1日目
初めて読む方は3日目からお願いします!
――陽太が交通事故に遭ったと、彼に連絡したのは、彼がまだ学校にいるときだった。
HRが終わり、放課後、テストに向けての勉強をしていたらしい。連絡をすると、少しの静寂を挟み、彼は電話を切った。
数秒も経たずに、電話がかかってきた。私は病院名を伝えると、夫が迎えに向かっていることも伝えた。
彼は荒い呼吸を整え、揺れた声で一言、返事をした。
待合室の椅子に腰掛ける。足はぶるぶると震えていて、なんだか息が苦しい。
今、お兄ちゃんが来てくれるからね。頑張りなさいよ。
届きもしない言葉を念じて、私はか細く息を吐いた。
十数分で、彼等はやってきた。夫は真っ先に私の隣へ来て、背中を大きく摩ってくれた。
彼の目は、怯えていた。陽太は? と聞いてきたっきり、魂が抜けたかのように座っている。そんな彼のことも、私は見ていられなかった。
家族誰も、会話は交わさなかった。手術を担当した先生が来るまでの、計約6時間。1日中そこにいるような感覚でいた。
私の視線と医師の視線の交わりを確認し、1番初めに立ったのは彼だった。
しっかりと地を踏みしめ、掴み掛かりそうな勢いで歩く。陽太は助かると、信じて疑わない瞳をしていた。
医師はたじろぎながらも、彼に対して。そして私達に対して。口を真一文字に結び、ゆっくりと、首を左右に振った。
「全力は最後まで、尽くしました」
私も彼も、呆然と立ち尽くした。あの陽太に限って、そんなことはあるはずないと、互いに同じことを思っていたのだろう。夫だけが冷静に、深々とお辞儀をした。
思い返せば、夫も冷静では無かったに違いない。握り締めた拳は震え、その後も無言でいたのだから。
陽太の元へ向かう。生前、いつも見せてくれた、ころころとした表情を見るために。
勿論、見られるのは沈んだ表情だけだと、本当は分かってはいた。
それはとても綺麗な肌だった。交通事故に遭ったとは、全く思えなかった。
苦しみに歪んだ顔じゃなくて良かったと、私はホッとする。彼はぼうっと、陽太のことを見つめていた。
首から下を見ることは、誰も無かった。




