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兄は弟を追いかけた  作者: 流美
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7/9

1日目

初めて読む方は3日目からお願いします!

――陽太が交通事故に遭ったと、彼に連絡したのは、彼がまだ学校にいるときだった。


 HRが終わり、放課後、テストに向けての勉強をしていたらしい。連絡をすると、少しの静寂を挟み、彼は電話を切った。


 数秒も経たずに、電話がかかってきた。私は病院名を伝えると、夫が迎えに向かっていることも伝えた。

 彼は荒い呼吸を整え、揺れた声で一言、返事をした。


 待合室の椅子に腰掛ける。足はぶるぶると震えていて、なんだか息が苦しい。

 今、お兄ちゃんが来てくれるからね。頑張りなさいよ。

 届きもしない言葉を念じて、私はか細く息を吐いた。


 十数分で、彼等はやってきた。夫は真っ先に私の隣へ来て、背中を大きく摩ってくれた。

 彼の目は、怯えていた。陽太は? と聞いてきたっきり、魂が抜けたかのように座っている。そんな彼のことも、私は見ていられなかった。


 家族誰も、会話は交わさなかった。手術を担当した先生が来るまでの、計約6時間。1日中そこにいるような感覚でいた。


 私の視線と医師の視線の交わりを確認し、1番初めに立ったのは彼だった。

 しっかりと地を踏みしめ、掴み掛かりそうな勢いで歩く。陽太は助かると、信じて疑わない瞳をしていた。


 医師はたじろぎながらも、彼に対して。そして私達に対して。口を真一文字に結び、ゆっくりと、首を左右に振った。


「全力は最後まで、尽くしました」


 私も彼も、呆然と立ち尽くした。あの陽太に限って、そんなことはあるはずないと、互いに同じことを思っていたのだろう。夫だけが冷静に、深々とお辞儀をした。

 思い返せば、夫も冷静では無かったに違いない。握り締めた拳は震え、その後も無言でいたのだから。


 陽太の元へ向かう。生前、いつも見せてくれた、ころころとした表情を見るために。

 勿論、見られるのは沈んだ表情だけだと、本当は分かってはいた。


 それはとても綺麗な肌だった。交通事故に遭ったとは、全く思えなかった。

 苦しみに歪んだ顔じゃなくて良かったと、私はホッとする。彼はぼうっと、陽太のことを見つめていた。

 首から下を見ることは、誰も無かった。

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