第91話 付録3 東海林妖伝説
某年某月某日
安斎達の住む県内のとある林道にて 一人の男がタクシーから降りる
周りには古民家が数軒見える程度の何も無い場所 近くにはその他の危険を示す警戒標識が
男はさっそくビデオカメラを取り出して周囲を撮影しているが
そんな彼に忠告を入れるタクシーの運転手
「本当に行く気かいアンタ?」
「心配ありがとうございます!!」
四十半ばの男性はそのまま道が開ける森の中へ
「午後三時十五分 例の〝川田一家行方不明事件〟の現場に到着しました」
撮影を継続したまま進む男
約10メートルを進めば封鎖された木造門に出迎えられる
「私 長谷部ギャランドゥはここら辺で地主だった川田家に来ています
1987年6月10日に謎の一家失踪の全容は ほぼ未解決で片付けられた謎の多い事件ですね
さっそく中に入りたいと思います」
一端ここで撮影を中止した長谷部は門を登って向こう側へ
長年放置されてるだけに 異界へと迷い込んだ感覚に胸は高鳴り
さっそく軋む音を鳴らす玄関扉を横に引いた
「落書きの一つも無いか…… こりゃぁ当たりだな」
当時の様相が保存されているまさに遺物の宝庫
所々血が染みになっている辺り 生々しさも申し分無しだ
ーー当時の警察がどれだけ押収したかにもよるが……
さっそく長谷部は近くの茶の間へ
地主だっただけに何部屋ものの座敷が広がり
襖を開けても次の部屋が隠れている大きな間取りの家だった
一番奥は仏壇が置かれており 何代も土地を守ってきたご先祖達の遺影が数枚飾られている
長谷部は再びカメラを回した
「歴史を感じる光景もたった一夜の悲劇で可哀想なものです
こういった富裕層が事件に巻き込まれる場合は大体裏稼業が推測されますが……
引き続き何か発掘した次第に報告します……」
続いて台所 台所と言うより昔ながらの厨
電化製品が一つも無く 大きな竈が存在間をアピールしていた
「設備が一種類毎に一つや二つじゃない 下役も多かったんだろうな……」
裏口から出れば厠や井戸があった
何かを期待して井戸の中を覗いて見るが何も無い
舌打ちをしながら厠の中も覗くが ほんのり香る異臭でまたもや舌打ちが止まらない長谷部
「ホラーゲームの様な怪しい場所には何も無いか……」
あとは只管押し入れを開けたりまったり 一階建てなのが好都合だったがそれにしても広い
ーーそう言えば書斎とかは無いのか?
不思議と茶の間や客間 宴会場に寝室などは見受けられるが
金持ちのイメージと反して書斎などの堅苦しい部屋は一つも無かった
「仕事場は別だったとかか?」
観る者を湧かす様な光景が無ければ カメラを回す必要もないと焦り出す長谷部
中庭に出ればその欲求からある違和感に気付いた
「いやあるな…… 屋根裏部屋」
瓦屋根の膨らみ具合が態とらしく盛り上がっている部分が一箇所
それは丁度台所脇の物置部屋だった さっそく向かってみると天井に入り口らしき扉が
ーー大当たり…… と言いたいがさすがに当時の警察も見逃さないよなぁ
脚立を用意して登れば 懐中電灯を持ってさっそく真っ暗な世界へ
「白骨とかは…… 無いなぁ……」
やけに大きな空間だった しかしその期待値を裏切るレベルで何も無し
「何か隠していても良さそうなもんだけどなぁ……」
辺りを照らすと 一箇所だけ隙間から光が差し込んでいた
軋む足音に恐怖すら感じない長谷部は そこの板を剥がして外に出てみる
「中庭が一望出来るこの景観がお宝ってか? ……ふざけやがって」
しかし中に戻ろうとした長谷部は瞬時に踵を返す
「……そういうことか」
ーーここの屋根裏は言わば櫓 つまり隠れて監視する場所だったとすれば
この一見分かり辛い唯一の場所が見ている方向
何よりも厳重に見張らねばならないのが中庭だとすれば
ドタドタと無人を良いことに中庭へと走る長谷部
辺りを隈無く探していると 真ん中の池の端よりチェーンに繋がれたカラクリを見つけた
「オホホホホ♪」
さっそく力一杯引っ張ってみれば なんと庭の地下へと続く階段がポッカリ現れたではないか
「……でもやっぱり非常脱出口かなぁ」
すぐにテンションを下げる長谷部は取り敢えず中へ
地下は洞窟になっており人の手で造られた感じだった
奥に進めば進むほど空気が重くなっているが 生憎この男にそういうのは効かない
広い場所に辿り着けば
「うおっビックリしたぁ……」
数々の牢獄の一室にだけ 綺麗な人骨が座っていたではないか
「はぁ…… 宝は無しか……
白骨死体なんてどうせ どこのテレビ局も欲しがらないだろうしなぁ……
下手に人に話して警察の手が入って聴取を受けるのも勘弁……」
すると空洞に響く大きな音 身体を跳ねらせた長谷場が振り向いた方向は
例の白骨死体 そして音の正体はその死体が持っていたであろう〝ビデオテープ〟だった
ーー何だよ…… 動くならお前が動けよ……
長谷部はビデオテープを回収 死体に手を合わせるのも怠らず
そして何食わぬ顔で地上へと出た 再びカメラを回す
「えぇ結果を言いますと…… 何もありませんでした 肩すかしです
戦利品はビデオテープ一個だけぇ~~ ハァ…… これにて今回の冒険はお終いでーす」
