↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前世で食べ損ねたラーメンを求めて ~追放された俺は『ラーメンWalker』で異世界を無双する~  作者: マトンさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
67/72

第六十六話 正月と甘酒

 一月一日。


 新居の窓から差し込む朝日が雪の庭をまぶしく照らしていた。

「ラメルおにいちゃん!あけまして、おめでとう!」

 布団の上にミソラが勢いよく飛び乗ってきた。

「ぐえっ」

「あけまして!おめでとう!」

「……おめでとう。降りてくれ、ミソラ。息が止まる」

「はーい!」

 昨夜覚えたばかりの挨拶がよほど気に入ったらしい。

 ミソラは廊下に出るとシオにもショーにもユウにも順番に「あけまして、おめでとう」を言って回っていた。

 階下からシオの笑い声が聞こえてくる。

 新しい年の朝は思ったよりずっと賑やかだった。


 元日は店も休みにした。

 昼までゆっくり寝て遅い朝食を取って、それからお楽しみだ。

 台所の作業台には陶器の鉢が置いてある。

 中には白くてこっくりした酒粕。

「じゃあ、約束の甘酒を作ろう」

「やったー!」

 ミソラが椅子の上でぴょんと跳ねた。

「作り方は簡単だ」

 鉢から酒粕を取り出して少しずつちぎる。

 鍋に水を張って火にかける。

 湯が温まったところでちぎった酒粕を入れ、木べらでゆっくりと溶かしていく。

「溶けにくいからちょっとずつな」

「かたまりがちゃんと消えていきますね」

 ユウが鍋の中を覗き込む。

 白い塊が湯の中でほどけて、とろりとした乳白色の液体に変わっていく。

 甘酸っぱくて米の香りが濃い。

「ここで、しっかり沸騰させる。酒粕にはアルコールが残っているからな」

 鍋を火にかけたまま木べらで混ぜる。

 ぐつぐつと煮立たせてアルコールを飛ばしていく。

「そして、砂糖を入れる」

 酒粕そのものには甘みがあまりない。

 黒砂糖を加えてよく混ぜる。

「それから、これだ」

 ラーメンボックスから赤い皮のついた根を取り出した。

 ポルコの野原で摘んだショッカの根だ。

「それは、紅ショッカ……あれ?」

「これはまだ漬ける前のやつだ。すりおろして甘酒に入れる」

 小さなおろし金で根をすりおろす。

 ぴりっとした爽やかな香りが台所に広がった。

「うわ。いい匂い」

 シオが鼻をひくひくさせた。

「生姜っていうんだ。体が温まる」

「しょう、が?」

「ああ。ほんの少しだけ入れるのがコツだ」

 鍋にひとつまみ。

 弱火でじっくりと温めて全体を混ぜ合わせる。

 甘い香りと生姜の爽やかな香りが重なって、台所はふんわりとあたたかい空気に包まれた。

「できたぞ」

 人数分のカップに甘酒を注いで卓に並べた。

 湯気がゆらゆらと立ち上る。


「「「「「いただきます」」」」」


 全員がそっと口をつける。

「……あ」

 最初に声を上げたのはミソラだった。

「あまい!あったかい!おいしい!」

「ほんとうだ。体がぽかぽかしてきます」

 ユウが頬を緩める。

「酒粕ってもっと酒くさいのかと思ってました。でも、これは優しい味ですね」

「しょうががぴりっとしてて、いいです」

 シオも両手でカップを包んでいる。

 ショーは一口飲んだあとでじっとカップを見つめた。

「……母ちゃんたちに、飲ませたいな」

「そのつもりだ」

 俺は残りの酒粕をちらりと見た。

「明日、店の前でみんなに配ろうと思う」

「配るんですか?」

「新年の振る舞いだ。冬は体が冷える。こういう飲み物がありがたいんだ」

「それは、いい考えですね!」

 シオがぱっと顔を輝かせた。

 ふわりと全員の体が橙色に光った。

『食事効果:全員 全能力アップ』

「あ、光った」

 ミソラが自分の手を見て目を丸くした。

「……酒粕は自分たちで作ったからな。ショッカの根もポルコで自分たちで摘んだ」

「材料を全部自分たちで集めたからですね」

 ユウが納得したように頷いた。

 俺のステータスは今日も+1だ。

 もう、慣れた。


 翌日。一月二日。

 店の前に大きな鍋を出した。

 中身は昨日の十倍の量の甘酒だ。

「新年の振る舞いです!温かい甘酒を、どうぞ!」

 シオが元気よく呼び込みをする。

 ショーとユウがカップを並べてミソラが配る係。

「あまざけ、どうぞ!」

「あまざけ?聞いたことない飲み物だな」

 通りかかった街の人たちが足を止める。

「無料ですよ。体が温まります」

「へえ。じゃあ一杯もらおうかな」

 恐る恐るカップに口をつけた男性が目を丸くした。

「……うめえ。甘くて、あったかくて、ほっとする」

「でしょう?」

「もう一杯、いいか?」

