↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒剣塵拙 -不吉な黒風に纏われし鈍才-  作者: ガリガリワン
第二章 東勢大陸 廃村編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/21

第十四話 猪突猛進


「エパちゃんはさ、憧れの魔法使いとかいるのーん?」

「憧れ……? う、うーん、わかんないわ」


 ソファでくつろぐ二人は、イグレットが出かけた後も会話をし続けていた。


「珍しいね、みんな大体いるけどねーん」


 ティラが言うように、大体憧れは持っているものだろう。ただ、思えばエパに、憧れの相手などはいない。


「あんまり考えたことないの、そういうの」


 ティラはそれを聞いた後に頷き、少しして口を開く。


「わかりやすく憧れるなら、君級(くんきゅう)魔法使いの誰かを目標にしておくといいのーん」


 エパはそう言われると、現存する七名の君級(くんきゅう)戦士のうち、五名の君級(くんきゅう)魔法使いの異名を思い出した。


(キリートが教えてくれた五人……確か──)


 癒永(ゆえい)──


 枯星(こせい)──


 墜楼(ついろう)──


 川霍(せんかく)──


 龍詠(りゅうえい)──


(だった……はずよね? 憧れ? いないわよそんなの……だってどういう人たちか知らないもの)


 エパはしばらく難しい顔をして考えていたので、見兼ねたティラは話題を変えるようにこの話を終わらせる。


「ま、憧れなんてなくてもいいさー。とりあえず、エパちゃんは魔法の精度を上げるために、今から魔力操作の特訓でもしようかのーん」


 彼女はそう言って立ち上がり、エパもそれに合わせて立ち上がる。


「魔力操作の特訓って何をするのよ?」

「エパちゃんの意識を変えさせるだけだのーん」


 よく理解はできない。ただ、ティラは家の外へと歩き始めたので、エパも置いていかれないように駆け足でついていく。



 ーーー



「エパちゃんは、魔法の威力自体は強いからねー。でもほんと、魔力の流し方が雑すぎる。てことで、わちが今から色々教えてあげるのーん」


 外に出た二人。歩く中で饒舌に話すティラは、立ち止まって振り返り、腰に手を当ててエパを見る。


「雑……でも、あたし綺麗にやってるつもりよ!」

「のんのんー、まあまあ、教えてあげ──」


 すると、エパはティラの肩の先、遠くではあるがイグレットが見えたので、思わず名を叫ぶ。


「イグレット!!」

「うわぁ!? び、びっくりした」


 ティラは驚いて振り返ると、エパが叫んだことに納得する。


「早いわね。もう疲れたのかしら?」

「いやぁ、そんな弱っちい子なのーん?」

「イグレットは弱くないわ!」

「ご、ごめんのーん」


 エパに気圧されたティラは、苦笑いしながら水晶玉を懐から取り出す。


「エパちゃんってさ」

「ん、なにかしら」


 そして、水晶玉を左手に握るティラは言う。


「イグレット君の……黒い魔力は知ってるのーん?」


 エパはそれを聞き、即答する。


「知ってるわ。黒い風の魔力でしょ。あたしも昔から見てきたし……それがどうかしたの?」


 彼女は水晶玉を上に投げ、それを浮かせ続けた。


「そう黒い風の魔力ね。それでさ、うーん……まあ結論から言うと、やっぱり予想通り──イグレット君のおかげで、デ(・)カ(・)い(・)の(・)が来ちゃったのーん」


 エパはティラが何を言ってるのかわからない。そして、次第にイグレットはこちらに近づいてきている。


「デカいの……?」

「そうそう、まあ、ここが廃村になった元凶ね」


 それでも、理解できないなりに、なんとなく嫌な予感がし始めた。


「はぁっはぁっ……」


 そう感じ始めた時、イグレットが二人のもとに帰ってくる。


「イグレット、早すぎない? もっと走ったほうがいいんじゃないかしら!」

「あは、はは、そうなんだけど、僕ティラさんに──」



 濃い紫の電撃が走る。


 咄嗟に、ティラがイグレットの手を引き、結界のようなものを発生させ、完全にそれを防ぎ切ってみせた。


「……え?」

「間一髪、危なかったのーん」


 イグレットは振り返ると、少し先に大きな牛が見えた。続けて、エパが驚いたように声を発する。


「なんで!? さっきまでいなかったわよ!」


 二本のドス黒い角を持つ牛は、身体中に発光する紫の模様を刻んでおり、赤い瞳がこちらをジッと見つめていた。


「二人とも、良い機会だしちょっと見てなのーん」


 ティラは水晶玉を浮かせたまま指をパチンと鳴らすと、ドーム状の青い結界が発生した。彼女だけが結界の外に出ていく。


「ティラさん!」


 イグレットは叫んだ。危険だからだ。あの牛は魔物である。加えて、見た目からしてかなり強そうだ。


「大丈夫大丈夫ー、わち、強いのーん」


 とんでもなく慢心しているティラ。結界の中に残された二人は不安を抱えて、彼女の背中を見続ける。


「イ、イグレット! ティラさん止めなきゃ死ぬわよ! もうこれ以上、良い人が死ぬなんて嫌よ!」


 エパがそう言って走り出すと、結界から出ようとした瞬間、ゴンッと空間に頭をぶつけて尻もちをついた。


「いったぁい! なによこれぇ……」

「ティラさんが多分……内側から通れない結界に変えたんだ」


 エパはその事実に青ざめる。


「じゃ、じゃあどうするのよ!!」

「ティラさんの自信を信じるしかないよ……」


 イグレットとエパは、彼女が強いことを知っている。それでも、あの魔物と戦うのは危険だと思った。


 一方、ティラは余裕そうに体を伸ばしながら歩いており、懐からもう一つ小さな水晶玉を取り出す。


「元凶退治、今日は出来るかのーん?」



 ーーー



 ティラ・パラメルノ。ここ、東勢大陸(とうぜいたいりく)──フィエルテ王国領土内にて、ギルドに所属していた魔法使いの一人。


 彼女は現在、ある理由で魔物討伐をしている。


(帥級(すいきゅう)魔物、茈牛(しぎゅう)。しぶとすぎてギルドが諦める理由がわかるのーん)


