第87話 決断と動揺
安斎は煙草に火を点けて裏口へ向かい 一通り吸い終わると部屋に戻ってくる
「松原さんの件は今は飲み込む やりようが無いし警察に任せよう
殺した犯人が河上だった場合 上の政界に近い連中が動いたのかもしれないしな」
「政財界に関わる二つの財団もあぁなってるし ホンマ何が起きるか分からん状況やでぇ……」
「他は何かあったのか?」
「栗田泉太郎と芽神咲彩が警察庁指定被疑者特別指名手配になったで」
「ん? 普通の指名手配と違うのか?」
「特級や特級…… 社会的に著しく危険性の強い凶悪犯として見られたってことやな」
「でもまぁ捕まんねぇよなぁ…… 記憶にあるが 二人はあの時既に乗船してた
泉太郎は分かるが 芽神は谷村紫龍や誘拐の関与が明るみになったのか?」
「あぁビックリやで……? 芽神は既に三人殺してる 全員四ノ海や」
「三人だと?!」
「蕾ちゃんの誘拐事件とは関わり無いと思うて言いそびれとったんやが
額蔵には十三人の妾の子がおる 栖がいなくなった場合のストックやな
泉太郎や棘岬高校で毒殺された谷村紫龍がそれに該当する」
柴塚は二人の写真を全員に見せる
安斎と柴塚が見入ってる間にフレバーが岳斗に質問していた
「確かに顔が似てるな…… なぁ岳斗
四ノ海栖が亡くなれば 次の継承者は年齢による順番になるのか?」
「いいや恐らくちゃう あっちもあっちで何やら後継者ゲームをやっとるらしいからな」
「フッ…… どいつもこいつもプライドの高い金持ちって奴等はふざけてるな……」
「具体的に何するんか知らんが 下手したら血が流れるでぇ?」
自分も四季園サイドの関係者故に陽気に笑う岳斗
「さてどないする安斎ちゃん?
……と言っても君らに必要なのは決断によるイエスかノーだけやがな」
「ん?」
「さっきもテレビで言うとったやろ?
四季園一派と四ノ海グループのそのほとんどは今バランタイン公国や
加えて四ノ海の継承権を欲しがる愛人の子達もそっちに渡るだろうし
芽神咲彩もそっちにおる 暁風楽校で誘拐された生徒達もあっちやし?
これだけ国内探してもワシの姪もおらんかった…… 見つかったのは左手だけ……
おそらく全部 その国に行けば解決するんとちゃうか?」
「そうだな…… 俺は行くぞ 迷いはねぇ」
「デュヒヒ!! それを聞いて安心したでぇ? 柴塚ちゃんとお前はどうする?」
「俺は母国に帰るようなもんだ…… 安斎が行くなら俺も付いていくわよぉ♡」
安斎に抱きつくフレバー 柴塚もちょっと考えたが答えは決まっていた
「従業員がお留守番とか退屈ですし 行きますよ!!」
「おっしゃぁ!! ワシにも自家用機っちゅうもんがあるんやぁ!!
四人全員!! 無事に海外渡航させたるでぇ!!!!」
「……じゃぁ今日は決起祝いですね!! 呑みましょう!!」
廊下の自販機からビールと酎ハイを買い漁る四人は朝まで飲み明かした
隣にまだ客もいるので 旅館の従業員だった記憶が残る安斎は注意を促しながらも
その宴は朝まで続く
8月16日 朝方
他三人が酔って爆睡している中 安斎は寝させて貰えなかった
大将に叩き起こされ 裏庭の水道で顔を洗わされる
「まったくまだ客がいるっつうのに…… 夜遅くまで深酒とは上等じゃねぇか!!」
「すんません大将……」
「そんなんだからお前はずっとペテ公なんだよ 気を引き締めろ!!
客が全員お帰りになるまでがゴザッテ旅館なんだ!!」
「はい!!」
「今日は朝食作って その後はトイレ掃除だ 市場にはもう行かなくていい
お盆過ぎればここを利用する客は減る 事実もう予約は無ぇしなぁ」
「…………」
「明日は俺に付いてこい 高齢で手が欲しいって漁師の知り合いがいるんだ
お前や美祢葉の生活は続く 旅館は休業しても食い扶持に困らせねぇ……」
「あの…… 大将……」
「口じゃなく手を動かせ馬鹿野郎ぅ……!!」
「俺…… 記憶戻ったんです」
「だからどうしたってんだぁ!!!!」
「やってる途中の仕事を思い出したんです…… 行かなければいけません」
「まずは朝食だぁ!! 与えられた仕事を熟して一人前だ!!」
煙草を灰皿に捨てる大将は勇み足で厨房へと戻ろうとすると
「人が何人も死んでるんですっ!!」
「っ……!!」
「ここで何もかも忘れるのは人として一人前ですか?」
「フゥフゥ…… 生意気言いやがっ…… くっ……」
「お願いします大将……!!」
すると開けた裏口を閉める大将はその場で土下座し始めた
「ここにいてくれペテ公……!!!!」
「…………」
「もっと言えば美祢葉を貰ってやってくれねぇか?
アイツは常に気丈に振る舞ってちゃいるが たまに発作を起こしたりしてるんだ
ペテの前では見せていないだろうが吸引器や薬も使用している その代金は馬鹿にならねぇ」
「っ……」
「アイツは母親に似て別嬪さん…… 上玉だろう?!
お前みてぇな体力と根性のある奴になら任せられる 悪い話じゃねぇ筈だ!!」
「大将 頭を上げて下さい」
「俺だっていつまでも元気じゃねぇんだ…… 頼むペテ公!! 頼むぅ……!!」
大将の熱意にただただ困惑している安斎
そんな慌ただしい声を聞いて駆け付けたのは美祢葉だった
「ちょっとお父ちゃん何してるの?! ペテちゃんだって迷惑でしょ?!」
「俺はお前を心配して……」
「時代の価値観古いし 私が結婚したいなんて言った?」
「うぅ…… それは……」
「お父ちゃんが私の心配してくれるのは嬉しいけど
私にだって相手を選ぶ権利があると思うんだけど????」
「……すまん」
取り敢えず今日の仕事だけは参加する安斎 たった一ヶ月半という月日だが
染みついたルーティーンは嫌でも熟せるようになってしまっていた
大将が今までキツくしごいてた真意を知った安斎は この今を無視することも出来ないでいる




