兄は弟を追いかけた
「なんだか……お気の毒ねぇ……」
蒼と関係のあった人が、明るいとは言えない雰囲気の中、立ち尽くす。隅で立っている蒼の母と父を取り囲むのは、伯父や伯母、親戚の人々だった。
「いきなり走り出して……。いやまさか、あんな事になるなんて思わず……申し訳ない……」
取り囲む中には、水族館で蒼を引き止めた警備員もいた。心底悔しそうな顔をして、深々と父母へ礼をする。
ぐっしょり濡らしたハンカチで目元を抑えながら、母が首を振った。
「いいんです……。何も悪く、ありません……」
「貴方は仕事をした。……それだけだ」
かろうじて声を絞り出した母に、父が冷静に言葉を続けた。
やるせない顔で再三、礼をした警備員は外へと出て行った。
「陽太君が事故で亡くなってから、1週間で蒼君も事故で亡くなっちゃうなんてねぇ。陽太君に取り憑かれてたんじゃないのぉ?」
「そうそう。なんだか様子もおかしかったらしいわね」
肩を震わす父母。そんなに御構い無しに、口々に好き勝手喋り始める。更に母がハンカチを濡らしたところで、父が拳を握り始めた。
「慎みの無いことを言わないで下さい。陽太も蒼も、私達の大事な息子です」
真っ直ぐ捉えてきた瞳に、喋っていた人は尻窄みをする。狼狽えた後、会釈をしてその場を離れた。
「ごめん、なさい……私が、私がもっとしっかりしていれば……」
「いい、自分を責めるな……。息子2人も亡くなってしまった今、俺達は生きる以外、道は無い」
「そうよね……陽太と蒼も、きっと、幸せに過ごしてるわ……。私達も、前を向かないと……」
そうは言っても、目から溢れるそれは止まらない。
父から新しく受け取ったタオルを、またぐっしょりと濡らして、母はおぼつかない足取りで棺へと向かった。
そんな母を支えながら、父も着いて行く。
覗き窓から、蒼の顔を見つめる。
死化粧を軽く施されたとは言え、車に轢かれてしまった蒼の顔には、痛々しい傷跡が薄っすらと残っていた。
「……警備員さんから、置いていかないで、と言っていた、って聞いたの……」
父は深く頷いた。堪え切れなくなった涙が、母の呟きをきっかけに溢れ始めた。
「幸せそうな、笑顔だな……」
父も母も、そこで泣き崩れた。もう言葉を発せず、疲れ果てるまで号哭した。
蒼の安らかな微笑みが。心からの笑顔が。父母を突き落とした。残酷に、これでも正解なのだろうと思わせた。
だからこそ寂しく、だからこそ辛かった。
父母は心中を考え、そして止めた。
ここまで読んで下さったこと、深く感謝申し上げます。
この後、1日目と2日目、兄弟の生前の話の投稿を予定しておりますが、おまけのようなものとなります。読まなくとも支障は一切ありません。
また、お時間がありましたら、もう一度読み返していただけると、更に深く理解ができると思われます。
まだまだ勉強が足りないため、レビューや感想をいただけると、とても嬉しいです。こちらもお時間がありましたら、宜しくお願いします。
それでは改めまして、
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。




