレット君〜」


 そうして、自分の番が回ってくる。


「えと、えっと……踏ん張ると、手から出ます!」


 イグレットの回答も中々に酷かった。


「……たははは、そういう感じ? わかったのーん」


(すごく……バカにされた感じがする)


 ティラは苦笑いしながらそう言い、左腕を上に向けて話し始める。


「結論から言うと、二人はやり方を知らないだけ。エパちゃんに関しては、何言ってるかわからないしー……イグレット君は典型的な良くないやり方のーん」


 エパがムスッと腕を組む中、イグレットは自分のやり方が良くないと言われて納得した。


(そもそも……魔力なんていつも使わないし……)


「魔力ってのは水と同じだよ。体を川だと考えて〜、手足は分かれ道、頭が源泉で胴体が本川(メインの大きな川)」


 ティラはニヤニヤとしながらそう語る。


「頭から魔力は流れる──ってことは、無理に手足や体から出そうとすると、ちょっとしか出ないし、流れに逆らってるから粗くなりやすいんだのーん」


 エパはそれを聞き、自分なりに解釈した。


「じゃあ頭からぶわぁ〜ってやればいいのね……!」


 それを聞いたティラは諦めたように頷く。


「まあ、エパちゃんは魔法使いだから、魔法陣を経由させるために一回、足まで魔力を流してから手に流すのが良いと思うのーん」


 一方、イグレットは少しだけ理解していた。


(流れるように……確かに、手からいきなり出そうとしてたかも)


 ティラは左腕から風の魔力を放出する。


「慣れたら意識しなくても出来る。てことで、早速やってみようかのーん?」


 イグレットはその声掛けで実践に移る。黒い風の魔力を、意識的に扱おうとするのは久しぶりだ。


 彼は右手を誰もいない方向へと向ける。


(頭から体に魔力を流して……)


 イグレットは自分の体が熱くなる感覚を味わう。


(手足から……グッと! グゥウアっと!!)


 やがて、その熱は全て右手に集った。



「エパちゃん下がって!」

「えっ?」



 ティラがエパに向かって飛ぶ。二人は倒れる。


 続けて、イグレットは感じたことのない寒気を全身に覚える。そして──右手から黒く染まった衝撃波のようなものが、数メートル先まで地面を抉り取った。


 キーンって耳鳴りがする。

 イグレットはボーッとしていた。


(あれ……音が聞こえなくなって……あ、れ)


 彼は後ろに倒れる──白目を剥いた状態で。


「イグレット!? イグレットっ!!」


 エパはティラが上から退くと、すぐに立ち上がってイグレットに近づき、顔の隣に座り込んで頬を強く摘む。それでも彼から反応は返ってこない。


「落ち着いて落ち着いて、死んじゃいないのーん」

「し、死んでないの? ……よかった」

「魔力切れによる気絶、よくあることだのーん」


 ティラは気絶したイグレットを見た後に、抉られた地面の規模を見て口角を上げる。


「……制御なしの全開とはいえ、子供がこの破壊力……是非とも魔法使いになってほしいのーん」


 そんなことを言うと、エパが猛反対してきた。


「イグレットは剣士になるんだから!!」

「あぁ〜ごめんごめん〜」



 ーーー



 目が覚めた。イグレットは布を退けて起き上がる。


「……エパ?」


 隣では壁にもたれて彼女が寝ていた。


(なにがあったんだっけ……?)


「んぅ……イグレット……?」


 すると、イグレットの声掛けに目覚めたのか、エパがこちらの名を呼んでくる。


「おはよう……というか今、夕方なんだ」


 窓からは夕日によって茜色の光が差し込み、エパは窓のすぐ下にいたので日陰に染まっていた。


「……」


 イグレットはそろそろ立ち上がろうかと思った時、エパが座ったまま床を進み、こちらに抱きついてくる。


「え、え? え」

「心配させないでよ……」


 エパは悲しそうな声で言ってくる。どうやら、かなり彼女を心配させていたようだ。イグレットはそれを知ると申し訳なさそうに、エパの背中を撫でた。


「ごめん……多分、倒れたんだよね、僕」

「魔力切れで気絶って、ティラさんが言ってたわ」


 エパはこちらから離れて立ち上がると、短い銀髪を靡かせながらイグレットを見下ろす。


「ティラさんが起きたら降りてこいって言ってたわよ。だから早く行きましょ」


 そう言う彼女は少しだけ不満そうな表情を浮かべていた。そのせいか、なんとなく怒っているように感じる。


「……怒ってる?」

「べつに……怒ってなんかないわ」

「そう……? でもやっぱり怒ってるんじゃ──」


「怒ってるわよ!! 察しなさいよ!!」


 イグレットはビクッとして驚いた。エパはドミテオ王国が滅んだあの日以来、過保護な態度を彼に見せるようになった。


「……は、早く行くわよ!」


 そして、エパは駆け足で部屋を出て行く。イグレットもこれ以上待たせると殴られる気がするので、早々に立ち上がって彼女を追いかける。



「おはようイグレット君〜」

「おはようございます……」


 プンプンと怒っているエパを前にしながら、ソファに埋もれるティラに挨拶を返した。


「なんか怒らせちゃったのーん?」

「いや……まあ、そんなところです」


 エパは目をつぶったままソファにボフッと座り、イグレットは少しだけ気まずい。対してティラは面白がるようにクスクス笑っている。


「とりあえず、ちゃんと起き上がって良かったのーん。お腹とかすっごく空いてるんじゃない?」


 そう聞かれると、イグレットは頷く。


「はい、お腹空きました……」

「魔力切れになったから当然当然〜」


 ティラはソファから起き上がって、イグレットに指を向ける。


「イグレット君の魔力、正直想像以上だったよーん。今まで魔力関係を鍛えなかった人が、ただの魔力放出で地面を抉り取るのは異例だのーん」


 異例。イグレットは首を傾げた。


「普通じゃないってこと。もっと言えば、魔力面は才(・)能(・)が(・)あ(・)る(・)ってことのーん」


 イグレットはその一言に、強く反応する。


「才能……僕にも才能があるんですか!?」


 だが、予想に反してティラの返しは冷たい。


「いや、剣士をやるなら、むしろ足を引っ張るよ」


 イグレットはその場に座り込んだ。


「そ、そんな……そんなぁ」


 ただ、ティラはそこで話を終えない。


「まー、上手く使いこなせば強くはなれるよーん」

「え……?」


 彼女はソファを降りてこちらに近づいてくると、イグレットの頭を撫でながら言う。


「周りより魔力が強くて、それが剣の邪魔になるだけ。でも言っちゃえば、扱いが上手ければどうにかなるし、他の剣士より強くもなれるのーん」


(他の剣士よりも……?)


「だけど、魔力を使いこなすってのも難しい話。君がこの一年でどれくらい出来るようになるか……それは完全に“努力次第”ってやつのーん」


 イグレットは希望を抱く。

 努力。それは今までし続けてきた行為。


 慣れているわけでもない。好きなわけでもない。


 彼にとってそれは、才能のなさからの逃げ道だった。


 だからこそ、努力と聞いて口角が上がる。


 道は見えた。やることも決まった。


 ならばどうするか──



「努力なら……僕、たくさんできます!」


 やるだけである。


「にゅははは、良い意気込みだぞー、ただ明日からね。今日はゆっくり体を休めるのーん!」

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