接客を頑張るようです
俺の考える接客の基本は、「棒立ちにならないこと」だ。
お店というものは、いわば店員の縄張りのようなもの。
普通のお客さんはただでさえ警戒心を抱き、潜在的な不安を感じながら店に来るのだ。
そこに店員が棒立ちしていたら、それだけで威圧感の塊になってしまう。
折角のお客さんに「来るな」と言っているようなもんだろう。
だから、まずはせっせと短剣を並べ直したり、周囲の掃除などに専念する。
これが「動的待機」というやつで、お客さんに対して「安心して商品を見てください、俺はしつこく勧めたりしませんから」というメッセージになるのだ。
案の定、数十分もせっせと動いていたら、街行く人がぽつりぽつりと足を止め、短剣の箱を覗き込むようになった。
キビキビとした店員の動作には、それ自体で客引きの効果がある。
現代で生きていた時になんかの本で読んだうろ覚えの知識のはずだが、スキルのお陰かかなり明確に思い出せているようだ。
もちろん、ほとんどの人はちら見してすぐに去っていくが、まずは一瞬でも注意を引けたということは大きい。
つまりこのディスプレイはそれほど悪くないってことだからな。
そこへ、10歳ぐらいの男の子がサンプルの短剣に近づき、興味深そうに眺め始めた。
刃物への憧れを持ち始めてもおかしくない年齢だ。
お客さん候補としては悪くないだろう。
ただ、子供にどれだけアピールしても仕方ない。
子供は財布を持っていないからね。
まずは親を抑えないと、と思いさりげなく周囲を見回すと、案の定母親らしき30代半ばぐらいの女性が近寄ってくる。
「こら、アルト、危ないから触っちゃダメよ」
「うん、触ってないよ。見てるだけ」
「あら…なかなか綺麗なダガーね」
…ここですぐに話しかけてはいけないのだ。
お客さんが短剣に興味を持ったのはたった今のこと。
そこで畳み掛けてしまったら、興味はすぐに消し飛んで「売りつけられるのでは」という恐怖に取って代わるだろう。
俺ははやる気持ちを抑え、素知らぬ顔で短剣の鞘をひとつひとつ丹念にチェックするふりをする。
「ママ、僕もそろそろダガーが欲しいな」
「あら、でもうちに確かお父さんのお古があったわよ」
「えーっ、新しいのがいいな。古いと友達に馬鹿にされるよ!みんな新しいの買ってもらってるし」
「あら、うちはうち、よそはよそでしょ」
物をねだる子供と、それをあしらう親のやりとりというやつは、どこの世界でも変わらないようだ。
少し懐かしく、胸が痛むような気がした。
…もう、あの世界に戻れることはないのだろう。
何はともあれ、まずはこの店で成果を挙げていくしかない。
「今度の試験がんばるからさぁ!」
「うーん…」
この辺りが潮時だろうと、そっと母親の右手から近づく。
利き手の側からさりげなく近づくことで、警戒心を少しでも緩めようという配慮だ。
どの程度効果があるかはわからないけど。
「良かったら、ちょっと試してみます?」
「え?あ、ああ…そうねぇ」
案の定、即座に断られるということはなさそうだ。
母親の側も、多少は検討する余地があるからこそ、すぐに立ち去らなかったのだろう。
買う気がある客と全くない客を選別し、接客の手間を省くためにも、ある程度の時間あえて放っておく意味があるのだ。
母親は慣れた手つきで短剣を手に取ると、リンゴの皮をするすると剥いていく。
「あら、なかなかいい切れ味ね」
「はい、切れ味がいい新品の方がお子様も怪我しにくいかとは思います」
「そうね…」
「子供の安全」をアピールすることで、母親の母性本能を刺激してみる。
しかし、それ以上しつこく言葉を並べると嘘くさくなる。
さりげなく背中は押した、あとはお客さん次第だ。
「他にも色々とございますので、ゆっくりご覧ください」
それだけ言い残してすっと身を引くと、母親はすぐに俺を呼び止めた。
「これ、いただくわ」
「ありがとうございます!」
母親から代金を受け取り、代わりにダガーを渡した。
店の奥へと売り上げを運ぶ足取りが自然と弾む。
自分なりに考えたセールス手法が功を奏したのかはわからないが、モノが売れるのは嬉しいもんだ。




