第42話 蕕--カリガネソウ--
「フゥ…… こんなもんで大丈夫です泉太郎君」
「……おいおい何言っちゃってんだよ建守君」
泉太郎は建守の後ろ首に腕を回すと
「こいつを見ろ…… ちゃんと見ろ!!」
建守はもはや誰だか分からないまでに血で染まった渋谷を見る
「この渋谷君はお前がやめてと言ってやめてくれたのか?
嫌な表情してんのに それを汲み取って忖度やら慈悲を与えてくれたのか?」
「いっ…… いや……」
「ならやめる必要はねぇ…… 建守君ばっかり優しくしてたら馬鹿じゃねぇかよぉ
あぁもしかして…… 俺の言ってる事って間違ってるのかぁ?!」
泉太郎は周囲に確認を取る 周りのチンピラ達は自信を持って首を横に振っていた
勿論のこと建守も首を横に振る そして大粒の涙を服で拭い
「すみません泉太郎さん…… せっかく一緒に戦ってくれてるのに俺は中途半端で……」
「馬鹿野郎……!! 人間は間違いを認識して成長して行くもんだろうが……
人の過ちに時効なんて無い テメェがされた雪辱を果たして明日へと前を向こうや!!」
「はい…… はい……」
周囲のチンピラも応援し始める
「頑張れ建守!! 漢見せようぜ!!」
「お前がやり遂げれば俺達だって勇気が貰えるんだ!!」
建守は目を見開き 渋谷の頭に狙いを定める
躊躇を払拭した彼の心には正義が芽生え 今まさに自分の正しき執行を取った
「うぁああああああああああああああああ!!!!」
振り下ろされるバットに渋谷は思わず失禁する
しかし金属は彼の頭まで届かなかった
両手でバッテンを作ってバットを受け止めたのは安斎だ
「何やってんだ建守!!」
吹き飛ばす安斎は周りの状況を把握する
「おいおい何邪魔しちゃってくれてんのよぉ…… 安斎賢也ぁ!!」
泉太郎は他のチンピラから廃材を取り上げ 安斎に向けて叩き付ける
避ける安斎は反則とも思える泉太郎の 脳筋故の振り回しに恐怖を覚えていた
距離を取ることに夢中になり ガラス張りに背を付けると
飛んでくる廃材は分厚いガラスにヒビを入れる
そして泉太郎の重い蹴りが安斎ごとガラスをぶち破って外に突き出した
「ゲホッ…… お前とは初対面な筈だけどな……」
「俺は四ノ海泉太郎 安久谷から話は聞いててなぁ…… お前邪魔だとよぉ?」
「四ノ海だと?」
「あぁ七光りの馬鹿息子…… って自分で言わねぇか
四ノ海グループの跡取りだからよろしくな!!」
廃材を安斎にぶん投げる泉太郎は その豪腕で相手との距離を一気に縮める
「……どういうことだ? 四ノ海の連中がユザブルを設立してるって事なのか?」
「ご明察!! あれは俺ら系列で立ち上げた兵隊育成システムサイトだ
不満を留めてネットでくすぶってるだけなんて勿体ねぇだろ?! まだ若さがあるのによぉ?!
そういう奴等を集めて有効活用 プラス漢に仕上げてやってんだぁ!!」
泉太郎の一撃は廃材が無くなったことで戦闘力が落ちるとかでもない
彼の身体が武装されてるくらい危険なものである
防ぐことを諦めた安斎は只管に躱し続けるが 当たればKOという死にゲーに付き合わされている
「だから建守みてぇのを焚き付けて あんな暴行させてるってのか……?
いや待て…… ユザブルは四ノ海の倉庫で邪魔をしていた筈だが?」
「安久谷橘平の教育課程なんだろうよ……
まずは自分のとこで育てて世に出す
だからグループ所有の港で予行演習でもさせてたんじゃないのか?」
「っ…… なるほどな」
合点はいく 矛盾はしていない
よくよく考えれば安斎と南原が公園にいた時に現れた奴等も
ユザブルを介して集められたのだろうと彼は理解した
「そうやって何人もの若者を募っては…… もう後戻り出来ねぇ道を進ませるのか?」
「っ……? え?」
ど真ん中の右ストレート 安斎はやむなく両腕でガードするが
開いた腹に泉太郎の蹴りがモロに入ってしまった
駐車場に停めてある車に衝突した安斎は吐瀉しながら蹲っている
「おいおい安久谷より悪党だなぁ安斎さんよぉ…… イジメは良い事なのか?」
「ハァハァ…… 良くはねぇだろ」
「なぁんだハハ…… ビックリしたぜぇ……
てっきりイジメ推進派の加害者側だと思っちまったよぉ」
「お前も…… 過去にイジメに遭ったのか?」
「いいや? 見りゃ分かんだろぉ? 力がある人間をイジメる奴なんかこの世にいねぇよ」
「じゃぁやっぱり何か裏があっての事か? それともただの暇潰しか?」
「……何言ってんだよ
テレビで自殺した人間とか他殺されましたってニュースが頻繁に流れてるじゃねぇか
イジメって良くないんだよなぁ? 建守君もそれで苦しんでたって言うしさぁ……
警察やら第三者委員会なんて 事が起きてから動いてるからアイツら役立たずだろ?」
「っ……?!」
「だから俺が立ち上がったんだよ イジメ加害者を隅から叩いていけばいずれ無くなるだろ?」
「ハハ…… お前脳筋なんだな…… イジメ被害者がイジメ加害者になった場合はどうするんだ?」
「……おいお前らぁ?! お前らはイジめる側になっちまうのか?」
遠くにいるチンピラや建守は揃って首を横に振った
「ならねぇってよ?」
「……オメデタイ奴だな」
「……難しい話はよく分かんねぇんだ まぁ取り敢えず渋谷達は半殺しにして分からせたし
安久谷から聞かされていた奴も半殺しに出来たし…… そろそろ警察が来るかもだから撤収!!!!」
建守達が泉太郎の後ろを付いて行って逃げるが
安斎はその光景を黙って見ていない
「待て建守ぃ…… お前…… 本当にそれが正しいと思ってるのかぁ?!」
「……安斎さんって矛盾だらけだと確信しました
お前だって泉太郎君に暴力振るってたじゃないですか……? 正当防衛とか言いますか?
暴力は暴力です 俺は人間のクズさ加減に正直に向き合うと決めたんだ そして負けないと誓った」
建守は立ち止まらなかった
車に乗って姿を消してしまい 遅れて駆け付けた柴塚が安斎のもとへ
「救急車は既に呼んでます…… 大丈夫ですか所長?」
「ハァハァ…… 駄目なんだ行かせちゃ……」
「所長……」
「解るんだ…… 道を外そうとする勢いは自制が効かなくなる
ガキだった頃の俺がそうだったからな 柴塚のオッサンやマンションの大家さんみてぇな人が
アイツらにも絶対必要なんだ……」
安斎はそのまま気絶する 次に目が覚めた時は病院のベッドの上だった