「どうぞ、どうぞ」

 あっという間に噂が広がった。

 通りの端まで長い列ができる。

 ロミさんとナトさんが子どもたちを連れてやってきた。

「ラメルさん、これは何だい?」

「甘酒です。お酒の副産物で作った飲み物で子どもでも飲めます」

「へえ。ほら、アイ、ボル。飲んでごらん」

「……あまい!」

 ボルがカップを両手で持ってごくごくと飲んでいる。

「おいしい!おかわり!」

「ボル、ゆっくり飲みなさい」

「リルちゃんも、ミルちゃんも、どうぞ」

 シオがナトさんの子どもたちにもカップを渡した。

「…………あったかい」

 リルが小さな声で呟いた。

「あまいの!すき!」

 ミルがにこにこと笑う。

 三歳のポロも母親に抱っこされながら、ふうふうと息を吹きかけて少しだけ飲んでいた。

「ぽろ、おいしい!」

「よかったわね」

 ナトさんが優しく頭を撫でる。

 工房を休みにしたリウムさんも無言で行列に並んでカップを受け取っていた。

 一口、飲む。

「…………」

「リウムさん、どうですか?」

「…………悪くない」

 その一言のあとに、さりげなく二杯目の列に並び直していたのを俺は見逃さなかった。


 昼過ぎにはダルクたちも姿を見せた。

「おう、兄ちゃん!甘い飲み物を配ってるって聞いたぞ!」

「ダルクさんはラメル酒のほうが、いいんじゃないですか」

「それは夜だ。昼間は子どもたちと同じ甘酒でいい」

 ダルクは満足そうに一口飲んで、ふぅ、と息をついた。

「……こいつは体の中から温まる。冬の討伐帰りに、飲みてえな」

「店でも冬の間は出せるかもしれないですね」

「そりゃいい!ラーメンのあとに一杯、ってやつか?」

「甘酒は食後の飲み物にもなります」

 店の新メニューがまた一つ増えそうだ。


 甘酒を配り終えて鍋の底が見えてきた頃、一人の老人が杖をつきながらやってきた。

「若いの。わしにも一杯もらえるかの」

「もちろんです。どうぞ」

 老人は湯気の立つカップを両手で受け取ってゆっくりと口をつけた。

 目を閉じてしばらく黙っていた。

「……懐かしい味じゃ」

「懐かしい、ですか?」

「若い頃に遠い国で飲んだことがある。酒蔵の隅で杜氏がこっそり分けてくれた。……あの時は、こんなに丁寧な味ではなかったがの」

 老人はゆっくりと頷いた。

「ありがとうよ。この年になって懐かしい味に会えるとは、思わなんだ」

「こちらこそ、飲んでいただいてありがとうございます」

 老人が去ったあと、俺はしばらくその背中を見送っていた。


 杜氏。

 この世界にも酒蔵はあるのか。

 王都に行けば何か新しい出会いがあるかもしれない。

 振る舞いは夕方まで続いた。

 鍋が空になって片付けを終えたあと。

 店の客席にみんなを集めた。

 シオ、ショー、ユウ、ミソラ。

 そしてロミさん、ナトさん、リウムさん、子どもたち。

「新年の最初の相談です」

 俺は全員の顔を見渡した。

「王都へ、行きます」

 静かに空気が動いた。

「製麺機を作ってもらうためです」

「せいめんき?」

 ロミさんが首を傾げた。

「麺を作る機械です。今はリウムさんたちが手で打っています。でも、これからもっと店が忙しくなれば手打ちだけでは足りなくなる」

「…………」

 リウムさんが静かに腕を組んだ。

「機械に仕事を取られるわけじゃありません。むしろ手間が減った分、リウムさんにはもっと麺の改良に時間を使ってほしいんです」

「…………分かっている」

 低い声が返ってきた。

「…………面白そうだ。前から、そう思っていた」

「ありがとうございます」

「王都までは、どれくらいかかるんですか?」

 ナトさんが尋ねる。

「馬車で二日ほどです」

 俺は説明を続けた。

「今回は、徒歩の旅ではありません。馬車を使います」

「やった!」

 ユウが思わず立ち上がった。

「ユウ、うれしそうだな?」

「だって、今までずっと歩いてましたから……」

「あはは!じゃあ今回はゆっくり景色を楽しめますね!」

 ショーが肩を揺らして笑った。

「出発は一月六日の予定です。往復と滞在を合わせて二週間くらいになるかと思います」

「また、二週間か」

 ロミさんが腕を組む。

「その間の店はロミさんとナトさん、そしてリウムさんにお願いしたいんです」

「任せなさい!」

 ロミさんが胸をどんと叩いた。

「ダルクさんたちが、また寂しがるでしょうけどね」

「今回は二週間以内に必ず帰ってきますので」

「それなら、安心だ」

 ナトさんが微笑んだ。

「…………工房も、守る」

 リウムさんがぽつりと言った。

「頼みます」

 それから俺は懐から一枚の紙を取り出した。

「で、これが製麺機の図面なんですけど」

 卓の上に広げる。

 一同の視線が紙の上に集まった。

 …………沈黙。

「……ラメルさん」

「何だ?」

