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前世で食べ損ねたラーメンを求めて ~追放された俺は『ラーメンWalker』で異世界を無双する~  作者: マトンさん


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第六話 指一本

 ウルフたちが一斉に俺のほうを向いた。


 鋭い眼光。唸り声。

 三頭から放たれる殺気に、全身の毛が逆立った。

 怖い。めちゃくちゃ怖い。


 けれどもう後には引けない。俺は棒を振りかぶって——。

 その瞬間全身がふわりと橙色に光った。

 頭の中で雑誌のページが猛烈な勢いでめくられる。


『ラーメンWalker:発動』


 体が勝手に動いた。

 折れかけの棒が手の中でぽきりと砕けた。

 しまった。武器が——。


 そう思う間もなかった。

 棒の破片を気にする暇もなく、俺の右手の人差し指がまっすぐ前へ伸びる。

 そして、先頭のウルフの額に。


 ぽすっ。


 ただそれだけだった。


 ウルフの体がぴたりと止まる。

 そして次の瞬間、まるで見えない刃物で切り分けられたかのように解体された状態で地面に転がった。

「……え?」


 俺は自分の人差し指をまじまじと見つめた。


 何が起きた?


 残りの二頭が驚いたように後ずさる。

 俺も驚いていた。

 でも体は止まらない。


 二頭目の頬に。

 ぽすっ。


 三頭目の脇腹に。

 ぽすっ。


 ずしん。ずしん。


 あっという間だった。


 三頭のウルフが倒され、きれいに解体された状態で地面に転がっていた。


「…………」


 静寂。

 木々のざわめきだけが森に響く。


 俺はぽかんと口を開けたまま立ち尽くしていた。


 ……俺、指一本でウルフを倒した?


 しかも、なぜか解体されてるし…???

 さっきまでスライム一匹に三十分もかかっていた男の所業とは思えない。


 ふと目の前に新しい表示が現れた。

『ウルフ(骨・肉・脂)をラーメンボックスに収納しますか?』

「……します」

 思わず答えていた。


 三頭分の肉や骨が光の粒になって俺の手元に吸い込まれていく。

 一瞬で跡形もなく消えた。


 なるほど。

 ラーメンの材料になる魔物は、倒すと解体されて現れるらしい。

 しかも、そのまま収納までできる。


「これが……『ラーメンWalker』の力……!」

 適性のある敵なら指一本でも倒せる。


 スライムには何の効果もなかったのに。


 とんでもないスキルだ。

 ただし、ものすごく偏っている。


 魔物なら何でも倒せるわけではない。

 あくまでラーメンの材料になる相手に限られるのだろう。

 それでも、使い方次第ではとんでもない武器になる。


「あ、あの……」

 背後からか細い声がした。


 振り向くと獣人の少女が地面にへたり込んだまま俺を見上げていた。

 大きな金色の瞳が涙で潤んでいる。

「た、助けて……くれたの……?」

「ああ、うん。怪我はない?」

「ない……です。ありがとう……」


 そこで彼女のお腹がぐううううと盛大に鳴った。

 少女は真っ赤になってお腹を押さえた。

 耳がぺたんと伏せられている。


「ご、ごめんなさい。三日も何も食べてなくて……」

「三日!?」


 痩せているのも頬がこけているのも当然だ。

 こんな状態で、あのウルフ三頭に襲われていたのか。


「私、犬獣人のシオっていいます。隣の獣人の国から来たんです」

 犬獣人の少女――シオは、ぽつりぽつりと語り始めた。

 彼女の故郷は国境の向こうにある獣人たちの国。

 そこで孤児として育った彼女は故郷の特産品を王国で売るために一人で旅をしてきたのだという。


「特産品?何を売りに来たの?」

「これです」

 シオは背負っていた麻袋の口を開けた。


 中には白くて細かい粉がぎっしりと詰まっていた。

「重曹っていうんです。国の洞窟で採れる白い粉で……」


 ……重曹。

 俺の動きが止まった。


「獣人の国ではお掃除に使うくらいしか使い道がなくて…。でも、王国なら高く売れるかもしれないって村のみんなが言うから……」

 シオは俯いた。

「でも全然売れなくて。街の人は『こんな粉何に使うんだ』って。もうお金も食べ物もなくなっちゃって途方に暮れていたらウルフに……」

 彼女の瞳からぽろりと涙が落ちた。

 

 けれど、俺にはその涙がほとんど目に入っていなかった。


 重曹。


 重曹だ。

 ベーキングソーダ。炭酸水素ナトリウム。

 加熱すれば分解して性質が変わる。


 炭酸ナトリウム、つまり——。


 中華麺には欠かせないかん水の代用品になる。


 十五年間。

 あれほど探し求めても手に入らなかった魔法の素。

 その原料が今目の前の袋いっぱいに詰まっている。


「……ついに見つけた」

「え?」


 俺はシオの両肩をがしっと掴んだ。


「俺は、君を求めていたんだ!」


「……え?」


「ずっと探していたんだ!君のような人を!君がいなければ俺は何も始められなかった!」


「えええ……?」


 シオの顔がみるみる赤く染まっていく。

 耳がぴょこぴょこ動き、尻尾がぶんぶんと左右に揺れ始めた。


「そそんな初対面なのに……わ、私そういうの慣れてなくて……!」


「大丈夫!これからずっと一緒にいてほしい!全部買い取るから!」


「ぜ全部……!?わ、私を……!?」


「その粉を!」


「……こ、こな?」


 シオの顔から赤みがすうっと引いていった。


 ……あ。


 やってしまった。


 そう気づくのに、数秒かかった。

お読みいただきありがとうございます!!

ついに『ラーメンWalker』の真価が発揮されました!

まさか指一本でウルフを解体してしまうとは……。

ラーメン適性、恐るべし!

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