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ミスタートイトロッコ  作者: 滝翔
チャプター5 仕合わせ
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第61話 臆病な人


屋内では明かりが灯された

台所には母親と父親 向かい側には颯颯と袴田

そして隣の寝室の押し入れに安斎と柴塚


「どうしますか所長? ってかちょっと離れて下さい」


「残念だが俺の左隣は既に壁とランデブーだ

松原さんは安久谷を追っている筈 なのに安久谷の舎弟っぽかった袴田が目と鼻の先にいる

ホント…… アイツらは殺人してるくせに警察に追われている自覚がねぇのか?」


聞こえない様に押し入れで会話する二人

一方で台所の方でも会話が始まっていた


「安久谷興信所の主な内容は家庭の調査です

家庭内の問題は警察でも手の出しにくい 民事不介入の領域

暴力沙汰でも起きない限りは 相談所も生活安全課も動き辛いのが現状です

私共はそういったグレーな事案に介入する方針で動いています」


「「 はぁ…… 」」


茶髪に似合わないスーツ姿の袴田

しかし口が回ることで親御さんの警戒心を解いていく


「聞けば颯颯君は高校を出て職に就いていたらしいですが

最近までフリースクールに登校していたと聞いています

お父さんお母さんは彼のことをどこまで?」


「どこまでって…… 心配はしていました……

転職も考えず フラフラしていてどうなるものか……

だけど妻と二人で話し合った結果 見守る選択を取ったんです」


「なるほど…… しかし建守君は貴方達に暴言を吐かれたと言っていましたよ?」


「いやそれは……」


「加えて 保育園・小学校・中学校の時には暴力を振るってましたと?

逆に何故…… 高校からは暴力を振るわなくなったのでしょう?」


「それは…… 颯颯の中学の時は金の貸し借りが禁止されていました!!

買い食いも授業中の携帯の使用も部活のサボりも厳罰化でした!!

颯颯はそれを友達もやってるからって軒並みマネし始めたんです!!」


「金の貸し借りに関して…… 息子さんはカツアゲに遭ってたんですよ?」


「だったら相談してくれれば良かったんですよ……!!

だけど叱っても繰り返す子供を 叩く以外何があるんですぅ……!?」


父親の額からは大量の汗が あまり子供を追い込まないよう

家庭が崩壊しないよう 自分が間違っていないよう 弁明をする


「暴力は暴力です 犬や猫じゃないんですよ息子さんは

苦痛を蓄積されて? グレてしまって何故なんだろうって考えていては手遅れになるところでした」


「あの…… ハヤちゃんが人を殺してしまったんです お宅でどうにかなりませんか?」


「それですがもう大丈夫です 渋谷君に直接手を出したのは〝泉太郎〟という単独犯でした

建守君はたまたま同じ建物にいただけですので 近々ニュースで訂正されるでしょう」


「っ……!! 本当なんですか?!」


「えぇ……!! 彼は無罪です!!」


母親はティッシュで涙を拭いていた

そして少しでも疑ったことを自白して颯颯に何度も頭を下げる


「それでここからが本題なんですが…… お二人はユザブルをご存知ですか?」


「えぇ最近のニュースではリクルーターが捕まったとか…… 闇バイトのサイトですよね?」


「実は建守君…… 人助けのサイトだと勘違いしちゃってそこに入ってたんですよ

そんな悪徳サイトから前途ある若者を救い出そうと動いているのがうちの安久谷でして……!!

建守君は無事に脱退し 正式に興信所の平社員として迎え入れました」


「颯颯が…… そうなんですか……」


「ご家庭の問題は 関係修復に急いでも空回りするだけです

それよりもご子息の社会復帰支援に重点を置く という提案に同意して貰いたいのですが?」


「……と言いますと?」


「建守君を私共に預からせて下さい!! 給料は勿論のこと

提携しているアパートに朝昼晩の食事付きです

離れていると心も離れるなんて聞きますが

既に離れてしまっている心を無理に引き寄せ合っても磁石の様に反発してしまいます

どうでしょうか……」


「っ……」


両親は同じタイミングで立ち上がり 袴田に頭を下げた


「「 よろしくお願いします……!! 」」


「託されました……! 責任持って建守君をお預かりさせて頂きます

今日は彼の衣類や日用品を取りに来たという目的もあります

これから個別講習も控えてますので 本日はこの辺で……」


二回から鞄を背負って降りて来る建守

両親に行って来ますという言葉を残す彼の姿勢は活き活きしていた

今まで見せなかった勇ましい息子を見てしまえば 二人は口を出せない


「それではお邪魔しました~~!!」




ようやく押し入れから解放された安斎と柴塚

しかし空気は思ったよりも重く


「大丈夫ですか……?」


「えっえぇ…… あの袴田って人…… 良い人じゃないんですよね?

安斎さん達が先に来なければ信じ込んでいました……」


「……残念ですが 奴の言った言葉にはいくつか嘘があります

ユザブルを創設したのは奴等です 安久谷はその首謀と私達は睨んでいます」


「嘘でも弁明された時は涙を流しましたよ 颯颯は…… 渋谷君を殺したんですね?」


「えぇ…… 俺は少し後から現場に着きましたが……

颯颯が持っている武器には血がベットリと付着していました

先程名前が挙がっていた泉太郎とは仲が良い雰囲気で

ただ事件に巻き込まれたと言うには…… 無理があります……

そこには受付の鬼面川さんや遊びに来ていた老人数人が目撃していますので

……もし信じ切れないのなら」


「結構です…… うっ…… うぅ……!!」


父親は床に頭を着けて泣き喚いた

母親は相当無理して話を聞いていたのか椅子の上で放心状態


「昔は殴って分からせろが常識でした……

私が子供の時なんて大人という大人から殴られて育ったんです……!!」


「…………」


「正しいとは思ってません だって自分も痛くて怖かったんですから……!!

ごめん颯颯…… ごめん……!! うぅ……!!」



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