第116話 銀の単刀
同時刻より少し遡って ヨス空港
銀色の髪を靡かせながら 港内の売店で緋色の目を輝かせている少女が一人
そばには籠に入っているお猿さんが一匹 ぐったりしていた
「見て見て藤吉さん!! 見たことないお菓子がイッパイだね!!」
「ウキャゥ……」
藤吉は狭い空間でホワイトボードに文字を書く
『かなり酔った』
「貨物室は大変だったね……」
『隙を見て抜け出し 運動はしてたから問題ない』
「メシシシ!! さすが藤吉さん!」
『バナナはあと二房は欲しかったぜ』
空港の外に出てやっと解放される藤吉
飼い主である彼女は殺し屋の河上香里奈
ゴルフケースに刀を隠し 白樺倫子の指令でバランタイン公国に入国した
「ホテルはと…… 遠いなぁ…… バスを乗り継がなきゃ」
「ウキィ……」
バス停まで経費削減の為 歩く一人と一匹
「ねぇ藤吉さん ターゲットを聞いた時さ…… 分かってたけど辛かったんだ」
「…………」
「咲彩ちゃんが監視対象だったのはそうなんだけど……
手配書を確認した時に決意固めなきゃって…… 人は殺してるけど友達を殺すのは初めてなんだよね」
『嫌ならやめちまえ』
「無理だよ…… 逃げても殺し屋は裁判にすらかけて貰えない 始末されるのが末路だよ?」
『いつの時代も殺し屋はそうだな』
「ん? ……藤吉さんはいつの間に歴史の勉強してたの?」
『いや何でもない』
ボードの文字を消すと 背負っている鞄に仕舞う藤吉
停留所の椅子に座る香里奈達は気長に夕空を眺めていた
その時 遙か遠くより爆発音が耳に届く
「花火かな?」
「…………」
「ハァ…… 情報では安斎先生や柴塚さん達もこの国にいるだよねぇ?
ジョンとアランもいるし 暁風寮の仲間達もいる……
咲彩ちゃんを殺しても また皆と仲良く出来るかなぁ……」
『センチメンタルで殺し屋が務まるのか?』
「大丈夫…… 責務は全うする……
親父にそう鍛えられたし 合格点を貰ったから倫子さんが私を雇ってくれた訳だし
ただ何だろう…… あぁ…… 他に選択肢あると思う?」
『知らんがな』
「日本では松原さん死んじゃうしなぁ…… 何で殺されちゃったんだろう……?」
『誰から聞いたんだ?』
「甘城さんって人 白樺さんの側近だったかな?」
『香里奈はニュースとか見ないのか?』
「うちテレビないじゃん?
新聞も取ってないし依頼内容が無い限り穏やかに暮らせればそれでいいの」
『そうか じゃぁ分かりようがないな』
「安斎先生達なら何か分かるのかな……」
「…………」
途端に香里奈のスマホから着信が鳴る
「もしもし甘城さん?」
『河上香里奈か? 予期せぬの事態が起きた 白樺先生が爆破に巻き込まれて重体だ』
「えっ白樺さんが?!」
『早急に合流されたし 状況は思った以上に切迫している』
「はい…… 分かりました」
通話を切る香里奈は藤吉に眉をひそめた笑みを送る
「……後戻り出来ないね!」
『まだまだ未熟だな』
「藤吉さんは山で友達殺したことあるの?」
『野生の世界でそれは愚問って奴だぞ? 規律があると思うか?』
「そうだよねぇ~~」
『昔 俺と同等の力を持つ者とどちらが上か勝負することになってな』
「藤吉さんが若い頃の話?」
『勇気ある100人の少年を驚かすという内容でな 86人目くらいだったか
30日間の期日を以てしてもそいつを驚かすことは出来ずに敗北してしまった』
「アハハ…… 何やってたの藤吉さん」
バスを待つ香里奈は背伸びしながら笑う
『一つ目の巨大な妖怪を出現させたり 家を激しく揺らしたり
宙に家具を浮かせたり 女の生首に笑いかけさせたり
天井から青い瓢箪をぶら下げたり 知人の幽霊と引き合わせたり
戸口を塞ぐほど大きな老婆の顔とか
だがあの少年は一度も怯まず 立ち向かって来やがった』
「…………」
『本当に勇気ある 気の強い者はそうそういないって話だ
勝負中は海外まで足を伸ばしたくらいだからな』
「いつ海外行ったのよ藤吉さん……」
『慰めになったか?』
「あぁうーん…… なった!」
『なら気持ちを切り替えろ 自分にルールを課すのは大事だ でないと』
「でないと?」
『何も残らなくなってしまう』
日本猿にあるまじき重い哀愁 香里奈達が暮らす時雨山には想像以上のドラマがあるんだなと
そしてバスが到着し 香里奈は普通に乗って藤吉はその屋根に無賃乗車
二人が向かうのはバルゼウスのライヒ教会 甘城達と一旦そこで落ち合うのだそう
「…………」
ーー藤吉さんってやっぱり大人だよね アダルトモンキーだわ




