第46話 三人の主人公
安斎は警察の質疑に返答せず 逃げの選択を取った
勿論その行動は警察に勘違いを孕ませる
「おい待ちなさい!! 捕まえろ!!」
回り込まれていた警察二人が彼の行く手を阻むが
全てが悪い方向へ動こうとする安斎は常識を壊してでも押し通った
「公妨!!」
警官全員が安斎を追う しかしそれは安斎にとっては好都合でもある
このまま引き連れれば戦力になると踏む彼は止まらなかった
ーースマホを確認した限りでは既に22時を回っている
校内ではもう全員が就寝していてもおかしくない
病室を抜け出した安斎は身体の激痛に耐えながらも走る
同時刻
「この古い木の匂い堪んねぇな…… 思わずノスタルジーに浸りたいなぁ袴田だぁ?」
「めっちゃ分かります……」
ストーブの音が安久谷達の物音を掻き消していた
しかしどれだけ音を立てても生徒や大人達が起きない理由は他にも
「手筈通りにしたんだろうなぁ楽長?」
「えぇ食事に睡眠薬混入は成功したと聞いています」
生徒が次々と手下共に運ばれる中
煙草を吸っている安久谷の隣に立っていたのは楽長こと佐田晃信
「これでまた銀行から資金を調達し放題だなぁ楽長先生?」
「ありがとうございます…… もう私にはあなた方に頼る他ないんです……」
「孤児を育てて金にする…… 全員が目を覚めたらどういうプランなんだ?」
「部活や寮の事情を言い訳にして急場を凌ぎます……
自分や自分の子供で手一杯な人間は いちいち孤児を識別なんかしていません
前回もそれで上手くいきました 問い詰められれば転校や施設の移動などありますからご心配なく
ここの教師陣にも事前に転校を仄めかしておきます」
「だけど最近交代した門脇は違ったんだよなぁ?
態々俺に始末を頼んでくるたぁ それだけ正義感あった寮母を殺すとか可哀想だったぜぇ」
「それだけ今回の子供はお安く…… それで勘弁して下さい」
「同い年以外の異性は興味無いっての…… おっ?」
安久谷が目に付いたのは女子生徒に囲まれて寝ている柴塚だ
「こいつは確か安斎の…… 商品にして娼婦にでもなったらどんな顔するんだろうなぁアイツ」
「その人はリストに入ってません 問題を増やすんですか?」
「いざとなったら俺の表の顔が利く 少しは自分のお小遣いも増やさねぇとよ」
寝ている柴塚の頬をプニプニ握る安久谷は下の者に指示を下す
「こいつも連れてけぇ 別口でな?」
部下が柴塚の身体に手を伸ばそうとしたとき
不意にバットの先がそれを阻止した
「何だおまっ!! ぐあっ!!」
思いっ切り叩かれた奴がその場でのたうちまわる
飛来した鼻血が柴塚の顔に掛かろうとすれば 身体でその薄汚い液体を防いでみせた
「テメェ…… 何しに来やがったぁ?!」
「デュヒヒヒヒ!!!! ひっさし振りやのぉ安久谷ぁ?! 互いに顔を合わせられて光栄やでぇ」
柴塚を守ったのは四季園岳斗だった
「探偵事務所に何度も兵隊を送ったがマシな報告は無かった……
まさかテメェが邪魔してたとはなぁ……?!」
「このコは推しカプの片割れやねん…… 手ぇ出したらブチ殺すでぇ?」
「チッ…… おい殺れ!!」
子供を運ぶ作業を中断させる輩共が岳斗に襲い掛かる
彼はカタギに怪我させまいと体育館の壇上におびき寄せた
「ったく次から次へと……」
体育館の外で煙草を吸いまくる安久谷はイライラが臨界点を迎えていた
そんなとき 安斎も現れる
「安久谷ぁ!!!!」
「血気盛んじゃねぇの安斎…… って警察引き連れて来てんのかよメンデーなぁ……」
「そこの男止まれぇ!!」
小柳の公務に感服する安斎だが捕まるわけにはいかない
校舎に隠れて身を潜めていれば 小柳は安久谷の方へ注目する
「これはこれは安久谷興信所の安久谷所長じゃないですか…… ここで何を?」
「どうも小柳刑事さん 最近警備会社を立ち上げましてねぇ
街のここ最近で事件が頻発して 治安が乱れてるって話を伺いましてね?
こうやって私が自ら表に立って子供達の身の安全を守っていたんですよ
今日は暁風楽校のお泊まり会らしいじゃないですかぁ?」
「それはそれは…… 民間人の率先した行動には敬意を払わなければなりません」
「……しかしさっきの男は何です? 暗くて分からなかったのですが校舎に侵入しました?」
「大丈夫です!! 私共が全力で捕らえてみせます!!」
二人の様子を遠くから見ていた安斎は思わず壁を殴る
「チッ公営ヤクザが…… 明日から税金払わねぇと誓ったぜ……」
「……安斎先生」
安斎がビクッと驚いて後ろを向くと
人差し指を口に当てる中西とその後ろに日下部がいた
「二人共無事だったんですか?」
「えぇまぁ…… 私は睡眠薬が効かない身体なので……」
「……? 日下部先生はどうして?」
「俺の場合はたまたまですね…… はい……
それよりもこのままでは子供達が連れ去られてしまいます……!!」
三人が再度窓の外を見ると
警察が集まって次々と集まって来ていた
「見たところ警察は役に立たないんですか?」
「あぁ…… スマホも圏外になってるから松原刑事も呼べねぇ
子供を保護するとか理由付けて 安久谷達は孤児達を掻っ攫う気だ」
「……先程体育館が騒がしかったので覗いて見たんですが
どうやら得体の知れない第三者が乱入しているようで」
「第三者?」
「デュヒヒヒヒって笑ってる如何にも怪しい不審者です」
「岳斗か…… おそらく多分だが味方だ」
「俺達はどうしますか? 安斎先生?」
中西は正直何かをしたくてウズウズしていた
日下部はいつでもいけると 何とも主人公レベルの逞しいオーラを出してくれている
警察が信用出来ない今 安斎は決意を固めた
「俺は戦います…… この後で捕まろうとも取り返しがつかなくなる前に……」
「お供します安斎先生…… 俺も暴力教師と言われようとも身体張ります!!
中西先生は出来るだけ隙を窺って 一人でも確実に救出して下さい」
「分かりました」
現状 外では警察がいる手前 故に大胆な行動は不可能
体育館の壇上では岳斗が邪魔をしている今が好機
安斎と中西と日下部の三人は簡易的に行動手順の確認に入った




