妹っていいな
戦いを終え、花音が制服姿に戻ると、再び窓から誠の部屋に戻った。
「お前ら、何やってんだよ。探したんだぞ」
誠はそう言っていたが、用意されたジュースは全てなくなり探していた気配はない。
――何だよコイツ、出そうとしたジュースは全部飲んでんじゃないか? ――
蓮は誠に突っ込みたかったが、もともとそういう性格なので、言うのをやめた。
予定通り三人でアニメを見終わると、蓮と花音は誠の家を後にした。
辺りはすっかり暗くなり、街灯だけがぼんやりと道を照らしていた。
「お兄様~、寒いから腕組みしていい?」
「あぁ、いいよ」
もう四月下旬だというのに、夜の冷え込みは激しく、コートでも欲しいくらいだ。
思いの外ギュッと、左腕に胸を密着する花音。
左腕に全神経が、集中したかのように、その胸の柔らかさが制服ごしでも伝わってくる。
横目でチラリと、花音を見るとニコッと笑い返す。
――本当は自分の世界や、兄さんのことが心配なんだろうな……見た目は普通の女子高生なのに――
戦わなくてはならない花音に、蓮は同情した。
『もっと妄想力に磨きをかけないと』と。それが蓮に出来る、唯一のことだからだ。
そうこうしているうちに、蓮達は自宅へと辿り着いた。
もっと花音と密着したかったが、こういったチャンスはまた巡ってくるだろう。
花音が腕から離れると、蓮は玄関のドアを開いた。
「ただいま~」
「あら、二人とも遅かったのね。夕飯の支度が出来てるから、早く椅子に掛けなさい」
――やはり、母さんも花音の存在を否定しない――
蓮は安堵すると、早速箸を持ち、夕飯にありついた。
その夜、花音は蓮と一緒に寝たいと申し出た。
いつまた、ジャックナイフが襲ってくるかもしれない――――ということを口実に、蓮は躊躇することなく二つ返事でベッドに招き入れた。
スゥースゥーと何の警戒もせず、花音は寝息を立て眠る。
その寝顔が、間近で蓮の欲望を刺激した。
――だっー! 寝れねぇよ。眠るどころか目が冴えてくる――
シングルベッドは今や戦場と化し、蓮はあらぬ妄想を掻き立てた。
こうして、夜は更けていった。
翌日。
結局一睡も出来なかった蓮は、今頃になって眠気が襲ってきた。
しかし、もうじき学校に行かなくてはいけない時間。
蓮は、眠い目を擦りながらも、花音を優しく起こした。
「花音、もう朝だよ」
すると花音は、寝惚けながら蓮の肩に手を回す。
「ん~、まだ眠いよぉ」
間近に迫る花音の唇。
あとちょっとで、唇と唇が重なる位置。
――いかん、いかん。それはマズイぞ。仮にも兄妹だ――
寸での所で、蓮は花音を振り払った。
軽く朝食を済ませ、学校へと向かう。もちろん、花音も一緒だ。
どうやら、同じ高校に通っているように、花音が操ったらしい。
学校でも、ジャックナイフの奇襲を警戒していたが、奴らに動きはなかった。
「お兄様~! 一緒に帰ろう~」
蓮が下校しようとしていると、花音が駆け寄る。
蓮は断る理由もなく、花音を定位置の左に置いた。
「ジャックナイフ来なかったな」
「……うん。でも、本当のお兄様や世界が心配……」
花音は、初めて不安を口にした。
それと同時に、『本当の妹じゃないだっけ』と現実を突き付けられた発言でもあった。
「大丈夫! 花音の世界もお兄さんも、妄想があればへっちゃらだって」
蓮の言葉に花音は頷き、
「だから、お兄様大好き~」
と、腕にしがみついて来た。
「花音、皆が見てるから、離れろよ」
「いいでしょ。だって、お兄様のこと好きなんだもん。それとも、私のこと嫌いになった?」
「そう言う訳じゃ……」
『キャ――』
校庭の方から悲鳴が聞こえる。
「花音! ジャックナイフかもしれない。行くぞ」
「うん、お兄様!」
蓮と花音は、悲鳴が聞こえた校庭に、走っていった。