「これは何の絵ですか?」

「製麺機だ」

「……丸と四角と線ですね」

「そうだ。丸いのがローラーだ」

「こっちのぐにゃぐにゃしたやつは?」

「それは生地だ」

「…………」

 ユウがそっと目を逸らした。

 ショーは必死に笑いを堪えている。

 シオだけが優しく言った。

「……あの、ラメルさん。私も一緒に描き直してもいいですか?」

「……頼む」

 俺は素直に頭を下げた。

 前世の美術の成績はずっと二だった。

 仕方ない。

「こっちは、私がもう少し見やすく描いてみますね」

「僕も、手伝います」

「俺は、横から口を出す係だ」

「ショーは、描くのを手伝ってください」

 ユウの冷静な突っ込みに店内に笑いが広がった。

 ミソラが図面を覗き込んで言った。

「ラメルおにいちゃんの、えって、かわいい!」

「……ありがとう」

 それは、褒められているのだろうか。


 その夜。

 新居の台所で四人が図面を囲んでいた。

 シオが鉛筆を持って俺の説明を聞きながら丁寧に線を描いていく。

「ローラーは二本。向かい合わせに置いて間に生地を通す」

「こんな感じですか?」

「そう。それでハンドルを回すとローラーが回って生地が薄く伸びる」

「歯車で連動させるんですね」

 ユウが図面を見ながら補足した。

「次は麺切りだ。伸ばした生地を細く切る。刃のついたローラーをまた別に用意する」

「刃の間隔を変えれば太さも調整できますか?」

「切り刃を交換できるといいな」

「切り刃?」

「そうだ。櫛の歯みたいに細かい刃が並んでいるんだ。二本のローラーの刃が互い違いにかみ合うように回転して、生地を細く切り分けていく」

「なるほど。刃と刃の隙間を通すことで麺になるんですね」

「その通りだ。刃の間隔が違うものに交換すれば太さも変えられる」

「なるほど」

 シオの手がさらさらと動く。

 意外なほど器用だった。

 孤児院で子どもたちの絵を描いてあげたことがあるらしい。

「できました!」

 数十分後、一枚の図面が完成した。

 丸と四角と線ばかりだった俺の絵とはまるで別物だ。

 歯車の噛み合わせ、ローラーの位置、ハンドルの向き。

 全体の構造が一目で分かる。

「……すごいな、シオ」

「えへへ。ラメルさんの説明が分かりやすかったからです」

「いや、これは俺には描けない」

「じゃあ、お互い様ですね」

 シオがほんのりと頬を赤らめた。


 ミソラはいつのまにか卓の上で眠ってしまっていた。

「寝ちゃいましたね」

「抱っこして、運んでくる」

 ミソラを寝かせたあと一人で台所に戻ってラメル酒の壺を一本取り出した。

 王都のドワーフの親方は酒好きで頑固だという。

 この酒が口に合うかどうかは分からない。

 だが、どうしても気になることがあった。

 今日の甘酒を飲んだあの老人。

『若い頃に、遠い国で飲んだことがある』

 あの人は一体どこの国を旅してきたのだろう。

 この世界に日本酒に近い酒がすでに存在するのだろうか。

 壺をそっと撫でる。

「……会ってみないと、分からないな」

 独り言が台所にこぼれた。

 そのとき背後から小さな足音が聞こえた。

「ラメルさん、まだ起きてるんですか?」

 シオだった。

「ああ。ちょっと、考え事をしてた」

「王都、ですか」

「そうだ。うまくいくか、少し不安でな」

「大丈夫ですよ」

 シオは迷いなく言った。

「ラメルさんはいつだってラーメンのことになると突き進むじゃないですか。それで、全部うまくいってきました」

「……そうか」

「そうです。それに今度は私たちもいますから」

「ありがとう」

「どういたしまして」

 シオはにこりと笑って尻尾を左右に振った。

「おやすみなさい、ラメルさん。明日からは旅の支度ですね」

「ああ。おやすみ」

 台所の灯りを消して窓の外を見上げる。

 雪の夜空に星が瞬いていた。

 王都。

 ドワーフの職人。

 製麺機。


 新しい旅の輪郭がいよいよはっきりと見えてきた。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

第六十六話は、正月と甘酒の回でした。

酒粕を溶かして黒砂糖とショッカの根を加えた、あったかい甘酒。

ミソラもショーやユウの家族たちもすっかり気に入ってくれたようです。

甘酒を飲んだ老人が気になることを呟いていました。この世界にも酒蔵があるのかもしれません。

そして王都行きの宣言と製麺機の図面づくり。ラメルの絵は残念な出来でしたが、シオが見事に描き直してくれました。

次回はいよいよ王都への旅立ちです。雪の街道を馬車で進みます。

よろしければブックマークや評価、感想などで応援していただけるとうれしいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。