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前世で食べ損ねたラーメンを求めて ~追放された俺は『ラーメンWalker』で異世界を無双する~  作者: マトンさん


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第五十九話 ホロ村の豚骨宴

 ポルコを出て、三日目。


 草原の穂は、すっかり銀色に変わっていた。

 風は冷たく、空はどこまでも高い。

「あ、ひつじ!」

 ミソラが遠くの白い点を指差した。

 その先には、羊の群れと一緒に歩く見覚えのある人影があった。

 行きに出会った、あの羊飼いのお爺さんだ。

「おや、あの時の旅の人たちじゃな」

「お爺さん、お元気ですか?」

「見てのとおりじゃ。ポルコの豚は食べてきたかい?」

「はい。とってもおいしかったです」

「そうかそうか。あそこの豚はうまいじゃろう」

 お爺さんは満足そうに頷き、俺たちの顔を順番に見回した。

「それにしても、ずいぶん賑やかになったのう」

「はい。旅の仲間も増えました」

「それはよかった。旅は道連れというからの」

「めえぇぇ!!」

 あの時の子羊が、ミソラの足元に駆け寄ってきた。

「あ、あのこ!」

 ミソラが、きゅっと抱きしめる。

 子羊は、ちょっぴり大きくなっていた。

「覚えていてくれたのかのう」

「うん!会いたかったよ!」

 ミソラが頬を寄せると、子羊も甘えるように小さく鳴いた。

 その様子に、お爺さんも目を細めて笑った。

「良けりゃ、また羊の乳を飲んでいきなされ」

「いいの?」

「もちろんじゃ。せっかく会えたんじゃからな」

 ミソラは嬉しそうに顔を上げ、俺たちを振り返った。

「ラメルおにいちゃん、飲んでもいい?」

「もちろん。せっかくだから、ご馳走になろう」

 俺がそう答えると、ミソラは子羊をもう一度ぎゅっと抱きしめた。

 ミソラは子羊に顔を埋めたまま、何度も頷いた。


 帰り道を歩きながら、俺はラーメンボックスの中身を確かめていた。

 豚百頭分の骨と肉と脂。

 それから、ポルコを出る前に炊き込んでおいた白濁スープの寸胴鍋三つ分。

 まるごと収納してあるので、ボックスの中では出来たてのままだ。

 麺も、自分用の麺の素を使って極細麺をたっぷり打ってある。

 薬味も、紅ショッカとカラチタカの葉を十分な量だけ用意した。

 これだけあれば、ホロ村のみんなにも存分に豚骨ラーメンを楽しんでもらえるはずだ。

「ラメルさん、ずっとボックスを見てるですね」

 シオがくすくす笑った。

「ホロ村のみんなにも、食べてもらうんだ」

「みんなへのお土産ですね」

 ショーとユウも、嬉しそうに頷いた。

「きっと、みんな驚くぞ」

 俺はボックスの中に並ぶ寸胴鍋を思い浮かべ、自然と頬が緩んだ。


 ホロ村に着いたのは夕方だった。

 丘の上から見ると、畑はすっかり収穫を終えていた。

 藁の山と、掘り返された黒い土。

 あの日、タスクボアに踏み荒らされた畑の隅にも、新しい芽が顔を出している。

「……父ちゃん!」

 ショーが真っ先に駆け出した。

 畑の端で藁を束ねていた大柄な男が、顔を上げる。

「おう、ショー!」

 モロさんは笑いながら両腕を広げた。

 今度はしっかりと受け止めて、のけぞらなかった。

「約束どおり、来たよ!」

「十日と言ってたが、ちょうどだな。よく帰ってきた」

 モロさんはショーの肩をばしばしと叩いた。

「ラメルさんも、皆さんも、帰ってきてくれてありがたい」

「約束でしたから。今夜も泊めていただいていいですか?」

「もちろんだ。芋はたっぷりある」

「それと、村の皆さんに食べていただきたいものがあるんです」

