第50話 東海林妖と河上香里奈
時雨山の古民家
かつて東海林妖を求めて辿り着いたこの場所は河上香里奈の家だった
「五体満足で無事生還~~♪ 信じ~~られないかもねぇ~~♪
ここはどこ~で~今何時~? 既に死~ん~じゃってるかもしれないね~~♪
殺されちゃいやぁん♪ 殺生だっせぇ♪ わやだっせ~~♪
柴塚ちゃ~んはどう思う? Say♪」
「まぁ…… 生きてると思います」
縁側で岳斗の即興ライブを聴かされている柴塚
奥の部屋では安斎が包帯グルグルで寝かされているが
昨夜の事が頭から離れず ずっと天井を見つめている
台所から河上が朝食を運んできた
晩の黒ずくめの戦闘服とは打って変わって
Tシャツ一枚にふんわりあったかモコモコのパンツ一丁 所謂ジブリパンツだった
おまけに銀髪で 目の色が薄く間近で覘けば赤みがあるという要素の渋滞
「簡単なおにぎりですけどどうぞ」
「何や河上ちゃんはアルビノかぁ? 特殊でえぇなぁ~~」
「ロシアのイメージっぽいでしょ? 100%母親の遺伝子だね」
「それにパンツ一丁なのも中々肝が据わってキャラとして立っとるぅ……
アカン…… 推し変という邪道に片足突っ込んどるでぇ……」
「大丈夫だと思いますよ…… 蛇の道は蛇なんで……
それに私も解放されたらそれで安泰だし」
柴塚はハムスターの如くおにぎりを貪っていた
自分が寝ている間にとんでもないことが起きていた為
恐怖と後悔で腹が減りまくっているのだ
「それより河上さん 私達を匿って大丈夫なの?」
「えぇ…… 上からは探偵や四季園家の人間についての処遇は聞いてないです」
「四ノ海…… 安久谷達は……?」
「時期が来ればまた動かなければならないですね
ですがちょっと事が公になったので暫くは雲隠れです」
「雲隠れって…… 楽校の目と鼻の先であるこの山で大丈夫なの?」
「ここは一応霊山ですからねぇ 近付いた人間は生きて帰れません……
そういう曰く付きの山でもありますから」
モコッと腰を下ろす河上は 楽校や寮で見た人物とは明らかに違った
普通の目立たない女子中学生を演じていたことがよく分かる
「何で楽校近いのに寮なんか……」
「山の出入りが頻繁だと疑われるからです 一応地元民との接触も控えてますので」
「……芽神さんのことは知ってたの?」
「監視対象ではあった 詳しく聞かされていないけど」
多くは語らない 故に発するオーラは別世界の住人だと柴塚は気圧される
この家に来てからは彼女の平凡な気立てに度々毒気を抜かれるが
そんな人間のバックに大きな影があると思えば 不思議と巨影恐怖症になりそうだ
「まぁ日本に殺し屋なんて漫画か幕末の話かと思っておったけど……
しかし全体的に陽気やのぅ河上ちゃんは…… 殺し屋ってもっと陰があると思っておったが……」
「そこは安斎先生が起きたらまとめて説明するから……
一度に言わないと長話なので面倒臭いし……」
「俺なら起きてる」
匍匐前進で這いずってくる安斎は柴塚のお茶を奪って飲む
行儀が悪いと柴塚にチョップされながらも 安斎は河上に目線を上げていた
「あの土壇場の中で安久谷に政府系って言われてたよな?
俺達にベラベラしゃべった後で始末されねぇのか? それとも俺達を始末するのか?」
「どちらでも無い…… 私を飼ってるのは政党・派閥とかじゃなくて個人」
河上は茶の間の方に移り 丸いテーブルを四人で囲んで長話は始まった
「まずは自己紹介だね
私は河上里緒奈 ロシア人の母と殺し屋稼業を営む日本人の父とのハーフ
そして…… 十六代目人斬り彦斎でもあります」
「漫画の奴か?」
「そう…… あのモデルキャラの跡継ぎになるわ と言っても血は繋がってないんだけどね
本当の子孫は別にいるでしょ? だけど表に出せない暗殺稼業は終わらなかった
国士としての意思を紡いだ継ぐ子達は 役人の下で人斬り稼業を継続していった
勿論敵は幕府側の人間と打って変わって諸外国
単独の諜報員として重宝されました…… なんちゃって……」
「もしかして殺し屋になって日が浅いかお前?」
「正確には父の代で廃業になりました…… 今や日本の外殻になる組織はイッパイいるし
私達一家はあくまで反社の人間扱いになるので
それと癒着していると思われたくない政治家はこぞって交流を断っていったわ
曾祖父の代から雲行きが怪しく 戦後にてGHQが設立された頃が存続の分岐点だと聞いている
裏金問題とかと違って私達と接点を持つことに何の価値も無くなったんでしょうね
国際社会になってからは何事もマンパワーが必要とされていた訳だし」
「だからお前達は北陰市でヒッソリ住む事になったと?」
「そう…… んでうちの親父が早い余生として考え
世界各地を放浪して自由を謳歌し ロシアのママンを連れて この街に帰って落ち着き始めたと
そして屈強なDNAを双方から受け継いだ可愛い私が産まれましたとさ」
「……東海林妖伝説は何で?」
「うちのママンは父親よりも地元の交流が深くて よくイベントにも参加していたの
狙いとしては私達を受け入れて貰って 私を小学校に通わせるのが目的だったらしいんだけど
ほらやっぱりアルビノじゃん? 今の多様性の時代でも物珍しさが際立つっていうか
当時は妖怪扱いされて指も差されて生き辛かったと思うわ
それに祖父の時代には政府の役人との接触が北陰市でもあったらしくて
殺し屋の噂とママンの妖怪ブームが合わさり
大昔から北陰市に点在する〝東海林妖伝説〟に新しく付け足されて
〝東海林妖様に御嘆願〟が生まれたってわけ その時代のネットミームみたいなものよ
嘆願すれば願いを叶えてくれるのは ママンの人当たりの良さが作用してるって
分かった時はちょっと誇らしかったけど……」




