挫折
「ううっ、もう、目が痛い!無理!」赤外線カメラで今日もパールパレスの共用部の壁を細かく撮影する。
ゴミシューターがある団地は思ったより多かった。
ただし、階段踊り場の脇に設置する設計が大半だった。臭いの問題などがあったのだろう。
それとあくまでエレベーターがついた団地なんてものは初期に存在しなかった。
つまり高級アパートメントとして富裕層独身貴族に貸すことを目的に作られたパールパレスに当てはまらなかったのだ。
パールパレスは、防火扉がある完全な内階段の設計だった。つまり、全く参考にならなかったのだ。
この結論に至るまで一月掛かった。
姉妹チームも戦士チームももう投げ出してしまった。
続けてるのは琴子と笠原だけだ。
笠原は配信が本業だし、大学の返済無しの奨学金を成績優秀者だから貰ってる。この社長の酔狂な提案に時間を割いてる暇はない。
琴子は社長とオーナー達に許可を貰って共用部の壁や撮影許可の出た部屋の壁をコツコツと赤外線カメラで映して凸凹でゴミシューターの痕跡をさがす。
図面に残って無いのだ。戦争でもっと詳しい図面はすでに消失してる。その当時を知る人も生きてない!
家に帰って撮影したものを目を皿にして凹凸を探す。
「他にどこかに謎解きがあるかもしれないぞ?そればっかりに拘るのは、時間の無駄かもしれないぞ?」笠原が琴子の部屋に様子を見に来た。
ついでにキッチンでコーヒーも淹れてきてくれた。
「ありがと。でも、同潤会アパートのレプリカ以上の参考になるものは令和に無いよ、多分。
それにほら、直哉が言ってたじゃん、初日に。」琴子が受け取ったコーヒーを飲みながら天井を見る。
直哉とは笠原の名前だ。
この頃は名前を呼ぶようになった、なんとなく。
「仲間だったのにトラブって殺してしまったって。
死なれたら困るのにって。」琴子が目を閉じる。
「昔のヤクザってさ、コマシって言って女を騙して貢がせる今のホスト役みたいなのが居たんだって。古い任侠映画で観たよ。殺された奴もそんな奴だったんじゃないか?」直哉も琴子のベッドに座りながら話す。
「え〜と、つまり仲間を裏切って唯一の相続人として生き残った弁護士娘に惚れた?とか」琴子が聞き返す。
「今となっては、全部憶測だけどね。先に男が行方不明になって、その後に娘が管理人と一緒に沈められたんじゃないかな?」笠原が大胆な予測を立てる。
「なんで、そっちが先なの?」琴子が聞く。
「う〜ん、娘が亡くなった後だと裏切るメリットが無いんだよ。裏切ったら殺されるだけだと分かってるはずなんだ。男が抵抗したのは、奥さんを殺させたくなかったからじゃないか?」直哉が説明する。
「あ…確かに。奥さん死んでからは、裏切らなくても金持ちなるんだから新しい綺麗な奥さん貰えば良いだけだもんね。独り占めしたくてかと思ったけど。
多勢に1人でそんな事言ってもヤクザ相手にバカだもんね。」琴子もその方が辻褄合うなと気付く。
「人がいっぱい住んでた住宅で遺体を運び出すのは至難の業だよ。それも銀座。ビルから出ても夜中も人が歩いてる。だったら、室内で解体してゴミシューターで下に落とす。で、セメントで固めたら?
壁とか塗り込むより簡単じゃないか?人目にもつかない。
バレるとしたら…管理人とオーナーだ。」直哉が説明する。