何事も無く家に帰ってきた長谷部は 遠くに見える公園で花火をしている親子に平和を感じていた
しかし何処か心がポッカリ空いていて 楽しそうにしている親子とは反対に
すぐにネットを開いて次なる噂を探して回っていた
ただサーフィンするのも退屈なので 缶ビールを開けて例のビデオを垂れ流そうと決める
『…………』
「……ノイズばっかりだなぁ」
『…………おっ回ってるかな えぇ今日は家族が集合しております』
「……固いなぁ 白黒なのは時代を感じるぜぇ」
『息子と娘でぇす お父さんに抱かれていまぁす…… お父さんはこちらを睨んでいまぁす』
「なんだよ…… ただのホームビデオじゃねぇか……」
一々ツッコミやら文句を垂れながら 何だかんだ夢中になって視聴する長谷部
『そういえば田五郎…… 篤志の野郎は何処行ったんだぁ?』
『朝に親父とで話してただろう? それ以降は見ていないよ』
『まったく家ん中でも何処フラフラしてんだか…… 篤志叔父ちゃんはダメダメですねぇ~~』
「父親の息子で…… 兄が田五郎で 弟が篤志か…… ん?」
不意に目に入ったものに長谷部は背筋を凍らせた
「撮影している日付が1987年6月10日……?! 一家が失踪した日じゃねぇか……」
気付けば身体を前のめりにして見入っている
『あっ帰って来た来た 篤志さ~~ん!!』
田五郎の嫁が遠くからノソノソ歩いて来る篤志に手を振っている
『…………』
『……どうした篤志? 無愛想だな?』
『……俺は誰だ?』
『はぁっ? どっかで頭打って来たのか?』
『俺はここの家族か?』
『お前は俺の弟だろ?』
『そうか家族か…… 悪いことしたな』
篤志の手には包丁が持たれていた よく見れば赤い液体が付着しており
一滴ずつ畳に染みこんでいる
『おい篤志……? 鹿でも解体して来たんだろ?』
その刃先は田五郎の胸部目掛けて容赦無く突き刺さる
『何してんだ篤志テメェ!!!!』
しかし身内の静止なんか右から左
子供相手にも容赦なく 美しいまでに一人 また一人と殺戮ショーが開催された
「何だよこれ…… 篤志さん 身内に対して容赦無さ過ぎだろ……」
田五郎の持っているカメラは勿論一定から動いていない
だがレンズは茶の間を捉えており 綺麗に現場を把握可能な一部始終が撮られていた
『あぁ…… まだ馴染まねぇなぁ…… これだから〝新しい身体〟は厄介だ』
「誰だ…… 誰に話してる?」
『海外の先端技術ってのもアテにならねぇもんだなぁ』
するとカメラが次第に振動を始める レンズの前には足が置かれ
白衣を纏った若い青年が姿を現す
『天才の耳も痛いくらいの正直な感想ですな……
〝記憶移植〟は表ではまだ何の進歩もしていません
ですから今貴方がこうして人の身体を借りて生きているのは成功
つまり記憶を移動して生きながらえている証明は 最先端と言っても大袈裟ではありません』
『江戸時代からの繋がりか…… えぇとグリーフリー博士?』
『最近の言葉も覚えられて何よりです では今後も私の仕事に協力して貰いますよ?』
『この肉塊はどうする?』
『そんなもん処理しますよ…… 他人に見つかる前に処理班を送りますのでご安心を
えぇと貴方を何て呼べば良いんでしたっけ? 東海林妖??』
『それは俺の暴れっぷりの果てに付けられた…… あぁ愛称だ』
『近くの町では妖怪化してるよぉ まぁ現実は小説よりも奇なりだがね』
『本名は空亡五郎左衛門 幕末の時は清水次郎長だったがな』
『名前をコロコロ変える偉人はイッパイいたとされてますが 本当だったようですな』
『……俺達はどこを目指す?』
『……〝世界を発破解体〟するつもりです』
『葉っぱ?』
『要はこれから長い時間を掛けて緻密に計画を立てて
綺麗に確実に静かに 各国を混乱に落とすんですよ』
『この国もか? 何かしでかしたのかこの国は? 明治新政府以降は起動に乗ってると思うんだが?』
『そうだなぁ…… 今から数年後 日本経済は右肩下がりになります 学ばねぇのよ日本は
調子に乗れば痛い目に遭わされ 近代ではそれを繰り返すしょうもない歴史を辿るでしょう
なので自信を失ったこの国には孰れ 引導を渡して上げようと思っています
その時は協力してくれますね? 時の大魔王さん?』
『俺は去る 今じゃないんだろう?』
『えぇ我々の命は永遠です 気長に待っていて下さい』
そして互いに姿を消し 血の滴る音だけが誰も残らない静けさを表現していた
『っ…… うぅ……』
唯一息を吹き返した田五郎のお陰でカメラが動く
『何で…… 何でこんなことに…… ゲホッ……!! アイツらは誰なんだ……
俺ももうすぐ死ぬ 残さなければ…… 残さなければ……!!』
そこでビデオ映像は終わった 息継ぐ暇も無かった長谷部は大きく深呼吸すると
「あの仏さんは…… 田五郎さんだったのか…… どうしろってんだよ俺に……」
長谷部はそのままビデオを棚の奥に仕舞い込み 布団に潜って震えて眠った
ここからは余談だが このビデオテープが世に出ることは無かった
長谷部は今回の安斎達の事件に関与することもなく 墓場まで持っていったそうな
しかしここで判る事は 東海林妖は実在する そして今も何処かで息を潜めている




