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戦場はキッチン

 お料理教室のあるフロアへ行くと何人かの叫び声が聞こえる。


「お兄ちゃん! ここよ」


「間違いない、舞! 頼んだぞ」


「任しておいて!」


 蓮は更に妄想を膨らませ、舞に武器としてデカいプレゼント袋を持たせた。

もはや、デカい武器シリーズは、蓮の中で定番になりつつあった。

 お料理教室のドアを開くと、数匹の犬がジャックナイフの一員とおぼしき人物に鞭でなぶられていた。


「助けて~」


 そのうちの一匹が言う。


「お兄ちゃん、どうやらここにいる皆は犬にされちゃったみたいね」


「犬に?」


 確かに見た目は犬だが、はっきりと人間の言葉をしゃべっている。

舞の時と同じだ。


「よし、助けよう」


「うん、お兄ちゃん」


「そうは、させないぜ。せっかく仕入れた可愛い奴隷達だ。貴様らも観念して、犬になるんだな」


 ジャックナイフの一員は、犬達の前に立ちはだかり、鞭を振り回わした。


「舞、頼んだぞ!」


「ん? 貴様は蓮。何故ここに? そうかわかったぞ。お前がジル様が言っていた、あっちの世界の蓮だな? 面白い。ここで、貴様を倒せば俺様の株が上がるってもんよ。観念しろ! このベナン様が冥土に送ってやるぜ!」


「そうはさせないわ! この舞が相手よ」


 舞はプレゼント袋を持ち上げ、ベナンを睨み付けた。


「舞、気を付けるのです。ベナンは変な術を使いますわ」


 数匹いる犬のうちの一匹が、舞に注意を呼び掛ける。


「もしかして、綾香お姉ちゃん?」


 舞はその犬に向かって言った。


「ええ、そうですわ。油断して、こいつに犬にされましたの」


「静かにしやがれ! 犬は犬らしくワンワンと吠えていりゃいいんだ。余計なことをしゃべるな」


「いた~いですわ……」


 ベナンは、その犬に向かって鞭を振るった。


「綾香お姉ちゃん……」


「綾香お姉ちゃん? 舞、どういうことだ?」


 状況が掴めず、蓮は舞に問い掛けた。


「綾香お姉ちゃんは、舞の双子の姉なの」


「そういうことか? なら、助けない訳にはいかないな」


 蓮の妄想は、一段と増幅し、舞に驚異的な力が備わった。

 舞はプレゼントを投げ捨て、素手でベナンをタコ殴りにした。


――舞……何故お前は俺が出してやった武器を使わない? ――

            蓮の出してやったプレゼント袋の武器は、無惨にも床に転がり、ベナンと舞に足蹴にされボロボロになった。


――武器の意味がねぇじゃねぇか? だったら、舞の格闘能力を上げるしかないな――



 蓮は、舞の武器を諦め、格闘能力に特化することに決めた。


「ええい、とりゃ~」


 舞はパンツ丸出しで、パンチやらキックやらを連打する。


「なかなか、やるな……」


 舞に一太刀も浴びせていないくせに、ベナンは言った。


「舞、お遊びは終わりだ! 早いとこ片付けちゃえよ」


「うん。お兄ちゃん」


 舞は蓮の言葉に返事すると、大股開きで得意の踵落としを繰り出した。


「ぐぇぇ。いてぇ、いてぇぞ! 貴様~!」


 怒ったベナンは顔を真っ赤にして、自在に鞭を操った。


「こんなの効かないわ!」


 スルリと舞が鞭を交わすと、いつの間にベナンは舞の背後に回っていた。


「瞬間移動?」


「かかったな? これで、貴様も終わりだ!」


 ベナンの鞭が、舞の首を締め上げる。


「く、苦しい……息が……出来ない……」


「舞――――っ! くそぅ。何か方法は……そうだ!」


 蓮は乱雑する調理用具を見て、何かを思い付いた。


――舞も、俺の妄想で人間に戻れたんだ。綾香ちゃんも、俺の妄想で人間戻れるはずだ。よし……いけるか? ――


 蓮は綾香に向け、今出来る限りの妄想をした。

 ベナンの鞭は、更に舞を締め付ける。

もう一刻の猶予もない、危険な状況だ。


――どうだ? 頼む、綾香ちゃん――


 綾香と思われる犬は光に包まれ、徐々に人間の姿に変わっていく。

それを確認すると、蓮は更なる妄想をした。


――ダメだ。これが今俺に出来る最大限の妄想だ――


 綾香は、裸にエプロンを纏っただけの、未完成の姿のまま蓮達の前に現れた。スラッとした長身で、背中まである髪は綺麗なアッシュブラウンだ。


「礼を言いますわ。お兄様~。この綾香、全力で尽くしますわ~」


 綾香は、その裸にエプロン姿に不満も言わず、ベナンに向けて構える。

その後ろ姿は、何とも美しい。特に、プリっとした丸いお尻が。


――あぁ……。いかん、いかん。見とれている場合じゃない。何か武器を……そうだ! デカい包丁だな!――


「綾香ちゃん、それを使ってくれ。そして、男達の夢を叶えてくれ」


 綾香は、デカい包丁を担ぐと、舞を苦しめていた忌々しい鞭を叩き切った。


「綾香ちゃん、ナイスだ! そのままいっけ~」


「承知しましたわ、お兄様」


 綾香はデカい包丁を捨て、ベナン目掛けて正拳突きを放つ。


――だから、何で君達は俺がせっかく出してあげた武器を使わないのさ……やっぱり双子は似るのか? ――


「綾香お姉ちゃんありがとう。舞もやるわ」


 鞭から解放された舞も、戦闘に加わりベナンはなすすべがなくなった。


「ひぃ~。頼む許してくれ……」


「どうする? 綾香お姉ちゃん」


「許しませんわ! お仕置きよ。」


「だよね……」


 舞と綾香は、ベナンの左右に立った。


「これで、終わりですわ。ダブルキッ――ク」


 舞と綾香のハイキックが、ベナンを捉える。

ベナンはシンクに叩きつけられ、煙のように消えた。

それと同時に呪いが解けたのか、犬にされた者達が、人間に戻った。


「ありがとうございます」


 人間に戻った者達は、綾香と舞に礼を言うと、そそくさと出ていった。


「あの……一応俺も戦ってんだけど……」


 蓮はそう言ったが、誰も蓮に見向きもせず、通り過ぎていった。


「お兄様~。凄かったですわ。改めて、舞の双子の姉、『綾香』ですわ」


「俺は蓮、妄想者さ。ところで、綾香ちゃん。花音を知らないか?」


「花音なら、ジャックナイフのジルに連れ去られましたわ。確か、スカイタワーがどうとか言っていましたわ」


「スカイタワーに……花音が……舞、綾香ちゃん、一緒に行ってくれるね?」


「もちろんですわ」


「うん」


 蓮と舞は、救出した綾香を加え、花音のいるであろうスカイタワー目指して先を急いだ。

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