第49話 雲に触れて
「じゃぁ門脇さんも?」
「……その人が今回の事件の発端でした
英語を担当していた桐島先生はご存知ですか?
寺田さんは自分の年齢に関係無く彼女に好意を持っていました
別に誰が誰を好きになろうと構いませんがね しかし桐島先生はそれを迷惑がっていたんです
実は彼女は門脇さんに相談していまして
あぁいう性格ですから門脇さんが寺田さんに直接言ったんでしょうね
寺田さんはショックで有給を取りました そしてその事を門脇さんが知り
謝罪しようと思って自宅に向かったのです この話は丁度安斎先生が楽校にやって来る二日前ですね
そして観てしまったのです 自分のところの寮生が寺田さんの自宅にて縛られているところを」
「……彼女は知らなかったんですか?」
「門脇さんが寮母に務めたのは実は最近なんです
前任者が裏事業を告発しようとしていたもんで そっちの処理に追われていました
なので彼女は臨時雇い
誤算はたった数ヶ月で寮生と馴染んでしまったことですね そして私達の裏の顔を知ってしまった
もっと時間を掛けて抱き込む手筈も無意味になり
寺田さんの家にいた縛れている子供は
〝精神に異常をきたしているのでこれから病院に連れて行くところだった〟
と苦し紛れの嘘で誤魔化せました」
「なるほど…… 門脇さんが関わってないだけ安心しましたよ」
「しかしここで怖じ気づいたのが寺田さんでした もうこの仕事は辞めたいと言い出しましてね
勿論口約束や契約書で信用出来るような事ではないので安久谷さんに相談すると
物を言わさず と言った具合で始末する段取りが恐ろしいほどスムーズに組まされました」
「それであの砂壁か?」
「……彼は先月の23日 あろうことか安久谷さんに手渡す筈の女子生徒を無断で帰らせたんです
問い詰めてもこの仕事はやめると一点張りで…… どうにかしてあげる気力も失せてしまった」
佐田は両手で顔を覆い 青白く震えた唇で話し始める
「あれは見せしめです そして脅す相手は私でした」
「……佐田さんも犯行現場に?」
「いいえ…… 私は寺田さんが逃げないように〝監視〟の役割を背負わされました」
「……じゃぁあの盗撮器で茶の間を覗いていたのは?」
「私です…… 勿論安斎先生が寺田の死体を発見した当時の状況も見ていました」
「成程な…… 色々見えない物が見えたよ」
「雑談と称して茶の間に盗撮器を設置するのは良い気しませんでした……
寺田さんとはホントに長い付き合いだったので……
画面越しに毒物を口に入れられて悶え苦しむ様を誰が耐えられますかって話ですよ
何度も止めようと手は動きますが…… トドカナイ……」
涙を流してはいるが 元を辿ってしまえば同情に苦しむ
「寺田さんの件は分かりました
安久谷も楽長が見ているからこそ あそこまでの挑発的な快楽殺人が出来たんだろうな」
「……あの人は悪魔です ちゃんと逃げられない様に道を塞ぐことに長けています
そして今も逃げられません……」
「何だって?」
「私は全てから脅されています 反社の連中にも…… 〝身内〟からも……」
唐突に佐田の足が銃で撃たれた 貯水タンクの脇から出て来た人物によって
「うぁぁぁぁ…… ごめん光子…… ごめん……」
「その名前で呼ばないで…… 父親失格のクセに」
そして周りの木々がざわめくと同時に 遙か空の彼方からヘリの音が
状況が一変した中で安斎は 目の前の彼女を見てようやく腹が据わった
「こういう風に逢いたくはなかったなぁ…… 芽神……」
「こうなった以上誰も逃げられないんですよ 安斎先生」
安斎と芽神が対に構えた しかし彼女の手には銃が握られている
「日本はそう簡単に銃は入手できねぇって言われてるが ありゃ嘘だな」
「入手経路は話せませんが結構大変だったんですよ?」
「ハァ…… こうなることは何故か予想の範疇にあったんだが
……どこからだ? どこからが俺の知ってるお前で 今のお前は何なんだ?」
「安斎先生の知っている私は…… 小学校五年生の時です」
「何?」
「そこの父親モドキが呼んでいたでしょ? 〝光子〟って……」
「光子…… 光子って……?」
〝 私仲良かったからその子の当時の住所を知ってたんでね
覚えてない? 佐田光子って名前なんだけど 〟
「お前が…… 佐田光子……?」
「……まぁ信じないよねぇ どっからどう見ても中学生だし」
ヘリが校舎の敷地内まで迫ると 屋上一帯がライトで照らされる
手で光を遮る安斎が見たのは 重い扉が引いてガトリング銃が顔を出した瞬間だった
「おい安斎!!」
岳斗が安斎の身体を抱き上げ 足を引きずって校舎の中へと全速力で退避する
中西を避難させた日下部が同時に扉を閉めると 物の数分で辺りは静まり返った
「逃げられた…… ただの脅しかよあのガトリング銃……」
「完敗やなぁ安斎ちゃん……」
頭の整理が未だに追いついていない中西と日下部は
壁を何度も叩く安斎の姿を見て ただただ悔しさだけが伝わった
6月8日 時刻はAM4:50 何処とも違わない住宅のテレビにて
『おはようございます
立て続けてに旧財団系グループが関係する事件が舞い込んでいます
まずは今日報道するニュースのタイトルをご紹介
・まず始めに 五月に行方不明になった四季園蕾ちゃんの物と思われる左手が発見されました
・次に四ノ海航空のCEOである四ノ海額蔵氏の一人息子 四ノ海栖さんが
何者かによって殺害されました 四ノ海グループの御曹司として遺族の憤りが収まらない状況です』




