B・Gの内情
ブラウエル・グロリアは山賊からの襲撃後、街の避難所と化した魔法学校に似つかわしくない、爆発するような魔力の揺れを感じていた。魔法を使えないものでも感じ取れるほどの怒気に合わせ魔力が漏れている。何事かとブラウエル・グロリアは思いながらも、漏れていた魔力から大体の見当はついている。
あれがブチギレる条件はそろっている。
大きな野次馬の山「失礼」と前置きをしながら前に進もうとすれば、人だかりは俺を見て道を譲る。
そして、胸が高鳴る。
バキッと何かが折れるような音。誰かが倒れ込む音。「まあ、まあ」と宥めるようなイーズ・クレージュの声。
美しい銀髪の髪、深い海のような藍色の目は怒りに染まっている。
「ああ、アルマティア……そんなに取り乱してどうした?」
美しいアルマティアを後ろから抱きしめ、瞳を隠す。わずかに振り払うような行動が見られたが、すぐに俺に寄りかかるように体重をかけられる。
腕に手を添えられてついに思いが通じたか、と思えばそのまま投げ飛ばされた。
「うわぁ」
イーズの気の抜けた不憫がるような声。
天井にあたりそうになったが、すれすれのところで落下し始め野次馬の上に落ちる。
「ぐえっ」
「きゃー」
「失礼! 躱せなかった」
はっはっは、と笑うと仕方が無さそうに笑う俺の下の人間。
「気色悪いわ! 触れるなクズめ!」
ああ、久し振りに聞く罵声。
「お前もお前だ! 何のために育ててきた! 何のために妥協して置いておいてやったと思ってる!」
「すみません」
アルマティアの怒りの矛先は、ルシアンのようで頬を晴らした彼に追い打ちをかけるように蹴りを入れている。ルシアンは一切無抵抗で暴行を受け入れている。
「汚らわしいお前なんぞを! なぜ! お前が私のローズに守られていた!」
「アルマティア、怒り狂ってるお前も美しいがローズが守りたかったヴィトン家を当主代行のお前が崩しにかかってるぞ」
「うるさいこの寄生虫め! お前もお前だ! なぜ見す見すローズを攫わせた!」
私の胸倉をつかみ怒声を浴びせてくる。
ああ、年をとっても美しい顔。本当に久方ぶりにみる怒り狂った様子。アルマティアが何か感情をもって私を見たのは、ローズを当主にさせるために頭を下げてきたあの日以来か。
「ああ、その罵声が久し振りでなんだかうれしいよ。アルマティア」
「気持ち悪い近づくな変態!」
振りかぶってきた拳を受け止めながら、抱きしめるように魔法を使って押さえこむ。アルマティア自身全力の抵抗をしてくるが、空間固定してしまえば力はいらない。
「アルマティアの罵声が聞こえたが、ブラウエルがまたちょっかい出したのか?」
復興支援のために顔を出していた陛下がにやにやとこちらへやってくる。陛下の周りにはユルフェとニコラスが控えている。
陛下は俺が抱きしめる形にされているアルマティアを見て噴き出した。
「ブラウエル! お前本当に燃やされるぞ」
「いや、俺とこいつの仲なんで。見てくださいよ、こんなにもラブラブ」
やけに静かなアルマティアに顔を覗き込むと、ボロボロと泣き出している。本当にこの家系は感情が爆発した後は泣くのがお決まりのパターンだ。
「なんで、こんなに頑張ってるのに貧乏くじしか……ひけない……」
ぼそぼそと呟くように言っていて、宥めるように頭を撫でる。
「うん、お前は頑張っている。すごく頑張っているよ」
「バカにしてるんだろう……みんな……無様にあがいてる私も……ローズのことも」
「バカにしていないよ。本当に……お前らは本当にかわいいね」
久し振りに恍惚としている気がする。頬を濡らすアルマティアはどうしてこんなにも美しいのだろう?
呆れたようなニコラスやいつの間にかいたルカスが「どうしよう?」と言うように陛下を見ているが、陛下は好きにしろと言うように静観している。
「おい、それの部屋はどこだ?」
ルシアンの従者に言えば、ルシアンを支えていた従者は「最上階の東でございます」とわずかな怒気を孕ませながら答えた。
「ちょっと、落ち着かせてきます。陛下」
「ああ、構わないが燃やさせるなよ」
アルマティアを抱き上げ、士官学校の寮に向かって歩き出す。アルマティアは「落ち着いている!」「触るな!」等騒いでいるが、微笑ましいものを見るように放置されている。
関節を固定し、魔力すら自分の魔力で押さえつけ学生時代と変わらない。俺が劣等感の塊であるアルマティアをからかい、数か月に一度爆発したアルマティアを慰める。アルマティアの兄フェルナンが穏やかにそして楽しそうに眺めていた。
フェルナンは誰がどう見ても優秀すぎだ。俺も天才だと思っていたが、フェルナンには勝てないと思ったほどの魔力量と才能だ。無論、史上最高の帝下四族として名を馳せていた。
寮にあるルシアンの部屋は、昔アルマティアが使っていた部屋だった。
「なつかしいな」
ルシアンの部屋は意外なほどに殺風景だ。ベッドと机と僅かな教科書とソファーのみ。
ベッドにアルマティアを寝転ばすと、忌々しそうに俺を睨んでいる。
「……」
「アルマティア、ローズモンドは自ら麗帝国についた。そして麗帝国とクレージュの戦には中立宣言をした」
「……は?」
「お前、私に何を言えばいいかわかるね?」
魔力で押さえつけることを止めれば、ベッドから起き上がりアルマティアは俺を見上げている。
「……なぜ、あの子が」
「惚れたんじゃないのか? クレージュにはそういない武骨な美丈夫だった。それにひたすらに守られ慣れていないローズを守っていた」
嘘だけれども。ローズはただヴィトン領を守るためだけに行動したに違いない。
アルマティアは少しだけ考えるように目を泳がせた後、口を開いた。
「いや、それはあり得ない。ローズは恋情で動く女じゃない。ヴィトン家にはもうローズしかいない。何かあるのだろう」
信頼し、断言したことにいら立ちを覚える。
「お前たちにはできるわけがない」
アルマティアの傷ついた表情に、すらすらと言葉が出てくる。
「あの愚かな人形にたくらみなど、あるわけがないだろう」
そう言えばアルマティアは涙で潤んでいた瞳で俺を睨みつけながら口を開いた。
「我らは人形ではない。いく道は自分で決められる」
いくにどんな意味が込められているのだろう? 行く、逝く、征く?
どんな意味でもどうでもいい。
にやけてしまう口元を押さえると、アルマティアは軽蔑したような視線を俺に向ける。なんでもいい。自分に視線が向けば。その感情を向けてくれれば、どうしようもなくうれしくなってしまう。
「――俺は無様にもがくお前らが愛しい」
先祖代々続いたヴィトン家への歪んだ恋情は未だに終わりそうにない。




