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前世で食べ損ねたラーメンを求めて ~追放された俺は『ラーメンWalker』で異世界を無双する~  作者: マトンさん


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第六十二話 マシマシラーメン

 翌朝、俺は工房へ向かった。


 作業場の奥では、リウムさんが黙々と粉をふるっている。

「リウムさん、お願いがあります」

「…………何だ?」

「木灰の麺を、水分少なめで太く打ってもらえませんか」

「…………太く」

「はい。小指の半分くらいの太さで、噛みごたえのある麺を作りたいんです」

 リウムさんは、しばらく黙って自分の指を見つめた。

「…………面白い!」

 短い言葉だったが、その目はわずかに輝いていた。

 どうやら職人の血が騒いだらしい。


 昼過ぎには、試作用の太麺が届いた。

 小指の半分ほどの太さで、表面には少しだけ縮れがある。

 色は鮮やかな黄色だ。

 一本手に取ってみると、ずっしりとした存在感がある。細麺とはまるで別物だ。これなら濃厚なスープにも負けないだろう。

「これを、どれくらい茹でるんですか?」

「七分だ」

「七分!?」

 ショーが目を丸くした。

「細麺は五十秒でしたよね」

「ああ。太麺はその分じっくり茹でる。茹でている間も湯の中でしっかり泳がせるんだ」

 俺は麺を一本持ち上げて、ショーたちに見せた。

「細麺はスープを絡めて、すする楽しさがある。けど今回は違う。野菜の山と一緒に食べるんだ。麺そのものにも、しっかりとした食べ応えが必要になる」

「なるほど……」

 ショーは麺を眺めながら、何度かうなずいた。

 大鍋に麺を入れ、箸でほぐしていく。

 最初は麺同士がくっつかないように、丁寧に箸を通す。やがて麺が湯の中でほぐれ、それぞれがゆっくりと動き始めた。

 湯気の向こうで、黄色い麺がゆらゆらと踊っていた。

 細麺なら、あっという間に茹で上がる。けれど、この太さではそうはいかない。表面だけでなく中心までしっかり火を通す必要がある。

 俺は時折、麺を持ち上げて状態を確かめた。まだ少し硬い。もう少しだ。

 七分という時間は長いようで、仕上がりを考えれば必要な時間だ。中途半端な茹で加減では、せっかくの太麺が台無しになってしまう。

 細麺とは違い、茹で上がるまでに時間がかかる。けれど、この太さが必要なのだ。山盛りの野菜と濃厚なスープに負けない存在感を持たせたい。

 野菜をかき分けて麺を引っ張り出し、口いっぱいに頬張る。そんな食べ方を想像するだけで期待が膨らむ。

 俺はもう一度、鍋の中で踊る黄色い麺に目を向けた。

 麺を茹でている間に、スープの用意に取りかかった。


 今回のスープは豚骨だ。

 ただし、くさうまラーメンとは少し違う。

 まずはポルコで炊いたスープを寸胴に移し、強火にかける。

 そこへ豚の背脂を加える。

 背脂は豚百頭分の脂から、きれいな部分だけを選んで細かく刻んだものだ。

「それを、ぐつぐつ煮るんですか?」

「ああ。スープと脂を混ぜて白く、とろりと乳化させる」

 強火でぐらぐらと沸かす。

 大きな泡が次々と弾ける。

 お玉で底からかき混ぜると、脂とスープが渦を巻きながら一体になっていった。

 ここで、鰹節と干しヌメリ草を加える。豚骨の濃厚な旨味に、魚介の風味を重ねるためだ。

 しばらく煮出すと、鰹節の香りが立ち上り、豚骨の力強い匂いに重なっていく。干しヌメリ草からも旨味が溶け出し、スープに奥行きが生まれていく。

 やがてスープの色が変わり始める。

 白というより、少し濁ったクリーム色。

