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前世で食べ損ねたラーメンを求めて ~追放された俺は『ラーメンWalker』で異世界を無双する~  作者: マトンさん


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第五話 木の棒と★★★

 街道を歩き始めて二時間ほどが経った頃だった。


 道の脇の草むらがぷるんと揺れた。

 半透明の青いゼリー状の塊。中心には赤く光る小さな核。


「……スライムだ」


 この世界の定番最弱の魔物。

 子どもでも棒きれ一本で追い払えると言われている。

 俺は足元の木の枝を拾った。

 武器はない。

 

 母がくれた鍋は「ラーメンボックス」にしまってある。

 念じるだけで鍋が虚空に吸い込まれたときは思わず感動してしまった。異世界の便利機能、恐るべし。


 視線をスライムに向ける。

 何も表示されていない。

 ラーメン適性の星がゼロ。

 つまりこいつはラーメンの材料にならない。


「まあスライムだしいけるだろ」

 それが甘かった。


 木の棒でぼこっと殴る。

 ぷるんと跳ね返される。


 もう一度。

 ぼこっ!ぷるん。


 さらにもう一度。

 ぼこっ!ぷるん。


 ……何だこの生き物。防御力がおかしくないか?


 十回殴っても二十回殴ってもスライムはびくともしなかった。

 体の表面がへこんで元に戻るだけだ。


「くそ核か!核を潰さないと……!」


 スライムの体内で赤い核がゆらゆらと泳いでいる。

 そこを狙わないと倒せないのだ。

 けれど、ぷるぷるの体が邪魔で棒がなかなか届かない。

 しかも、俺のステータスはほぼ初期値。

 いや、初期値というより運動不足の青年がいきなり魔物と戦わされている状態だ。

 ゲームならチュートリアルで説明されるところだろう。

 だが、この世界には親切な案内役もやり直しボタンもない。


 三十分後。

「はあ、はあ、はあ……」

 俺は街道の真ん中で大の字になっていた。


 木の棒はぼろぼろ。

 腕はぱんぱん。

 全身から汗が噴き出している。


 たった一匹のスライムを相手に、俺の体力はすでに限界だった。

 だがしかし、スライムはまだそこにいた。

 ……いやさっきとは少し様子が違う。

 核がほんの少し俺の方へ近づいていた。


「今だっ!」

 最後の力を振り絞って棒を突き立てる。

 ぱきんと乾いた音がして核が砕けた。


 スライムの体が水のように崩れて地面に染み込んでいく。

「……勝った」

 勝った。勝ったのだが、どうしてだろう。

 まるで強敵を倒したような達成感がない。

 いや、違う。強敵ではなかった。

 俺が弱すぎただけだ。

 たかがスライム一匹でこの疲れようだ。


 俺はようやく理解した。

 このスキルはラーメンの適性がない相手には全く力を貸してくれない。

 そして俺自身は本当にただの最弱だ。


「……冒険者を名乗るのは無理だな」


 空を見上げて俺はため息をついた。

 この先、魔物と遭遇するたびにこんな思いをするのか。

 そう考えると旅立ったばかりだというのに帰りたくなってきた。


 いや、帰る家はもうないのだった。

 ……はあ。


 しばらく休んで立ち上がった時だった。

 遠くから悲鳴が聞こえた。


「きゃあああっ!」


 高い少女の声。

 森の方角だ。

 俺は反射的に走り出した。

 ……がすぐに足を止めた。


 行ってどうする。

 武器は折れかけの木の棒。

 相手はおそらく魔物。

 さっきスライム一匹で疲れ果てた俺が人を助けられるのか。

 正義感だけで飛び込んだところで、助けるどころか自分まで食われるのがオチだ。

 躊躇している間にも悲鳴は続いている。

 俺は木陰からそっと様子をうかがった。


 森の入り口。

 大きな黒いウルフが三頭。

 牙をむき出しにして一人の少女を取り囲んでいる。

 少女は獣人だった。

 銀色の髪。同じ色のぴんと立った三角の耳。

 腰から伸びるふさふさの尻尾。

 背中には大きな麻袋を背負っていてそれを抱きしめるようにして震えている。


 痩せていた。

 服は擦り切れ頬もこけている。


「やだやだ……こないで……!」

 三頭のウルフがじりじりと間合いを詰める。


 助けなければ。そう思った。

 けれど足が動かない。

 あれはウルフだ。

 冒険者でも複数で挑む魔物。

 今の俺では一頭相手でも絶対に勝てない。


 ……そう思っていた。


 その時、視界の端に見慣れない光が灯った。

 ウルフたちの頭上に星が浮かんでいたのだ。


 ★★★


『ラーメン適性:ウルフ(骨・肉・脂)★★★』


「……適性あるのか?」


 スライムには星が出なかった。

 でもこいつらには三つも。

 ということはラーメンの材料として適した食材。


 骨。肉。脂。


 スープの出汁に使える骨。旨味を生み出す肉。コクを与える脂。

 頭の中でまだ見ぬラーメンの姿が浮かびかけた。

 しかも、適性は最高評価の三つ星。

 これは見逃せない。絶対に見逃せない。


 少女がいる。

 ウルフが三頭いる。

 俺の手には折れかけの木の棒。


 普通に考えれば、逃げるべき状況だ。

 だが、俺の頭の中ではすでに別の問題が持ち上がっていた。


 この肉はどんな味がするのだろう。

 骨からはどれほど濃厚な出汁が取れるのだろう。

 脂の具合はどうだろう。


 「……いや、今はそれどころじゃないだろ!」


 自分で自分にツッコむ。

 そうだ。目の前には助けを求める少女がいる。

 まずは彼女を助けなければ。


 ……ついでに、食材も確保できれば最高だ。


 いや、違う。人命優先だ。人命優先!

 俺は木の棒を握り直した。

 勝てる保証なんてない。

 むしろ、負ける可能性のほうが圧倒的に高い。

 それでも。

 目の前で誰かが襲われているのを見捨てるわけにはいかない。

 そして、三つ星の食材を目の前にして逃げ出すなんてラーメン好きの名が廃る。


「うわあああああっ!!!」


 木の棒を握りしめて、俺は茂みから飛び出した。

お読みいただきありがとうございます!!

スライム一匹に三十分もかかったラメル。

果たして、ウルフ三頭を相手に生き残れるのか!?

そして、ラーメン適性★★★のウルフ!

骨に肉に脂……これはもう、濃厚なスープが期待できそうですね!

ラメルの異世界ラーメン生活は、まだまだ始まったばかりです。

次回もよろしくお願いいたします!!

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