第90話 付録2 楽校の地下
そこは真っ暗な地下に広がる通路だった
鼠の鳴き声は疎か 天井から落ちてくる水滴にすらビビる俺はそこにいた
ーーまさか興味本位でトイレのハッチを開けたら…… こんな場所があるなんて……
たまたま楽校の補修とかで帰りが遅くなり
人気が薄く自由を謳歌できる日暮れの校舎でまさかの発見
冒険したくなるのは男の性か 俺はスマホの明かりだけを頼りに
歩くだけで心臓が握り潰されそうな道を歩いていた
「……先生達は勿論知ってるよな!? でなきゃゲームの隠しダンジョンじゃねぇか!!」
気丈に振る舞う意識は 歩数と共に制御不可能になる
ラノベの主人公の如く脳内と口で交互に言葉を止めずに歩いて行くが
次第には足の震えに抗えずその場で泣き崩れてしまう
「だ…… 誰かぁ…… 助けて下さぁい……」
小声で呟くと頼もしいくらい反響するこの真っ暗な地下だったが
返答は無し 逆にしようものなら失禁上等
頭が混乱すれば一方通行の通り道だろうが命取り
どっちから来たのかすら分からなくなってしまった
ーーインフルエンザでよく魘される悪夢がこんな感じだったなぁ
只管に暗いトンネルを歩いてみれば 唐突に階段を登り 上を見上げればカラフルな家があるんだ
中はマリンスノーの様な壁紙が不思議と動いていて 何処を探しても住人は発見されない
行動の不自由は夢なので融通が利かず 不意に二回のベッドの下に隠れれば
異形の老婆が何処からともなく現れて 会ったこともない俺を探してるんだ
声が遠くなる別の場所に移動しても 自分はそこから動かない
そして気付けば身体が固まってるリアルな自分が目を覚ます
そんな妄想で足腰が立たなくなっていた俺に追い打ちを掛けるが如く 音がした
「っ……」
咄嗟に声を殺す俺の心理としては
聞き覚えのある声なら荒げて発していた
しかし遠くから聴こえてくる声はどの教師とも当て嵌まらず
決め手は二人が会話しているのが耳に届いたから
「…………!!」
しかしそれでも声のする方へと足が進んでしまう
近隣で不審人物の噂も無ければ 物騒な事件も起きていない
これで会話元が善良な一般市民ならば 自分は損をすると焦る
「……は……丈……なのか?」
「理論……問……は無い……」
ーー何だ…… 何の話をしているんだ?
壁伝いに手を付いて歩いてる俺は恐ろしい事実に迫られる
「えっ…… ここ?」
何も無い今までと変わらないコンクリートの壁
そこに耳を当てれば向こうから例の会話声が聴こえて来る
「扉…… なんて物はないよな?」
あまり物音を立てずに辺りに入り口がないか探す
しかし入り口も無ければ隙間すらない ならば想像は恐怖が増す程に膨れ上がり
ーーゆ…… 幽霊?!!!
しかし会話は続いている 俺は思わず壁に耳を貼り付けて聞き取っとってみると
「誘拐は成功した あんな仕事…… 俺である必要があったのか?」
「ご令嬢なだけあって警備も厳重 何より遊園地だ チンピラ達には荷が重いそうだ
だがこれは私が奴等の信頼を得る上で大事なことだよ?
君が私を仲間だと思ってくれてるなら これからの事を考えても重要なんだよ?」
「随分と老けたな博士? お前が〝こいつ〟の中に入っても良いんだぜ?」
「いいや…… まずは君を再び封印する その身体に思い入れも無いだろ?」
「だからって…… また〝これ〟は嘘だろ?」
「脳味噌は足りていないから色々と不便はあるだろうが
結局哺乳類なら適合すると…… 最近の研究も進化してるんだよぉ~~?」
「……分かったよ 次目覚める時は暴れられるんだな?」
「そこは保証する 何せ次は本格的に実行する時だからね」
「……ならとっとと始めろ」
次の瞬間 妬けに静かになった
俺は暫く壁に着けた耳をそのままにしていると
その静寂故に誘われた油断で 身体を大きく跳ね上げる
「きゃぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!!!」
人間の悲鳴とは思えない絶叫が響いてきた
俺は何も考えることが出来ず その場からただ離れようと全力で走った
走るのは得意じゃないのに 息を切らしても走り続ける
まるで意識をハッキリ保っているのに悪夢を見ているかの様
心臓は張り詰められ 鼓動が落ち着いたのは 見覚えのある教材が並ぶ一室
古いエレベーターを一目で見れば それに乗ってスイッチを適当に押し
地上の景色を拝んでも現実を受け入れられないでいた
「何だったんだ…… マジであそこは何なんだよ……」
トラウマも良い所だ
不思議と地上の夜道は快適に歩ける
地下ほと恐怖になる物など現れないだろうと強気になれた
しかし口から漏れるのは ネガティブで後ろ向きで単調な言葉の連続
「あそこは…… ヤバい……
ホントヤバい…… 無理…… 二度と近付くかあんな楽校……」