 表面には細かな脂が溶け込み、見るからに濃厚そうな仕上がりになった。


 次はカエシだ。

 別の鍋に醤油と魚醤を合わせる。そこへ鰹節と干しヌメリ草を加え、さらに砂糖と酒を入れる。

 火にかけてゆっくりと煮詰めていく。

 酒の香りが抜けるまで煮きれば、醤油の塩気と魚介の旨味に甘みが加わった濃厚なカエシの完成だ。

「味が、すごく濃そうです」

「濃くしないと、あの野菜の山に負けるんだ」

 今回は野菜を主役の一つにする。野菜の水分で味が薄まることも考えて、スープにはしっかりとした濃さが必要だ。

 丼にカエシを入れ、出来上がったスープを注ぐ。味見をして、うなずいた。

「……よし。スープは、これでいい」


 次は野菜だ。

 暗室から取り出したもやしは白くて太い。手で持ち上げると、一本一本がしっかりしている。

 ミヤン大球は、まず大きな包丁で半分に割る。

 そのまた半分を、ざくっと切った。

 厚みのある葉が包丁の下で気持ちよく割れていく。切り分けたミヤン大球は、普通のキャベツとは比べものにならないほどの量だった。

 それを湯にさっとくぐらせる。

「どれくらい茹でますか?」

「ミヤン大球は五十秒。もやしは三十秒だ」

「短いですね」

「シャキシャキが命だからな」

 柔らかくなりすぎては意味がない。ミヤン大球の甘みを引き出しながら、もやしと一緒に歯ごたえを楽しめる状態に仕上げる。


 茹で上がった野菜をざるに上げる。

 湯気の立つ緑と白が、山のように積み上がっていく。

「……これを、全部どんぶりに?」

 シオが目を見張った。

「そうだ。高く、高く積む」

「どんぶりから、はみ出しませんか?」

「はみ出すのがいいんだ」

 普通のラーメンなら、ここまで野菜を盛ることはないだろう。だが、今回作りたいのは普通のラーメンではない。丼の上に野菜の山を作るのだ。


 どんぶりに、まずカエシを入れる。

 そこへ熱々のスープを注ぐ。

 乳化したスープは、丼の中でゆっくりと揺れた。表面には細かな脂が浮かび、濃厚な香りが立ち上る。

 そこへ茹で上がった黄色い太麺を、ぐっと沈める。

 そして野菜を、どさっと盛る。

 どさっ。どさっ。どさっ。

 もやしとミヤン大球を交互に重ねていく。丼の縁を越え、さらにその上へ。野菜の山は見る見るうちに高くなっていった。


 最後に大きな豚の塊を、ごろんと一つ。

 厚さは指二本分。

 カエシで煮込んだ柔らかな豚の肩肉だ。

 野菜の頂上にどっしりと乗せると、ようやく一杯の形になった。

 背脂をぱらぱらと振りかける。


「できた」


 俺はどんぶりを持ち上げようとして、手が止まった。

 重い。

 想像以上に重い。




「……ミソラ。これは、ミソラには無理だな」

「えっ?ミソラも残さず食べる!」

「いや、食べるのはミニサイズにしよう」

 ミソラが残さず食べたいと思ってくれるのは嬉しい。

 けれど、さすがにこの量を八歳の子どもに食べさせるわけにはいかない。

 俺は小さなどんぶりを取り出し、野菜の量を調整しながら、同じ見た目になるようミニサイズの一杯を作った。

 その隣には、俺が食べるための大きなどんぶりも用意する。

「じゃあ、名前を決めよう」

「名前?」

「このラーメンの名前だ」

 俺は山のように盛られた野菜を見上げて。

「マシマシラーメン、でどうだ?」

「ましまし?」

「増して、増して。どんどん盛る、という意味だ」

「いい名前です!」

 ショーが目を輝かせて、さっそく箸を握った。


「いただきます!」

 ラメル、シオ、ショー、ユウ。そしてミソラ。全員が目の前の一杯に向き合った。

 箸が一斉に動き出す。

 まずは野菜を崩して、麺を引っ張り出す。

