↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒剣塵拙 -不吉な黒風に纏われし鈍才-  作者: ガリガリワン
第二章 東勢大陸 廃村編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/21

第十二話 決意


「どっちでもいいのーん」


 イグレットとエパは夕暮れ時、廃村に佇む一つの綺麗な家に侵入した。そしてそこで、おそらく住人と思われる女性に出会う。


「あ……えっと、その、すみません。すぐ出ていきます」


 この状況で相手を怒らせれば殺されるだろう。なにせ、廃村に住んでいる変人なのだから。


「あぁ〜いいのーん。出ていかなくて」


 彼女はそう言った。


「え? いいの!?」


 エパはそれを素直に受け取る。

 対してイグレットは困った表情を浮かべた。


(食われたりしないよね……)


 大きな水晶玉を抱え、クリーム色の犬の耳と尻尾を持つ彼女は、ニコニコとこちらに寄ってくる。


「君ら困ってるよねー、わちが救うてやるのーん」


 彼女は紫の瞳に、ベージュ色の髪の毛を肩まで伸ばしており、眠たそうなタレ目が特徴的だ。


(……これ、食べられたりしないよね?)


 イグレットは再度そう思った。目の前に立つのは、彼と同じ身長ほどの女性。彼女は喋る度に、八重歯がチラチラと姿を現している。


「……わち、人族(ひとぞく)は食わんのーん」


 見破られてしまった。不安が顔に出ていたのだろうか。イグレットは気まずそうに苦笑いした。


「ねえ、あなた名前はなんて言うのかしら」


 エパはそんな彼を放っておき、犬の女性へと名を尋ねる。


「わちは、ティラ・パラメルノだのーん」


 ティラと名乗る彼女は、水晶玉を抱えて部屋の奥へ進み、ソファのようなところにそれを置いて、二人のもとに戻ってきた。


「ティラって言うのね!」

「エパ……さんはつけようよ」

「……ティラさんって言うのね!」


 ティラは相変わらずニコニコしながら、口を開く。


「君らはなんて名前のーん?」


 そう聞かれたので、二人は答える。


「イグレット・アルトリエです」

「エパ・ミルティア・ダッドアードよ……!」


 そして、ティラは首を傾げた。


「エパちゃん、貴族? なんでここにいるのーん?」


 エパは暗い表情を見せる。


「……あたしもわかんないわ」


 ティラは少し黙り込んだ後、二人の横を通って歩き始め、少し離れてから振り返った。


「とりあえず座ろうよ、疲れてるでしょー」


 その言葉に、二人は素直に頷いてティラの方へ駆け寄っていく。すると彼女はソファに手を向け、そこに座っていいと促す。


 そうして三人は横並びにソファに座ると、エパは気が抜けたのか沈むようにくつろぎ始めた。


「君ら、多分だけど西黎大陸(せいれいたいりく)出身でしょーん?」

「えっ、なんでわかったんですか」


 ティラはイグレットの服の袖をつまむ。


「こーんな服、あの大陸だけのーん」


 イグレットは麻で出来た長袖の服を着て、長ズボンを履いており、どちらも通気性はかなり良い物。エパも長袖の服であるが、長いスカートを履いている。


「わかりやすいのーん」

「そ、そうなんですね」


(こういう服って、西黎大陸(せいれいたいりく)だけなんだ……)


「……眠たいわ」


 エパはため息を吐きながら、眠たそうにしていた。だが、ティラはソファから立ち上がり、二人に対して言う。


「寝るなら、体は洗ってくるんだのーん」


 入浴。それが出来ると知ったエパは跳び起きる。


「洗えるの……? なら洗ってくるわ!」

「わちが風呂に入らないとでも思ったのかー……? あそこ曲がったらあるよー、服も出しとくのーん」


 エパは走って浴室に向かう。彼女は綺麗好きなため、たまらなく嬉しいのだろう。


「ふひひ、元気な女の子だのーん」


 ティラは再びイグレットの隣に座る。


「……あの、ティラさん」


 イグレットはその一部始終を見て、彼女に聞きたいことが出来た。


「なんで……ここまで僕らに良くしてくれるんですか」


 ティラはイグレットから視線を逸らし、考える。


「んー……君らが、子供だから?」


 それが彼女の答えだった。


「……そうですか……ありがとうございます」


 イグレットはそう言って顔を俯かせる。


「わちは詮索なんかしない。ただ……気になりはする。君らが、どういった経緯でここに来たのかねーん」


 ティラは口調に反して真面目に本音を口にすると、イグレットもそれを聞いて顔を上げた。


「……僕とエパの住んでいた国は、世喰(よぐらい)って邪族(じゃぞく)に襲われました」


 彼女はそれを聞いて表情を変える。驚き混じりの困惑、信じられないといったもの。


「チラテラ・ベゼドルブ……」


 イグレットは続けて話す。


「それで……師匠から迷宮に逃げるように言われて、エパと一緒に入ったんです。そしたら……気がついたらこの大陸にいて……」


 ティラはそれを聞くと、足を組む。


「君らがなぜ、この東勢大陸(とうぜいたいりく)に来たかは当ててあげる。君らは、“転移迷宮”に入ったんだのーん」


(やっぱり東勢大陸(とうぜいたいりく)なんだ……それより、転移迷宮って何……?)


