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前世で食べ損ねたラーメンを求めて ~追放された俺は『ラーメンWalker』で異世界を無双する~  作者: マトンさん


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第八話 道具屋と宿屋

 二日後の夕方、俺たちはようやく街にたどり着いた。


 石造りの門。

 にぎやかな市場。

 生まれて初めて一人で足を踏み入れる屋敷の外の街だった。


「わあ……」

 シオが目を丸くしてきょろきょろと辺りを見回している。

 俺はまず道具屋に向かった。


 棚には鍋、包丁、すりこぎ、麺棒に使えそうな丸い木の棒まで様々な調理器具が並んでいる。


「いらっしゃい。何をお探しで?」


 愛想のいい店主に俺は必要なものを次々と並べた。

 大きな寸胴鍋。小さな片手鍋。麺棒。大きな包丁。ざる。そして麺を伸ばすための木の板。


 店主は首をかしげた。

「お客さん大量の料理でも作るんですかい?」

「ええまあ。新しい料理を少し」


 代金は金貨一枚と銀貨三枚。

 母がくれた金貨がずしりと減っていく。けれど後悔はない。

 買った道具は、どれもラーメンボックスに収納できる。


 次に宿屋だ。

「キッチンが使える部屋ってありますか?」

「ああ、あるよ。ひとり一泊銀貨二枚だよ」

 街の外れにある古びた宿屋。


 恰幅のいい女将さんが鍵を渡してくれた。

「台所は共用だから使ったら綺麗にしておくれよ」

 共用……。ちょっと嫌な予感がした。

 けれど今夜はどうしてもラーメンを作りたかった。


 夜。宿屋の台所に立つ俺の前に材料がずらりと並んでいた。

 ウルフの骨と肉と脂。

 シロネギリ草。

 ニンニの根。

 ユーズの葉。

 コショの実。

 小麦粉。

 岩塩。

 そしてシオが持っていた重曹。


「シオ、そこで見てて。絶対おいしくするから」

「は、はい!」

 シオは椅子にちょこんと座り、尻尾を揺らしながら俺の手元を見つめている。


 まずは麺からだ。


 中華麺を作るうえで欠かせないもの、それが「かん水」である。

 これがなければあの独特の風味や弾力、そして黄色みを帯びた麺を作ることは難しい。


 だが、ついにその代用品を作る方法が見つかったのだ。


 まずは重曹をフライパンに入れ、弱火でじっくりと乾煎りする。

 すると、重曹は熱によって炭酸ナトリウムへと変化する。

 これを水に溶かせばかん水の代わりとして使えるのだ。


 あとは、小麦粉にこのかん水もどきと塩を加えしっかりとこね上げる。

 生地がまとまったら、生地を休ませたのち薄く伸ばして細く切り麺の形に整える。


「……黄色い」

 思わず声が震えた。

 ぶよぶよの白い麺でも苦い灰色の麺でもない。

 紛れもなくあの中華麺の色だ。


 次はスープ。

 ウルフの骨をまず一度熱湯でしっかり茹でこぼす。

 血と臭みを徹底的に抜く。これは幼少期の失敗が俺に叩き込んでくれた教訓だ。

 それから改めて水から煮込む。

 シロネギリ草の根、ニンニの根、ユーズの葉を加えて弱火でじっくりと煮込む。

 一時間。二時間。

 台所に香りが立ち込めていく。


 ……獣臭い。


 いや、悪くない。

 確かに獣の臭いだ。

 けれど、その奥に確かな旨味の香りがある。

 最後に岩塩と少量の干し魚で塩ダレを作る。

 どんぶりに塩ダレを入れてスープで割り味を整える。


 麺を茹でる。三十秒。四十秒。

 ざるで湯切りしてどんぶりに入れる。

 茹でたウルフ肉を切って乗せる。

 刻んだシロネギリ草を散らす。


 ……完成だ。


「できた!」

 湯気の向こうに一杯のラーメンできあがっていた。

 スープは少し濁っている。

 麺は太さがまちまち。

 肉はちょっと硬そうだ。


 けれどそれは間違いなく。

「……ラーメンだ」


 十五年。いや、前世の時間も合わせればもっと長い。

 あと三人のところで食べ損ねたあの一杯。


 俺は震える手で割り箸の代わりのフォークを麺に差し入れた。

 一口すする。


「…………」

 しょっぱい。硬い。薄い。ちょっと臭みが残っている。


 麺は少し硬い。けれどちゃんとコシがある。

 弾力がある。噛むたびに小麦の香りとかん水の独特な風味が口の中に広がる。


「……うまい」


 涙がぼろぼろとこぼれた。

 完璧ではない。

 前世のあの店の味には遠く及ばない。

 けれどこれは確かにラーメンだった。


「ラメルさん?泣いて……」

「いいんだ。食べてみて。これがラーメンだ」


 シオがおそるおそるスープを一口すすった。

 金色の瞳が大きく見開かれた。

「……お、おいしい」


 彼女は麺をずるずると勢いよくすすり始めた。

「なにこれ!おいしい!こんなの初めて!」


 ばくばく。ずるずる。

 気づけばどんぶりは空になっていた。

 スープの最後の一滴まで飲み干されている。


「おかわり……ありますか?」

「ありすぎる!!」


 俺は泣き笑いしながら二杯目を作り始めた。

 その時だった。

 シオの体がふわりと淡い橙色に光った。


『食事効果:ラメル 全能力+1アップ/シオ 全能力+15アップ』


「……え」


 シオが自分の手を見つめた。

「なんだか力が湧いてくる……?」


 一方俺のステータスは全項目たったの+1。


「…………」


 ……なるほど。

 ラーメンを食べるとステータスは上がる。

 けれど俺の上がり幅はやけに小さい。

 その分彼女の方がずっと大きく成長している。


 これはもしかして。

 俺、これからもずっと弱いままなのでは?


 その直後だった。


 どんどんどんっ!

 台所の扉が激しく叩かれた。


「ちょっとあんたたち!何を煮てるんだい!」

 扉を開けると、顔を真っ赤にした恰幅のいい女将さんが仁王立ちしていた。

「獣臭くて他のお客さんが全員部屋から出てきちまったよ!何の肉を煮込んでるんだい!」

「あ、いえその料理を……」

「料理!?あの臭(にお)いが!?とにかく今すぐ火を止めな!それと窓を全部開けるんだよ!」

 俺は頭を下げるしかなかった。

「申し訳ありませんでした!!」


 女将さんがぷりぷりしながら去っていく。

 廊下の向こうから他の宿泊客の迷惑そうな声がいくつも聞こえてきた。


「……ラメルさん」

 シオがおそるおそる俺の袖を引いた。


「おいしかったです。でも確かにちょっと臭(くさ)いかも……」

「うん、俺もそう思う」


 窓を開けて風を入れながら俺はがっくりと肩を落とした。

 まぎれもなくラーメンは完成した。

 けれどその代償は宿屋全体を巻き込む強烈なニオイ。

「……次からは」


 俺は決意した。


「外でスープを炊こう」


 ラーメン無双への道はまだ始まったばかりだった。

お読みいただきありがとうございます!!

ついにラメルのラーメンが完成!

……したものの、宿屋じゅうに広がる獣臭さ。

次からは外でスープを炊くことになりそうです。

山〇家の店の前を通ると思わず「獣くさっ!」と言いたくなる。でも、あの匂いがたまらないんですよね。

ラメルたちの旅はまだまだ続きます。次回もお楽しみに!

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