 山盛りの野菜を少しずつ崩していくと、その下から黄色い太麺が顔を出した。

 太い麺を、ずるっとすすった。

「……っ!」

 シオが目を見開いた。

「ぐっと噛める!麺が押し返してきます!」

「スープが濃い!野菜とすごく合います!」

「もやしがしゃきしゃきです!」

「この豚、柔らかい!肉の味がぎゅっとしてる!」

 太麺は噛むたびに小麦の旨味が広がり、濃厚な豚骨スープをしっかりと受け止めている。

 ミヤン大球の甘みともやしの歯ごたえが加わり、ひと口ごとに違う食感が楽しめた。

 誰もが夢中で食べている。

 ミソラは小さなどんぶりに顔を埋めるようにして、麺をすすっていた。

「ましまし、おいしい!」

 ふわりと、体が橙色に光る。


『食事効果:全員全能力アップ』


 野菜も豚も背脂も、みんなで集めたものだ。自分たちの手で集めた材料を使って作った一杯だからこそ、今回も能力アップの効果が得られた。

「……これは、いける」

 箸を動かしながら、ひそかに確信した。

 ただ、一つだけ足りないものがある。

「ニンニの根を入れよう」

「にんにの、ね?」

「刻んで、どんぶりの上にどさっと乗せるんだ」

 俺はニンニの根を細かく刻んだものを残っていた野菜の上にたっぷりと乗せた。

 ひとくち食べる。

「……っ!」

 鼻に強烈な香りが抜けた。

 生のニンニの根の刺激的な香りが、濃厚な豚骨スープと背脂の甘さに加わる。

 野菜のしゃきしゃきとした食感も相まって、味に一気に力強さが生まれた。

「これだ」

 思わず声が漏れた。

 前世で何度も通った。

 行列に並んで食べ終わったあと、しばらく人前に出られない、あの一杯。

「ラメルさん、また泣いてる」

「泣いてない。目にニンニの根が染みただけだ」


 数日後の昼。

 店の黒板に新しい木札を掛けた。

『マシマシラーメン 鉄貨九枚』

『一日二十食限定!』

『ヤサイ・ニンニの根の量は、お好みで』

「ましまし……って、何だ」

 開店と同時に、ダルクたちが入ってきた。

「おう兄ちゃん。聞いたぞ。腹にたまるやつを作ったんだってな」

「はい。お待ちかねの一杯です」

「で、どれくらいだ?」

「ご覧になりますか?」

 厨房からどんぶりを持ってくる。

 カウンターに、どんと置いた。

「……」

 ダルクが固まった。

「…………山だ」

「山ですね」

「どんぶりの三倍はあるぞ」

 野菜が丼から大きくはみ出し、天井に届きそうなほど高く盛られている。

 てっぺんには、ごろんとした豚の塊がどっしりと乗っていた。

「こ、これを……食うのか?」

「食べられなかったら、残しても大丈夫ですよ?」

「馬鹿を言うな!冒険者が残すなんてあるか!」

 ダルクは腕をまくった。

「やってやる」

「では、注文の仕方を説明します」

 俺はにやりと笑った。

「食べる前に必ず聞きます。ニンニの根、入れますか、と」

「ニンニの根?」

「そこで野菜の量とニンニの根の量を答えてください」

「どう答えるんだ?」

「たとえば、こうです」

 俺は大きく息を吸った。

「ヤサイマシマシニンニの根!!」

 店内が静まり返った。

 一拍おいて、爆笑が起きた。

「ヤサイマシマシ……!?」

「ニンニの根!!」

「おもしれえ!それ、やるぞ!」

 ダルクが拳を突き上げた。

「ヤサイマシマシニンニの根!!」

「かしこまりました!」

 どんぶりの上に、さらに野菜がどさっと追加される。

 その上に、刻んだニンニの根がぱらぱらと降る。

「次の方、どうぞ!」

「ヤサイマシマシニンニの根!!」

「ニンニの根、少なめで!」

「ヤサイ、ふつうで!」

「ヤサイマシマシ、豚もダブルで!」

「豚は別料金です!!」

「ええっ、別料金なのか!?」

