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ミスタートイトロッコ  作者: 滝翔
チャプター9 邂逅 
138/151

第117話 付録4 カスパル・ボニファティウス


俺の名はカスパル 歳は14

ガップリンのガキ大将とは俺のことよ

村外れの森の中で暮らす一家の長男だ

妹のリュディガーを引き連れて 俺の国であるガップリンの皆の生活を見に行くんだ


「カスパルちゃん今日も元気だねぇ」


「おす!!」


最近結婚したシャロッテと挨拶を交わす瞬間が 村に入ったという目印になっていた

家畜の鳴き声が騒々しく 日の出る頃には男達が揃って仕事を始めていた


「おぅカスパル!! 弟と一緒に今日もこの村の警備ご苦労様です!!」


「何度も言わせるなよベンダンの兄ちゃん!! 俺は俺の国を視察してるんだ!!」


「ハッハッハ!! じゃぁカスパル侯爵殿…… 今日も精が出ます!!」


「うむ」


この村じゃベンダンの兄ちゃんは若い方だ

そして一番ノリが良くて よく馬にも乗せてくれていた

俺達はそんな感じで町の労働者に挨拶しながら目的地を目指すんだ

ガップリンの少し高台になっている林の中にある大きな研究所

看板には【グラウシュピッツラボラトリー】と書かれている


「また来たんですか貴方達?」


研究所の周りをグルグル探検するのが俺達の日課

平凡な町並みからズレた 一風変わった建物がふっと出現すれば

物珍しさによって他の興味が薄れてしまうのが田舎者の性


「中には入れないからね?」


「分かってるよ 諦めねぇけどな」


「はぁ…… ほら弟さん リュディガー君だっけ? 遠くに行っちゃうよ?」


「あっヤベ…… 一人にして置くとマァマがうるさいんだ

あぁそれとリュディガーは妹だからな!!」


俺達を見つける研究員は日によって変わるから飽きない

一度は中に入りたかったが この大きな館から現れる人間は

酒場のリンバッハ爺さんやうちのパァパとは また違った意味で怖さを感じた


「おいリュディガー いつの間にか消えるなよ」


「だって僕…… あそこ怖いんだもん……」


「本で読んだタイムマシンがあるかも知れねぇぜ?」


「兄さん あそこ何か変だよ 嫌な予感がする」


「確かに全体的に薄気味悪い場所だからなぁ…… でも俺はこの国の王様なんだ

村の皆に危害を加えようもんなら 俺が木の棒でケチョンケチョンにしてやるからな!!」


「さすがだね兄さん じゃぁ僕は…… 何になろうかな?」


「お前は俺の子分だ!!」


「やだよ兄さん…… 僕も夢を持ちたい」


「だってこの村にお前以外の子供は女ばっかなんだぜ? あっお前も女だった」


「いいよ別に…… 男とか女とか興味ない」


手を伸ばすリュディガーを掴んで立ち上がらせる

昔から容姿が男っぽくて周りからも俺からもよく勘違される妹

性別に触れると少し不機嫌になるんだが 俺はよく理解してやれなかった


夕暮れになると 高台にいる俺達に楽しみが待っていた

同じ動きばっかの仕事をしているガップリンの人間が それぞれ違う動きを見せるからだ

家に帰る人 買い物をする人 道で会話してる人 酒場でここまで響く声を出してる人

俺はこの町が好きだった




その出来事は数年後 リュディガーが大学に入っていた頃に起こる

22歳になった俺は家で寝ていると 慌てた村人が森の中にある自分の家に駆け込んで来たのだ


「助けてくれブルーノさん!!」


「どうしたんだこんな夜更けに森に入って来やがって 危ねぇだろ!?」


「村が焼かれてるんだ……!! 町外れの研究所も…… 何が何だか!!」


「……何だと?!」


パァパが外に出て行くのが分かって

目を覚ましてしまった俺も二階の窓から村の方角を見れば

夜なのに木々の形がはっきりと目に映り 遠くの空は赤く焼けていた


「っ……!!」


俺もパァパに見つからないようにガップリンへと走った

村に近付くにつれて体温が上がっていくのが分かる



「ハァハァ……」



「助けてくれぇぇぇぇ!!!!」


「夫が……!! 夫が息をしていないわぁ!!!!」


自分の目に入る情報全てが地獄絵図だった