 イグレットは彼女の方に視線を向ける。


「ここに転移してきたのは不幸中の幸いかもね。わちがいるってのもあるし、生活もしやすいのーん」


 ティラはこちらに目を合わせてきて、口角を上げた。


「その……転移迷宮ってなんですか?」

「あっ、そっかぁ知らないもんねー、教えてあげる」


 彼女はニコニコと話し始める。


「転移迷宮はその名の通り入った瞬間、世界のどこかに転移する迷宮。運悪いと即死するけど、君らはどうやら運に勝ったみたいだのーん」


 意外にもシンプルなものであった。イグレットはそこで、キリートが自分たちを遠くに飛ばそうと考えていたのか、知らなかっただけなのか気になった。


(……考えても無駄だし、うん……無駄)


「君らはこれから、どうするとかあるのーん?」


 説明が終わると、ティラが聞いてくる。


「……まだわからないです。僕たちは親を探すのを目標にしてますけど……旅するにもお金はないし……実力もなくて、どうすればいいか──」


 彼女はソファから立ち上がった。そして、イグレットを見下ろしながら口を開く。


「じゃあ一年、ここで暮らしてもいいのーん」


 イグレットはティラに顔を向けた。


「え? ……いいんですか?」


 彼女は「うんうん」と頷く。


「わちは君らを養子にするわけじゃない。でも、助けることは出来る。だから、準備期間をここで終えるのがいいと思ったのーん」


 話だけを聞けば、このティラという女性は根っからの聖人であろう。だが、イグレットは未だに微かな警戒心を持っている。


(……まだ信用はできないけど、エパのためにも……頼ろう。この人を)


「準備期間……っていうのは?」

「親を探すなら旅必須、となるとその腰の剣もあることだし、ギルドでお金稼ぐのが一番楽のーん」


 ティラは部屋の奥に向かって歩くと、銀色の宝石を手にして戻ってきた。


「わちもギルドに所属してたのーん。一年もあれば色々教えられるし、わちもしたいことがあるんだのーん」


 イグレットは彼女が言う、し(・)た(・)い(・)こ(・)と(・)について聞き返す。


「したいこと……?」

「君らに魔法を教えてみたいのーん!」


 そこでイグレットは察した。このティラという女性は、最初から魔法を自分たちに教えたかっただけだと。


「……僕、剣士です」

「エパちゃんは?」

「一応……魔法使い」

「決まりー! わちが教えるのーん!」


 教えたがりな彼女を見るイグレットは、生きるためには仕方ないと言えど、もしかしたら面倒な人に関わってしまったのかもしれないと思った。


(……変な人だけど、良い人……なんだよなぁ)


 イグレットは苦笑し、ティラは満足そうにしている。


「まあ! 嫌だったらいいけどね。どちらにせよ、一年は住まわせてあげるのーん」


 彼女は依然その態度を貫き、イグレットはそれがきっかけで、警戒心を徐々に解くことが出来た。


(変な人だけど信じてみよう……さすがに悪い人じゃなさそうだし……悪い人じゃないよね?)



 ーーー



 その日の夜、二人は空き部屋で布団を敷き、眠りにつこうとしていた。


「イグレット」


 すると、隣の布団に寝転がるエパが話しかけてくる。


「どうかした?」

「あの人、良い人よね」

「うん……最初は怪しかったけど、あんな美味しいご飯食べちゃうと、さすがに信じちゃうよ」


 二人が食べたのは美味な物ばかり。ティラは驚くほど料理上手であった。


「……これから一年、ここで過ごすのよね?」

「うん。一年だね」

「あたしは魔法を教えてもらえるから嬉しいわ」

「それならよかったよ。嫌がるかと思ってた」


 エパはくすっと笑う。


「そんなわけないじゃない」

「あはは……それもそっか」


 部屋に満ちる静寂。


「イグレット」

「……なに?」


 エパが口を開く。


「……さびしいわ」


 彼女はそう言って、イグレットの腕を掴む。


「僕がいるよ」


 強く掴まれる右腕、彼はそんな状態で言った。


「そうよね……」


 エパは腕を掴む力を弱くしていく。


「エパ」

「……なに?」


 今度はイグレットが彼女の名を呼んだ。


「僕たち、強くなろう。それで、二度と負けないように……誰よりも強くなろう」


 エパはその言葉を耳にして、イグレットの腕に身を寄せる。


「うん……絶対よ」



 心の傷も癒えぬ中、二人は決意した。


 二度と負けないと。


 そして、明日からそれを叶えるため──


 二人は共に、黒き闇の道を進むことになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。