「当たり前です!お肉を増やすんですから!」

 ショーの威勢のいい返事に、店内からどっと笑いが起こった。

 店内は注文の声と笑い声に包まれ、ますます活気づいていった。


 ダルクは山に挑んでいた。

 野菜を崩す。麺を引っ張り出す。

 箸を止めない。

「うめえ……うめえ……でも、まだ終わらねえ……」

 額に汗が浮かんでいる。

「ダルクさん、無理は」

「いや、まだだ。ここで引き下がれるか」

 野菜が減っていく。

 麺が見えてくる。

 山の頂上にあった豚も、いつの間にか半分ほどになっていた。

 最後の一本まで、すすった。

「…………」

 ダルクはどんぶりを、とんと置いた。

「…………完食、だ」

「おおおおお!」

 店内が割れんばかりの拍手に包まれた。

「やった!ダルクさんがやったぞ!」

「すげえ!」


 ダルクは額の汗を拭きながら、満足げに笑った。

「兄ちゃん。……これは腹にドンと来たぜ」

「ありがとうございます」

 ふわりと、体が橙色に光る。

「……力がみなぎる」

「食事効果です。数時間で消えます」

「十分だ。今日は討伐に行けそうだ」

 ダルクはそう言って、拳を握った。


 昼の二十食は、あっという間に売り切れた。

「もうないのか!」

「明日もあるか!」

「毎日、昼だけ二十食です!」

 シオが声を張った。

「やったー!」

 厨房ではショーとユウが野菜をひたすら切っている。

 リウムさんは黙って太麺を茹でている。

 ミソラはニンニの根を刻む係だ。

「やさいましまし、ニンニの、ね!」

 小さな手で一生懸命包丁を動かしている。もちろん、ラメルがそばについて安全を確かめていた。

「ミソラ、指を切らないようにな」

「だいじょうぶ!」


 その日の売り上げは、いつもの昼の倍を超えた。

 帳簿を見つめて、ほっと息をつく。

 ミヤン大球五百玉で貯えはほぼ底をついた。

 だが、これならすぐに取り返せそうだ。

「……ラーメンは人を元気にするな」

 小さく呟いて、どんぶりを洗い始めた。


 その夜、店の片隅でミソラが紙に何かを書いていた。

「ミソラちゃん、何を書いてるの?」

「てがみ。ミネおばあちゃんに」

「何て書くの?」

「えっとね。『ましましらーめんを たべました』って!」

「それから?」

「『ヤサイマシマシニンニのね!!って いうと、おいしいよ』って」

 シオがくすりと笑った。

「それ、ミネおばあちゃんが読んだらびっくりしますよ」

「えへへ」

 ミソラは満足そうに手紙を畳んだ。

 窓の外で冬の風がそっと窓を揺らしている。

 店の看板が、きい、と軽い音を立てた。

『銀の耳の食卓』

 くさうまラーメンに、マシマシラーメン。


 俺の店は、また一つ大きくなった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

第六十二話は、ついにマシマシラーメンの完成回でした!

リウムさんの木灰かん水で打った極太麺に、背脂入りの濃厚な豚骨スープ。

そこへミヤン大球とズンダ豆もやしを山のように盛り、仕上げには大きな豚の塊!

そして忘れてはいけないのが、ニンニの根です。

店では「ヤサイマシマシニンニの根!!」という注文のお約束も誕生しました。

ダルクも見事に山盛りの一杯を完食!

大球五百玉の買い付けで貯えはほぼ底をつきましたが、初日の売り上げは上々。

これなら何とか取り戻せそうです。

ミソラもマシマシラーメンを気に入った様子。

ミネおばあちゃんはどんな感想を書くのでしょうか。

次回もよろしくお願いします!

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