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前世で食べ損ねたラーメンを求めて ~追放された俺は『ラーメンWalker』で異世界を無双する~  作者: マトンさん


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第四話 父の宣告

 屋敷に戻った俺は広間に呼び出された。


 大理石の床。燃える暖炉。

 長い食卓の奥に父が座っている。

 その背後には剣と盾の紋章が掲げられていた。

 父は俺を見もせずに言った。


「ラメル。神殿での件は…」

「父上、あのスキルは——」

「黙れ」

 低い声が広間を凍らせた。


「ラーメンとやらが何かは知らん。知る必要もない。我が家は代々剣と魔法で王国に仕えてきた。能力なき者は家を継げん。それがこの世界の貴族の理だ」

「ですが父上。あのスキルには無限に収納できる箱や食材の場所を示す地図が——」

「収納?地図?どちらも冒険者の端くれが持つ程度の力だ。しかも貴様のそれは『ラーメン』とやらにしか使えんのだろう。役に立たん」


 父はようやく俺を見た。その目に親としての情は欠片もなかった。

「十五年もの間、厨房で遊び呆けた貴様を我が家は見逃してきた。それも今日までだ」


 ……ああ、そうか。

 父にとって俺は最初から見込みのない息子だったのだ。

「本日をもって貴様を我が家から追放する。家名を名乗ることも屋敷に立ち入ることも許さん。明朝までに出ていけ」


 その瞬間、俺はこの家の人間ではなくなった。

 俺は頭を下げるしかなかった。

 反論の言葉はいくらでもあった。

 けれどこの世界では能力が全てだ。

 ラーメンを知らない人間にラーメンの価値を説明しても石に向かって話しているのと同じだ。


「……承知いたしました」


 それだけ言って俺は広間を出た。


 夜。

 荷物をまとめる俺の部屋に扉を叩く音がした。

 母だった。


 昼間神殿でも広間でも一言も俺を庇わなかった母。

 扇で顔を隠して父の隣に座っていた母。

「……ラメル」


 母は部屋に入るなり扉を閉めた。

「あなたは家の恥です。あの場で父上に逆らわなかったのは賢明でした」

 冷たい声だった。胸の奥がきしむ。

 やはり母も父と同じなのか。


 そう思った俺の手に、母は小さな布包みを押し付けた。

 ずしりと重い。

 開けてみると金貨が十枚ほど入っていた。

 そしてその下に古びた小さな鍋があった。

 見覚えのある鍋だった。


 俺が五歳の頃初めて厨房に忍び込んだ時に使ったあの鍋だ。

 捨てられたとばかり思っていた。


「母上これは……」

「勘違いしないで。恥さらしを野垂れ死にさせては家の名に傷がつくだけのこと」


 母はぷいと横を向いた。

 扇を握る手が小さく震えていた。


「……厨房の夜の灯り。あなたが何を作ろうとしているのか、私には少しも分かりませんでした」

 母はそこで言葉を切った。

「けれど、あなたが諦めない子だということだけは知っています」

 その声は先ほどまでの冷たさとは違い、どこか震えていた。


「生きなさい、ラメル」


 母はそう言い残して部屋を出ていった。

 振り返らなかった。

 半分は敵。半分は味方。


 ひどく不器用な人だ。

 ……ありがとう母上。


 俺は古い鍋をそっと抱きしめた。

 金貨よりも、その鍋のほうがずっと重く感じられた。

 夜明け前。

 屋敷の門の前に二つの小さな影があった。

 弟と妹だった。


「にいさま!」

 駆け寄ってきた二人を門番が槍で遮った。

「お通しできません。旦那様のご命令です」

「どいて!にいさまが!」

「ラメル兄様!行かないで!」

 弟は必死に門番の腕を引っ張った。


 けれど、まだ子どもの力ではびくともしない。

 妹はその場に座り込んで涙をぽろぽろとこぼしていた。


 二人には何の力もない。

 父に逆らうことも俺を引き留めることもできない。

 それでも泣きながら俺の名前を呼んでくれる。


 俺は門の前にしゃがみこんで二人の頭を撫でた。

「大丈夫。兄ちゃんは死なない」

「……にいさま、ラーメンもうたべられない?」

 妹がしゃくり上げながら言った。

「おいしくなかったけど、またたべたかったのに」

 胸が締めつけられた。


 俺は笑ってみせた。

「いいや。今度は本物を作る。ちゃんとおいしいやつを。それをいつかお前たちに食べさせに帰ってくる」

「ほんとう?」

「約束だ」

 二人は涙でぐしゃぐしゃの顔のままこくりと頷いた。

 この約束だけは何があっても守ろう。


 朝日が街の石畳を橙色に染めていた。

 屋敷の門が背後で重い音を立てて閉じる。

 俺は母がくれた鍋を片手に見知らぬ街道へ一歩を踏み出した。


 その時だった。

 視界の端がふっと光った。


 いつもはほとんど灰色にかすんでいた頭の中の雑誌がぱらぱらと勢いよくめくられる。


 街道の先。

 森の方角。


 薄く光る線が地図のように広がっていく。


 木々の間にいくつもの星のマークが浮かんだ。


『★★★ ―― 森の奥』

『★★ ―― 街道沿いの川』


 ラーメンマップだ。

 屋敷の庭では役に立たない光の線だった。

 けれど家の外に出た今それははっきりとした「道」になって俺の足元から伸びている。


『Walker:歩く』


 歩くだけと笑われたあのスキル。


 ……ああそうか。

 歩けば歩くほど。

 進めば進むほど。

 この世界のラーメンの素材が俺の前に姿を現すのだ。


 俺は自分の足元から伸びる光の線を見つめた。

 誰も価値を認めなかったスキル。

 けれど、俺には分かる。

 これは、俺が夢にまで見た一杯へと続く道なのだ。

 俺は小さく笑った。


 追放された。家を失った。家名も奪われた。


 でも、今の俺には無限に入る箱と星の付いた地図と古い鍋がある。


「——行くか」


 誰もいない街道で俺は一人呟いた。


 この世界にラーメンを広めるために。

 あと三人で食べ損ねたあの一杯をこの世界で取り戻すために。


 俺の長い長い「歩き」の旅が始まった。

お読みいただきありがとうございます!!

ついに家を追放されたラメル。

それでも、母から受け取った古い鍋と弟妹との約束を胸に新たな一歩を踏み出します。

そして、ついに動き始めた『ラーメンWalker』

果たして、ラメルはこの世界で理想の一杯を作ることができるのか!?

次回もよろしくお願いいたします!!

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