「ほう?」


 村の広場に、大きな寸胴を三つ並べた。

 ラーメンボックスから取り出したスープは、白くてとろとろだった。

 火にかけて温めると、独特の香りが広場いっぱいに広がった。

「……うっ、くさい!」

「なんだ、この匂いは!」

 家々から出てきた村人たちが、鼻をつまんでいる。

「獣がどこかで煎られとるみてえだ」

「でも……不思議と腹が減るな」

「そうだな……どうしてか、腹が鳴った」

 ホルン爺さんが杖にもたれながら、鼻をひくつかせている。

「こりゃあ、すごい匂いじゃのう……でも、何とも言えん、いい匂いじゃ」

「ですよね。これが豚骨ラーメンです」

 俺は極細麺を茹ではじめた。

 シオとユウがどんぶりを並べていく。

 ショーとペコは、紅ショッカとカラチタカの葉を小皿に盛っていた。

「どうぞ。豚骨ラーメンです」

 どんぶりを受け取った村人たちは、恐る恐る麺をすすった。

「……うまい!」

「細い麺で、スープがよく絡む」

「濃いのに、いくらでも飲める!」

「くさいけど、うまい!」

「くさい!おいしい!」

 その声を聞いて、ゆっくりと顔を上げた。

 ミソラだった。

「これ、『くさおいしい』っていうんだよ!」

「くさおいしい?」

「くさいけど、おいしい。だから、くさおいしい!」

 ミソラはどや顔で胸を張った。

「『くさおいしい』だ!」

「『くさおいしい』!」

 村の子どもたちが、あっという間に真似を始めた。

「くさおいしい、くさおいしい!」

「くさおいしい!」

 広場中に、元気な大合唱が響き渡った。

「……くさうまの仲間が増えたな」

 シオがくすくす笑った。


「麺がなくなった」

 誰かが、どんぶりをのぞき込んで言った。

「そこで、替え玉です」

「かえだま?」

「麺だけ追加できるんですよ」

「こりゃあ、いい!おれにも替え玉を!」

「わしにもくれ。腹が躍るのう」

 ホルン爺さんも、空のどんぶりを差し出した。

「爺さん、食べすぎですよ」

「うるさい。わしを誰だと思っとる」

 ペコが笑い、広場が沸いた。

「俺も替え玉だ!」

「こっちにも頼む!」

 あちこちから声が上がり、俺は次々と麺を茹でることになった。

 どうやら、替え玉の仕組みも気に入ってもらえたらしい。

 そのとき、ふわりと村人たちの体が橙色に光った。

「おおっ!」

「体が軽い!」

「食事の効果です。数時間で消えます」

 村人たちは自分の腕を動かしたり、足踏みをしたりして、体の変化を確かめている。

 モロさんも、自分の手をじっと見つめていた。

「……これを、毎日食っているのか。この子らは」

「はい。毎日です」

 ショーが誇らしげに答えた。


 宴が落ち着いたあと、モロさんの家で囲炉裏を囲んだ。

「父ちゃん、お土産だよ」

 ショーが背負い袋から小さな包みを取り出した。

 中には、紅ショッカとカラチタカの葉の瓶が入っている。

「ポルコって街で見つけたんだ。難しいことはいいから、食べてみて。おいしいよ?」

「……お前が、作ったのか?」

「いや、これはラメルさんが……でも、俺も薬味を摘んだし、骨も割ったよ」

 モロさんは顎をこすった。

「そうか。そうか。……立派にやっとるな」

 それからショーは、街の話をたくさんした。

 ミヤンの店の話。母ちゃんの話。アイとボルの話。

 モロさんは何も言わず、ニコニコと聞いていた。

「ねえ、父ちゃん」

 ショーがふと、声を落とした。

「寂しくない?」

「寂しいかと聞かれりゃ、寂しいさ」

 モロさんはあっさりと言った。

「だが、お前たちがこうして元気でいる。それで十分だ」

 窓の外で、星が瞬いていた。

「でも、来年の収穫には、みんなで帰るから」