「ま、どうにかなるのーん」


 ティラは水晶玉を少し先に見える茈牛(しぎゅう)に向けて投げ、片目を閉じた。


「モゥォオオオオオオン!!」


 戦いの火蓋が切られる。


「颶風蒼(フルメトラ・アピア)!」


 ティラの足元に青く巨大な魔法陣が浮かぶ。


 そして、茈牛(しぎゅう)が紫の電撃を纏いながら向かってくると、直線上故に先の水晶玉に接近した。

 それは悪手と言える。なぜならば、ティラの魔法は水晶玉を起点に発生するからだ。


「モァアアアアア!!」


 颶風蒼(フルメトラ・アピア)。

 帥級(すいきゅう)魔法に分類される、水と風の混合魔法。巨大な竜巻に水で出来た斬撃を纏わせることによって、とてつもない破壊力を誇る魔法である。


「ぼちぼち、将級(しょうきゅう)目指そうかのーん」


 茈牛(しぎゅう)が高く打ち上がり、ぐるぐると回転しながら地に向かって落ち始めた。案の定、その巨体は地面に強く叩きつけられた。


(死なないよねーん)


「モルァアアアアアアア!!」


 身体中が鮮血に塗れる茈牛(しぎゅう)は、咆哮を上げると快晴の下、激しく発光して走り始める。


「風群針(ウィドラドア)、水沈(アドグロー)!」


 ティラは懐からもう一つの水晶玉を取り出し、体の中心で固定すると、左右の空間に魔法陣を浮かばせた。


 茈牛(しぎゅう)に向けて彼女は指を二度、パチンと鳴らす。


「ボォオォオオオオ!!」


 一つの魔法陣からは風を硬く固め、尖らせた弾丸を大量に発射した。次に残る一つの魔法陣は、大量の水を地面向け放出し、茈牛(しぎゅう)の足元を濡らす。


 それにより地面は軟化し、茈牛(しぎゅう)の巨体に耐えきれず足を絡めとる沼へと変化する。


(にしても……体力は無限かのーん?)


 しかし── 茈牛(しぎゅう)は尽きない。


 風の弾丸によって身体中が凹み、皮膚が砕かれ血が噴き出そうと、死に至るには到底ダメージが足らない。


「ッモォオオ……モォオオウウウ!」


 足を沼から引き抜き硬い地面の上に出た茈牛(しぎゅう)は、ティラを睨みつけて鼻息を荒くする。


(……ダメージは入ってる。変なことしなきゃ、このままわちが勝ち切れる。だけど──)


 戦闘が再開されるかと思った矢先、茈牛(しぎゅう)は紫の電撃を纏って後退し始めた。


(だよね。毎回逃げるのーん)


 茈牛(しぎゅう)はこのまま戦う選択肢を取らなかった。これでティラは、三回目の逃亡を許すことになる。


「追ってみろって感じだのーん」


 深追いすれば確実に、相手が有利になってしまう。


(……それにしても、イグレット君の黒い魔力は困っちゃうのーん。魔(・)物(・)を(・)引(・)き(・)寄(・)せ(・)る(・)なんてねーん)


 ティラはジリジリと下がり続ける茈牛(しぎゅう)が、視界から消えるまで警戒を解かなかった。



 ーーー



 イグレットとエパのもとに、ティラが無傷で戻ってくる。戦いの一部始終を見ていた二人は、すっかり彼女の実力を信用しているようだ。


「わちは強いんだのーん!」


 結界を解いたティラは、水晶玉を自身のもとに帰ってくるように操作し、左手でキャッチして懐に入れる。


「あんなに強いなんてすごいわ! あたし、ティラさんが絶対に怪我すると思ったのに!」


 失礼なことを堂々と言うエパ。ティラは頭をかきながら苦笑いしていた。


「本当に強い魔法使いさんなんですね……!」


 続けてイグレットがそう言うと、ティラは言葉を彼に返す。


「にゅははは、嬉しいのーん! ……あっ、イグレット君、言っておくけど、あいつが今来たのは君のせいでもあるんだからねーん」


 そう言われたイグレットは、きょとんとしてしまう。


「君の黒い風の魔力、特異な魔力のせいなのか、魔物を強く誘き寄せる力があるのーん」


(……そうなの? 僕の黒い風の魔力に……?)


 ティラは腕を組み、忠告するように話す。


「つまり! 君が旅する時は人よりも数倍危険、一年かけてめちゃくちゃ強くなってもらうのーん」



 そこで、イグレットは思い出す。


「そ、そうなんです! 強くなりたくて帰ってきたんですよ!」

「イグレットも魔法を使うの?」


 エパの言葉には首を横に振るイグレット。


「強くなりたいって、どういう意味のーん?」


 ティラの質問に、イグレットは答える。


「僕に、魔力の扱い方を教えてください!」


 その一言に、彼女はニマニマと笑顔を浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。