第43話 愛人で売人で
病床のベッドの上で安斎は天井を見つめていた
隣から小声で呼び掛けて来る 柴塚の声量が次第に大きくなると同時に意識がハッキリする
「今何時だ……?」
「夜の10時です…… 良かったぁ……」
「ここはどこだ?」
「市内の病院に運ばれたんです…… そしてその……」
「何だ……?」
「渋谷って大学生…… さっき亡くなりました
友達の眞原と木見田は意識不明の重篤だそうです」
「フゥ……」
安斎は足を折り曲げて体育座りになる
組んだ両腕に頭を乗せ 暫く柴塚に表情を見せなかった
そこへ刑事の松原が壁をノックして入室して来る
「粗方の状況は鬼面川って人から聞いた お前の所為じゃねぇよ安斎」
「泉太郎達はどうなったんですか?」
「今総力を上げて事件解決を目指している なんと担当は俺になった」
「それは…… おめでとうございます……」
「無理もねぇがもうちょっと元気出してくれ…… 絡みづれぇからよ」
「ユザブルから奴等の位置情報とか辿れないんですか?」
「おいおい闇バイトなんて一つ二つじゃねぇんだぞ?
しかもユザブルって正式なサイトは存在しねぇ SNSで募集してやがんだ
即日即金とかホワイト企業とか 楽で簡単・高収入とか見たことあるだろ?
おそらく建守颯颯なんかは正式な会員になったことで
ダークウェブへの入り口に招待されたんだろうな
だがどうせ末端の実行役を掴めても尻尾を出さねぇんだアイツら
だから取り敢えず殺人事件ってことで非常線を張っている」
「犯人組の中に四ノ海って苗字がいました
四ノ海グループが裏でユザブルと関わっているかもしれません」
「しれませんだろ? 悪いが証拠が無ければ動けねぇ
残念だが…… まぁ本名〝栗田泉太郎〟の特殊な経歴の話でもしてやるよ」
「特殊な経歴?」
松原は安斎を車椅子に乗せ 屋上に連れて行った
何やら公に話せない内容らしい
「去年の八月頃の話だ…… 関東の都市部で薬物の立ちん坊が逮捕されたんだ
大都会ではよくある話だがその売人である女も薬物依存らしくてな
聴取では支離滅裂で身分を証明出来なかったらしい」
「……それで?」
「結局神経医療センターに運ばれたんだが数日後に自殺してしまったんだ
それも死ぬ寸前は謎の踊りをしながら何やら紙に書いていたらしい
内容は『東海林妖様に御嘆願いたします』だとよ それが紙に何個も殴り書きだと」
「関東でも東海林妖の伝説が?」
「まぁ都市伝説なんて寧ろ大都会で育つもんだからな
んでこれが何を意味するのか 現場の刑事達が顔を揃えて発祥地の北陰市に来たそうだ
するとその刑事達はどうなったでしょうか?」
「……急に謎解きですか」
「全員殺されましたとさ」
「……何ですそれ?」
「遺体も見つかってねぇんだ 目撃談によれば刑事達が最後にいた場所は
お前達が入り浸っている暁風楽校裏の時雨山だ」
「……泉太郎はいつ出てくるんです?」
「その薬中の女が泉太郎の母親だったって事がすぐ後に判明する
運良く泉太郎が地元の問題児だったお陰で警察に補導され
こっちに来ていた関東の引き継ぎ刑事らが二人の関係性に辿り着けたんだ
なんでも下川市の高層マンションの最上階に住んでたって話じゃねぇか」
「泉太郎は四ノ海グループの御曹司じゃないんですか? 奥さんが薬の売人なのも腑に落ちません」
「結論はこうだ 泉太郎の母親は
航空業界の要となる四ノ海グループの現CEO四ノ海額蔵の奥さん…… では無く
言ってしまえば愛人だったわけだ」
「じゃぁ泉太郎は妾の子ってことか」
「背景を見るに母親は捨てられたんだろうな……
んで変にメディアに訴えられないようにそれなりの示談金を握らせたと……」
真夜中に灯る二本の煙草は話が進む毎に矮小に
「でも何で売人なんかに……」
「分からん…… だが後ろ向きな人生に走ったってことは納得してなかったんだろうよ
泉太郎も捨てられたかは知らんが実際一人暮らしだったらしいからなぁ」
「……泉太郎のことは分かりました 態々屋上まで俺を呼んでロマンチックです」
「最近は物騒だからなぁ そこら中にマスコミが大量発生するようになった
日本の空を守る大手航空会社の社長さんが愛人を捨てたなんてスキャンダルだろ?
事件解決には全力だが 無理に敵を作るのは避けたいんでな」
灰皿に煙草を捨てる二人は病室へと戻る
松原の連れの刑事が慌てて二人に近付いた
「俺を置いてどこに行ってたんですか松原さん……!!」
「ちょっと二人で小便だ ほら安斎がこんなんだから手ぇ貸さねぇとよ」
「……何で松原さんがそこまでお世話を?」
「細けぇことはいいんだよ馬鹿野郎!! 隠語だ隠語!!」
「はぁそっすかぁ……」
安斎をベッドに戻すと 松原は部下を連れて帰ろうとしていた
「引き続き情報提供は頼んだぞ?」
「えぇ勿論…… あぁあと泉太郎は人身売買の安久谷橘平と繋がってる可能性があります」
「分かった…… 十分気を付けるよ」
ようやく落ち着ける安斎 柴塚はお見舞いに持って来た林檎の皮を剥いている
「少しの間は休業ですね?」
「そうも言ってられねぇ…… 明白にしなきゃいけねぇことは山積みだ」
「せっかく招待状も貰ってるんですから休んで下さいよ」
「招待状?」
「六月の恒例行事みたいですね…… 〝暁風楽校のお泊まり会〟らしいです
全生徒参加型で皆で料理を作ったりイベントがあるらしいですよ?
私達が来てくれた方が盛り上がるらしいです…… なので二人分」
「……誰が持って来たんだ? 妻夫木か? 日野か?」
「河上さんです 所長の着替えを取りに行ったらバッタリ会いました ……どう見ます?」
「また誘導か?」
「その可能性もありますね どっちにしろ早く治して下さい 無理は禁物です」
柴塚は脱いでるスーツを着直し そのまま病室から出て行ってしまった