周りの山林も焼けていて 所々で人が襲われている

俺は近くのシャロッテの家を見る そこはまだ燃えていなかった


「もしかしたら逃げ遅れているかもしれない……」


俺はバケツの水を被り シャロッテ夫婦のいる家に突入する

中にはまだ火の手は届いていない


「シャロッテ!! アレマン!!」


二階へ駆け上がると 上を見上げる俺は息を呑んだ

シャロッテの旦那さんが 無惨に喉を掻き切られて倒れていたのだから


「ハァハァ……」


ゆっくり階段を登り 廊下の柵から周囲を見渡すと

複数の男性が彼シャロッテを囲んで弄んでいた


「おいリーダーからの指示はまだ無いんだな?」


「あぁまだまだ楽しめるぜぇ……!!」



「んんんん……!!!!」



口に布を押し込まれて犯されているシャロッテは 旦那の死体を見ながら涙を流している


「……おいお前らぁ」


いつもの声が出なかった 自分に勇気が無いとここで初めて知る

そうしてる間にも目の前の心優しい隣人は 殴られる蹴られるなど もはや見てられない


「やめろ…… やめろよ……」


こんな不条理があっていいのだろうか

つい昼まで皆が笑っている平和な世界だった筈なのに


ーーこんな今の俺の姿…… 必死に勉強してるリュディガーに嫌われるな


すると今度は家の外からも悲鳴が聞こえた


「貴方達は悪魔よ!! 私達が何をしたって言うの?!」


「うるせぇんだよ!! おいこの女も燃えてねぇ家の中に連れ込めぇ!!」



「おぅおぅ他もやってんなぁ…… 連帯責任なら怖くねぇな!!」



髪を引っ張られて口を押さえられる外の女性 金切り声は止まらない


「アジアの悪魔共め!! 呪われろ!! 殺されてしまえぇ!!!!」


「……悪魔」


俺は階段下で蹲りながらも女性の声を全て拾った



「そうか……」



「この村の女は全部俺達が食ってやるよぉ!!」


「欧州の白人は40のババァでもイケるもんだなぁ!! 人の物ってのが余計に興奮するぜぇ」



〝 人と思うのは認識違いだ 〟



カスパルは台所から包丁を借りて再び二階へ

今度は躊躇うことを屁とも思わず男達の前に姿を現した


「あれぇ生き残り発見 男はそのまま殺されちゃうぞぉ?」


「……ゲスが」


「アハハ何を言ってるか分かんないなぁ…… 俺達日本人なもんでよぉ」


「ニホンジン…… リュディガーが教えてくれた極東の国の人間か」


近付いて来る男に俺も近付き 一定の距離まで縮めば一気に包丁を腹部に差し込んだ


「うぅっ…… このぉ……!!」


「俺がお前らを食ってやるよぉ!!」


「あぁ?!」


何を思ったのか いや何も考えることが出来なかった

目の前のこいつらさえいなければ ただ死に物狂いで気が付けば

四人の日本人男性は見るも無惨に食い散らかされていた


「ハァハァ……」


自分の唇に手を当てて その付いた血を吐き出す

しかし悲鳴は未だに耳に届いてくる


「……次だ」


思考は停止させたまま ただ只管に次へ次へと

何処から湧いたのかも分からないアジアの人間の首を掻き切り

腕が疲れたら口を動かし 顎が疲れたら包丁を振り回す繰り返し




一夜開けたガップリンの村は見る影も無く焼け野原だった

一番の被害は研究所のあった辺りだが正直どうでもいい

ようやく思考が回り始めた 睡魔に襲われている自覚が持てたのだ


「カスパル!!」


長い悪夢の果てにパァパと合流 本当に久し振りな感覚だ


「お前…… 無事だったのか?」


「……パァパ」


「……ハハ 戦火の最中に人狼が現れたって 奴等が慌てふためいて逃げ出したもんでよ

フゥ…… お前はこの村の英雄だ」


パァパは俺の今の姿に何も思わない筈はないだろう

顔から膝まで血だらけだったのは明らか 今まで食事をしていたのだから


「本当に頑張ったなぁお前…… くぅぅ……!! 何で俺達がこんな目に……!!」


「…………」


俺の両肩を掴んで目の前で膝が崩れるパァパを 俺は優しく抱き締めて上げた



「パァパ…… ニホンジンは美味かったよ……」



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