「おう。待っとる」

 モロさんは部屋の隅から、小さな包みを二つ取り出した。

「これを、アイとボルに渡してくれ」

 開けてみると、木で彫った小さな髪飾りと、ぶさいくな豚の木彫りが入っていた。

「……豚?」

「あの子、豚が好きだって手紙に書いとったでな。できばえは、ちっと悪いが」

 モロさんは頬を赤くして、そっぽを向いた。

「ありがとう。きっと喜びますよ」

 俺は木彫りを大切にしまった。


翌朝。

村の入り口に、村人たちが集まっていた。

昨日の宴に来ていた人たちだけでなく、畑仕事に出る前の村人や子どもたちまで顔を見せている。

「また、くさおいしいの、食わせてくれよ!」

「『くさおいしい』!」

子どもたちが手を振りながら叫んでいる。

大人たちも笑いながら手を振り、口々に声をかけてくれた。

「昨日はごちそうさん!」

「替え玉ってのは、いいもんだな!」

「今度は、もっと腹を空かせて待っとるぞ!」

「ありがとうございます。また機会があれば、ぜひ!」

俺が手を振り返すと、村人たちから笑い声が上がった。

ペコがショーとユウの前に歩み出て、拳を突き出した。

「今度こそ、俺も強くなって追いつくからな!」

「うん、待ってる!」

「俺だって負けないぞ!」

ショーが拳を合わせると、ユウもその横に拳を重ねた。

「次に会うときは、もっと強くなってるからね!」

「おう!そのときは一緒に冒険しようぜ!」

三人は顔を見合わせ、笑い合った。

モロさんがショーの頭に手を乗せた。

「母ちゃんによろしくな!」

「うん。父ちゃんも元気でね!」

「おう。こっちは心配いらん。畑もあるし、村のみんなもいる」

モロさんはショーの頭をくしゃりと撫でた。

「それに、来年の収穫には帰ってくるんだろ?」

「もちろん!みんなで帰ってくるよ」

「そうか。楽しみに待っとる」

ショーは少し名残惜しそうに父親を見上げたが、やがて大きく頷いた。

俺はモロさんに頭を下げた。

「ありがとうございました。」

「気をつけてな。風邪をひかんように」

「はい。モロさんもお元気で!」

モロさんはにかっと笑った。

最後にもう一度、ショーの肩をぽんと叩く。

「行ってこい。みんなが待ってるぞ!」

「うん!」

俺たち五人は、村人たちに見送られながら東へ向かって歩き出した。

振り返ると、モロさんもペコも、村人たちもまだ手を振っていた。

その姿が小さくなっていくまで、俺たちは何度も手を振り返した。

豚骨ラーメンを作って、ポルコの街で豚を食べて、ホロ村でもみんなと笑った。

短い滞在だったが、ここでも新しい思い出ができた。

「あと三日で、ミヤンだ!」

ダルクと、ロミさんと、ナトさんと、リウムさん。

銀の耳の食卓のみんなが、待っている。

「早く、豚骨を食べさせたいな」

「みんな、驚くと思いますよ」

シオがわくわくした表情をしている。

ショーとユウも、ミヤンで待つ家族や仲間の顔を思い浮かべているのか、足取りが軽かった。

ミソラも俺の隣で、楽しそうに鼻歌を口ずさんでいる。

帰る場所がある。待っていてくれる人たちがいる。

そう思うと、自然と足取りも軽くなった。


秋の空は、どこまでも高かった。

 ここまでお読みいただきありがとうございます!

 第五十九話は、帰り道のホロ村で豚骨ラーメンの宴を開く回でした。

 スープはポルコでストック済み。村人たちも、ミソラの「くさおいしい」に大喜びでした。

 モロさんには、紅ショッカとカラチタカの葉のお土産。

 そして、アイとボルには手作りの贈り物を。

 次回、いよいよミヤンへ帰還です。ダルクたちは、どんな顔をするのでしょうか。

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